第13話 壁を壊す!
「う……」
暗転した後、再び目を開けると、二人の少女が心配そうな目で俺の前に居た。
「……目があいた」
「本当だ! 良かったですーっ!」
目の前に居たのは、ルーネとテーネだった。
横にはネビアも座っていた。
「フィアン、傷が完治して元通りになってますね」
ネビアにそう言われ、自分の身体を触った。
すると、突かれた傷は綺麗に無くなっていた。
一瞬夢だったのかとも思ったが、生々しく破れた服がそうでは無い事を実感させた。
ネビアも五体満足になっている。
理由は分からないが、本当に良かった……。
「ん?」
ふと横を見ると、一本の剣が落ちていた。
それは全長80cm程で剣身は片刃でシミターの様に湾曲しており、先端は細くとがっている。
またクロスガードから柄先まで細めの護拳がついており、カトラスなどを思い浮かばせる形状だ。
色は剣先から柄先まで深い漆黒色で艶が無い状態だ。
俺はその剣を手に取った。
すると、ルーネが慌てて、
「フィアンさん、ダメです! それに触れては……!」
と言ってきた。もうすでにがっつりと手に持ってしまっているが……。
「この剣、シャドウナイトが持っていた奴か。全体がざらついているな……鉄の錆びた部分を触っている気分だ」
「いや、え? フィアンさん何ともないですか?」
「ざらざらしてるなーとは思うけど……」
「おかしいですね、ルーネが持った時は凄く闘気を吸われたのですが……」
それを見ていたネビアが僕にも持たせてくださいと言ったのでそのまま手渡した。
すると……
「うわ……これは! 凄い勢いで闘気を吸われます!」
ネビアがそう言いながら剣を手放した。
「言われてみるとそうだな。あまり何も感じないのは闘気が多いおかげかな?」
俺は再度その剣を手に取り素振りをしてみた。
「流石に5歳の俺が持つには少し大きいけど、いい感じだ。強度も高そうだ」
身長が120cmもない俺が80cm程の剣を持つと、まるで大剣を持っているような姿になっていた。
「そんな大きな剣、よく片手で振り回せますね……」
ネビアは俺を見て感心していた。
「というか、ルーネ達は何でこんな場所に居るんだ!?」
俺は思い出したかのように二人がここにいる事への疑問をぶつけた。
「二人が心配で出てきた」
テーネがそう言うと、ルーネが補足するように、
「大きな音が鳴った後、瘴気が薄くなったので見に来たんですっ!」
と言った。
確かに、とてつもなく濃い瘴気に満ちていたこの場所から瘴気が殆ど無くなっている。
「とにかく、一度アルネさんの居る場所へ戻りましょう。心配していますよ」
そう言うネビアに同意し、アルネの家へと戻る事にした。
・・・
そして、例の小さな穴の場所へとやってきた。
「なぁネビア、この壁……破壊できるかもしれない」
俺は漆黒色の剣を見ながら言った。
「この剣、闘気をずっと吸われるけど、自分から込めた時はしっかり剣身にとどまっている。どれだけ込めても壊れずに耐えてくれそうだ」
「フィアン、やってみましょう! この壁を破壊する事が出来ればアルネさんも出られます!」
ルーネとテーネも期待の眼差しでこちらを見ている。
俺はそれに応えるしかない!
「下がっていてくれ」
そう言って剣を構えた。
「ふう……」
一呼吸おいて、全力で剣に闘気を込め始めた。
「凄い……チリチリと闘気を感じます……!」
ルーネはそう言いながら驚いていた。
漆黒の剣には既に、木の剣での最大値を何十倍にも上回る量の闘気を受け入れており、少しの輝きを見せている。
その状態で俺は[魔装・一閃]を壁に向かって放った。
――ザン!!
風を切るような音が響き、フィアンの周辺の大気が激しく揺れ、ルーネ達は吹き飛びそうになっていた。
砂煙が立ち込めているが、岩が崩れるような音は一切ない。
「失敗……?」
ネビアが思わずそう呟いたが、砂煙が立ち消えた後、壁を見ると幅は50㎝程で20メートルにも及ぶ横一線の風穴が開いていた。
「凄い……多分向こうまで貫通していますよ。これだけ硬い岩をここまで……」
「いや、とてつもない硬さなのは20cm程で中は砂岩のように脆いみたいだ」
感心するネビアにそう言うと、ネビアは風穴に手を突っ込み具合を確かめていた。
「確かに……この位の硬さなら僕が処理できそうです」
ネビアはそう言って、風穴の中に魔法陣を描き始めた。
「いきます。[ファイヤエクスプロージョン]です!」
火上級魔法[ファイヤエクスプロージョン]
バーンファイヤを形状変化させ高密度に濃縮し弾けさせる。
魔法陣から爆発を発生される。
ネビアがそう言うと、魔法陣が炎で燃え盛り、そのまま大きな爆発音を立てた。
そのまま炎と砂煙、熱気がこちらへと迫ってきた為、すぐさま[アイススパイク]で壁を生成した。
「ごほ……すいません、思ったより威力が高かったです……」
砂嵐の如く舞う砂煙を風見習い魔法[ウインド]で端に寄せながら、ネビアは苦笑いでこちらを見ていた。
「気をつけろよ! って言いたいとこだけど俺もちょこちょこやらかすからな……どんまいだ!」
俺はそう言ってネビアの肩を叩いた。
そして、風穴の中をみると完全に空洞と化していた。
「すごい……! これなら俺がこっちと向こう側を叩き切ればだれでも通れるようになるぞ!」
「ですね! 早速お願いします」
俺達のその会話をルーネとテーネはわくわくしながら見ていた。
「よし、闘気を剣に……」
俺は再度、[魔装・一閃]の構えを取り闘気を込め始めた。
その途中でネビアは俺に
「フィアン、そう言えば[アイススパイク]っていつから使えるようになりました?」
と質問してきた。
そういえばさっき、咄嗟に使用する事が出来たが……
少し前まではどうしても発動が出来なかったはずだ。
「そういえばいつからだろ……」
俺がそう頭を悩ますと、ネビアは
「フィアン、これあれじゃないですか……? 僕たちが融合した時にもしかして記憶と技術を共有されたんじゃないですか?」
と神妙な顔で言ってきた。
「うーむ……そんな感じはしないけどな……何か根拠があるのか?」
俺がそう質問すると、ネビアは戸惑った。
とは言え、根拠はあるに違いない。
少し言いづらそうにしているのが謎である。
「どうしたんだよネビア! 俺らの間で遠慮する事なんかないだろ? とりあえず込め切った……そろそろ……」
「フィアン、両親の夜の営み、何度も見たでしょう?」
そう言われた瞬間、驚きで体勢が崩れ、[魔装・一閃]は空を切った。
「僕、そんなの一度も見た事無いですし……でもあまりにもリアルなので……」
「あ、あはは……何と言うかあれだな! 共有はされてそうだ!」
俺の覗き……いや社会見学は完璧だった。
ネビアの気配に気を配りつつ最高の練度でシャドウウォークをしていた。
その事実を知る者は俺しか居ないのは間違いない。
共有されているのは間違いないだろう。
しかし、魔法に対する感覚が以前と比べて変わっているのは実感としてある。
事が終わったらネビアと色々すり合わせないとな……。
「フィアンさん、夜の営みとは何ですか?」
そんな事を考えていると、ルーネが純粋な目で質問をしてきた。
「そんな事より集中させて! 今失敗してしまったし!」
苦しい言い逃れだが、ルーネはとりあえずは納得してくれたようだ。
とにかくさっさと壁をぶち抜いてしまおう。
そう思い俺は再び闘気を剣に込め始めた。
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