第12話 達成

 次に目を開けると、先程まで感じていた痛みは無く、身体の傷も綺麗に消えていた。

 だが、ここ天国では無い事はすぐに理解した。

 そう断言できたのは、

 眼前には先程と変わらない光景が広がっていたからだ。


「頭がすっきりしている……それに……」


 先程と変わらない光景……絶望的だったはずの光景だが今はそう思わなくなっていた。


「負ける気がしない」


 そう呟いた瞬間、シャドウナイトは先ほどから込めていたトドメの一撃の剣気を放った。


――バンッ!


 私はその剣気を右手で受け消滅させ、瞬時に無数の[アイススパイク]を発動させウォーカーを打ち付けると同時に、[ウインドスピア]8本で貫き消滅させた。

 そして、[閃光脚]で瞬間的にシャドウナイトの元へ移動し、ナイフで漆黒の剣を持つ腕を切断し剣を奪い取った。


「魔装・剣舞……十二連」


 剣をしっかりと握りそのまま12連撃を叩きこんだ。

 数秒足らずで12連撃を放ち終わり、シャドウナイトはボロボロになっていた。


「これで終わりだ」


 私は剣を上げ、脳天からシャドウナイトを両断、その瞬間剣先から大爆発が発生した。


 そして、シャドウナイトは跡形も無く消え去り、周囲を覆っていた瘴気は一気に晴れた。

 その際、壁や天井が私に攻撃によってボロボロになっているのが見えた。

 傷一つつかない岩壁に傷を入れる事が出来た……。


 そう思った瞬間、私の意識はまた遠のいていった。


・・・

・・


「一つ目の試練、達成おめでとうございます」


 目を開けると、最初の試練を言い渡してきた女神が立っている場所に居た。


 試練……シャドウナイトの討伐か。

 無事に倒せたと言う事実は覚えている。

 しかし、どうやって倒したのかがいまいち思い出せない。

 そんな事を思いながら周囲を確認すると、ネビアも横で座っていた。


「ネビア! 無事だったのか!」

「フィアンこそ!! 本当に良かった……!」

「しかしあれだな。どうやって倒したか覚えているか……?」


 俺がそう言うとネビアは首を傾げた。


「夢かも知れませんが……剣と魔法を使って倒しましたね……」

「あ、俺もそんな気がしてる」


 そんな会話をしていると、女神はコホンと咳払いをした。

 それを聞いて俺達は女神の前で正座した。


「改めまして……試練達成おめでとうございます」


 女神は俺達の顔を見た。


「前例が無い程の難易度、よく立ち向かい達成したものですね」

「女神様、でも倒した実感があまりないんです……」


 ネビアがそう言うと、


「一つになった後は記憶が乱れる場合もあるでしょう。ヒト族での合体は初めて見ましたが……」


 と女神は呟いていた。


「一つになった? どういう事?」


 俺がそう質問すると、女神は見せた方が早いですね。

 と言い俺とネビアの額を指先で触れた。


「なんだ……?」

「目を瞑ってください。その時の映像を見せましょう」


 そう言われ、俺達は目を瞑った。


 最初の映像は、

 俺とネビアが抱き合って死にかけている場面だった。

 そして、俺が事切れたと思われた瞬間に、俺とネビアの身体が光始め粒子となった。

 その後、粒子は激しく回転し集束した後パンと弾けた。


 その場がが大きく光った後、綺麗な紫色の髪の少年が一人突っ立っていた。


 しばらくぼーっと立っていると、シャドウナイトが剣気を飛ばしてきたが、

 それを手で受け消滅させ、記憶にある魔法と剣術の連撃でシャドウナイトを屠っていた。


 そこで映像は終了した。


「あれ……? 知らない子が一人で倒していたぞ?」


 俺がそう言うと、女神は微笑んだ。


「あの方は貴方たちが一つになった姿ですよ」

「さっき言っていた一つって俺達が融合したって事かよ!」

「その通りです。ヒト族の融合は初めて見ました。別の種族では同じような技はありますが……」


 融合……不思議な体験だった。

 しかし、融合後も俺は自身の意思で動いていたつもりだったが、ネビアもそれは同じの様だ。


 しかし今思えばあの時、フィアンとしての意思だったか?

 と言われるとそうは言い難い。


 自身がどういう状態だったのか、さっぱり想像もつかない。

 とにかくすごく強くなった!

 それ以外の事はとりあえず考えないでおこう……。


 ネビアも横で頭を悩ましているようだが、多分同じような事を考えているのだろう。


「では、達成報酬を与えます。魔力か闘気、どちらかの潜在能力を解放いたしましょう」


 女神はそう言って、具体的に説明をし始めてくれた。

 ここでいう潜在能力の解放は総量を増やす事だそうだ。

 体内の闘気もしくは魔力に掛けられたリミッターを解放し、自身に隠された力を引き出すそうだ。

 個々によってリミッターの数と力の最大値は大きく異なる。

 その潜在能力は大体5歳くらいまでに決まるようだ。


 俺達は二人で相談し、俺は闘気でネビアは魔力を伸ばす事にした。

 それぞれ長所を伸ばし、足りない部分を二人で補っていこうとの考えだ。


「分かりました。では早速……」


 女神はそう言うと俺達に手をかざした。

 そして光に包み込まれ始めたが……。


「……お二人とも、今選択いただいた力は既に全て解放済みのようです……」

「え? これ以上強くなれないって事ですか?」


 ネビアは落胆した表情で女神を見た。

 

「その質問に対しての答えはその通りですとの回答になります。ですが落胆する事ではありません」


 俺はそういう女神に疑問の表情を向けた。


「フィアンは闘気、ネビアは魔力の総量がほぼ無限に近いです。これほどの力の持ち主は初めて見ます……」

「無限……!? だからほとんど疲れないのかな俺! ネビアも魔法を使用しても一切疲れないし……」

「そのようですね。ですが片方だけが無限に近くとも、魔法であれば魔力と少量の闘気を使用します。永遠に使い続ければ疲れは出ると思いますが……」


 俺とネビアは状況については納得できた。

 しかし……


「てことは僕たちの報酬は……」

「それぞれ逆なら解放可能ですよ。そちらでさせて頂ければ……」


 女神は少し申し訳なさそうに話した。


「しょうがないよな。片方が無限でも疲れてしまうのなら、もう片方も強い方がいいだろうし」

「そうですね。女神様、では僕が闘気、フィアンが魔力解放でお願いします」


 女神はほっとした表情で、


「わかりました。ではもう一度……」


 女神は手をかざし、俺達は光に包まれた。


・・・


「解放完了です。日々の鍛錬を怠らなければより力は上昇します。応援していますよ」


 光が消えると同時に女神はそう言った。


「実感が無いけど……魔法を使った時に疲れにくくなるなら有難いな」

「僕ももっと走れるようになったのなら嬉しいです!」


 そうやって二人で話していると、


「では第二の試練を授けます。二人とも同じ内容ですね」

「どんな内容だろうか……」


「13歳になるまでに元素を司る精霊と契約し、新たな力を授かりなさい」


 女神の言った試練内容に俺達は困惑していた。


「精霊? 契約……?」

「ちょっとまって女神様! 試練の意味が分からない!」

「その意味も考える事を含めての試練ですよ。では戻りなさい。10歳頃までに達成できていなければ助言を与えましょう」


 女神は俺達の声を無視し、そのまま光に包まれ俺達も暗転した。

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