第6話 逃猫者 (とうびょうしゃ)
「なんのことなのかな?」
ユーリは首をかしげて土下座している猫耳メイドを不思議そうに見た。
「なんでもお話しますからっ、地球を滅ぼさないでくださいっ、ユーリ様っ!」
「聞こえないんじゃなくって、なんでぼくが地球を滅ぼすのかさっぱり訳がわからないんだな」
「申し訳ございませんっ!」
「まず土下座はやめて欲しいんだな。顔も見えないから頭を上げて欲しいんだな」
「しかし……」
「ぼくからのお願いなんだな。きみはどうやらぼくが何度も頼まないとお願いを聞いてくれないんだな」
「ひ、ひいっ! わ、わ、わかりましたあっ!」
ばふっ!
そんな音とともに、猫耳メイドは土下座した状態で垂直に2メートルほどジャンプして浮き上がり空中で体勢を変え、着地して気を付けの姿勢をとった。
「パンツ見えそで見えへんかった!」
「注目するとこ、そこ? アンタは!」
「えらい底の厚い靴やな!」
「その、そこでもない!」
「すごい運動能力ですね!」
「人間ばなれのジャンプ力だな!」
「そう、そこよ!」
「ホンマや。人間
「何をいまさらカッコつけてんのよ! おバカ!」
「チカ、カズマ、お前らうるさい! ちょっと黙ってろ!」
「「はあい」」
カズマたちが漫才を始めたのでサブロウが話の流れを戻した。
「メイドさん、ユーリは今日、日本に来たばかりだけど、どうしてユーリのことを知っているんだ? そしてそのジャンプ力。キミは何者だ?」
「ユーリ様、この方たちは……」
サブロウに問われた猫耳メイドは恐る恐るユーリの方を振り返る。
「うん。ぼくのお友達のひと型生命体の皆さんなんだな。宇宙ねこのことも、銀河連邦のことも、バステトさんの一族のことも分かっているから話しても大丈夫なんだな」
「くっ、もう、地球人の心をつかんで協力者にしているとはっ、さすがはユーリ様っ! かしこまりましたあっ!」
猫泉今日子を名乗る猫耳メイドはスカートをつまんで美しいカーテシーをしながら大きな声で言う。
「わたくしっ、バステト一族の猫泉今日子と申しますっ! 以後お見知りおきをっ!」
「やっぱり、バステト一族か。俺はマンガ家の一色サブロウだ。あとの3人はアシスタント兼モデルの、ミイ・ヨシノ、瀬田チカ、山本カズマだ。よろしく」
「「「よろしく」」」
「こちらこそですっ!」
「でも、ユーリさんとはいつ連絡を取ったのですか?」
ヨシノが不思議がる。
「さっき、ごろにゃんのおじさんの車のとこでお話したんだな」
「ええっ! ということは、さっきのキジネコちゃん!」
「はい、さっきネコバンバンしていただき、助けられたキジネコでございますっ!」
「ホンマにネコになったりニンゲンになったりできるんや!」
「ということは、これは『猫の恩返し』ですよ、サブロウ師匠!」
「いや、助けたのは俺じゃなくてユーリだから」
「じゃあ、あのナーナーナーでお話できてたんですね!」
「そうなんだな」
「はいですっ! 宇宙共通ネコ語ですっ!」
「さすが宇宙ネコとバステト一族。地球人類より文明度が高そうだな」
「皆様っ! 駐車場に長くいるのもなんですからっ、話はわたくしのお店でいかがでございましょうかあっ!」
「猫泉さんの声がやかましすぎるから、そのほうがいいんだな」
「申し訳ございませんっ!」
ということで、サブロウたちは猫耳メイド猫泉の案内で、彼女が店長をしている店にやってきた。看板と入り口には『メイド喫茶ネコマンマ・ミーア』の文字が。そして入り口のドアには「本日は閉店しました。確認ヨシ!」とのセリフが書かれたメイド服のネコが前方を指差すイラストのプレートがかけられていた。
「なんか微妙なセンスね」
「わたしはかわいいと思います」
「お帰りなさいませご主人様っ! じゃなくって、皆さまどうぞお入りくださいっ!」
「「「「お邪魔します」」」」
「おじゃまするんだな」
メイド喫茶のテーブル席に座った全員分の水を配ると猫耳メイドの猫泉は言った。
「さあ、こうなったらわたくしは逃げも隠れもいたしませんっ! ユーリ様、皆様ご質問があればなんなりとどうぞっ!」
「ユーリ、悪いけど俺から先に猫泉さんに質問させてくれないか?」
「どうぞどうぞ、なんだな」
質問第一号はサブロウだ。
「猫泉さん。あなたはさっきユーリに向かってジャンピング土下座で懇願しましたね。『どうか地球を滅ぼさないでください』って。どうして、ユーリにそんなことを頼んだんですか? ユーリにそんな力があるのですか?」
「そんな力があるのですかって? おばあちゃんが言っていましたっ! 宇宙ネコ様には絶対に逆らってはいけないってっ! 宇宙ネコ様の科学技術文明は地球人類と比べ物にならないんですよっ! ユーリ様が本気で怒ったら、地球文明なんてあっという間にギッタンギッタンにされてしまうんですよ!」
「なるほど、ギッタンギッタンにねえ……」
「どうして言葉を話すネコは『ギッタンギッタン』の表現が好きなのかしら?」
「ほんまに不思議やな。なんでやろ?」
「そのユーリ様があんなに恐ろしいことをおっしゃるから……」
「ユーリはなんと言ったのですか?」
「はいっ、ユーリさんはこうおっしゃいましたっ!」
『見つけたぞ! バステス一族め! 俺様は宇宙ねこのユーリだ。こんなトコロでサボりやがって危機が迫ってる自覚もねえのか! この世界もお仕舞いだな。世界を終わらせたくなかったら、俺の言う通りにしろ。こちとら聞きてえことが山ほどあるんだ。わかったら、アジトに案内しな。おっと、もうロックオンしたから逃げるとヤバいことになるぜ!』
「柄が悪いな! まるでギャングやな」
「たしかにギャングは怖いな」
「ユーリさんがそんなことを言うなんて……」
「ユーリ、アンタそんな事言ったの?」
「だいたい合っているんだな」
「「「「マジですか?」」」」
「まじなんだな。でも、ぼくはこう言ったんだな」
『バステスさんの一族、見つけたんだな! ぼくは宇宙ねこのユーリなんだな。危ないからここでお寝んねしてたらダメなんだな。わかるのかな? 下手したら死んじゃうんだな! それが嫌ならやっちゃだめだと思うんだな。ところでぼくはきみとたくさんお話したいんだな。だから、ちゃんとお話ができるところを教えて欲しいんだな。きみの匂いは覚えたから追跡できるけど、迷子になるとたいへんだから一応、案内して欲しいんだな』
「だから、ちょっとだけ違うんだな」
「全然合うてへんやんけ!」
「思いっきりのミスコミュニケーションね」
「ギャングではないな。ユーリ、キミはその力で本当に地球を滅ぼすつもりなのか?」
「そんなつもりは全然ないんだな。だってとってもめんどくさいんだな」
「できないと言わないところがさすが宇宙ネコだな」
「でもよかった。ユーリさんがそんなこと考えていなくて」
「ほんまや。誤解でよかったわ」
「猫泉さんて本当に宇宙共通ねこ語がわかるの?」
「実は使う機会が最近全然ないのでずっと勉強さぼってましたっ! だからノリでなんとなく解釈してましたっ!」
「ダメダメだな」
「ダメダメですね」
「でも海苔は大事なんだな。おむすびともとっても合うんだな」
「ユーリ、その海苔とは違うから!」
「まあなんにしても、二人とも宇宙ネコ語共通語やとお互いうまく意思疎通でけへんつうことやな。なら素直に日本語で話したほうがええで」
「むう。ぼくはひと型生命体ではないんだな。~
「こだわるのはそこなんだ」
「じゃあ、なんて数えたらええねん? ~匹か?」
「~
「わかった、わかった」
「ユーリ、さっきから話が進まないんだが」
「うん。本題に戻すんだな。猫泉さん、このお姉さんを知っているのかな?」
ユーリはそう言うと腕時計のようなものから壁に猫耳カチューシャを付けてメイド服を着た若い女性がお店の中で手首をくにゃッと曲げたポーズをとっている写真を壁に投影した。
「あ、おばあちゃん」
「「「「おばあちゃん? おばあちゃん!」」」」
「はいっ! ルミ子おばあちゃん。わたくしのおばあちゃんですっ!」
「ずいぶん若いおばあちゃんですね」
「美魔女なの? それともメイク? それとも修正?」
「目で見たものも信じられない時代だからな」
「女は化けるっちゅうけど、ここまでくるとコワイわ。まさに化け猫やで」
「あ、バステト一族は普通の人間のみなさんより寿命が長いんで老化の進行も遅いんですよ」
「「「「なるほど!」」」」
「猫泉さんは猫柳ルミ子さんのお孫さんなんだな?」
「はいっ!」
「じゃあ、おばあちゃんは今どこにいるのかな?」
「それが十年ほど前にメッセージを残して突然失踪したんですっ」
「「「「なんだって!」」」」
「スクリーンショットが残っていますっ! お見せしますねっ!」
猫泉がそのメッセージを皆に見せた。
『人間がとんでもなくヤバいモノを発明した。絶対に銀河連邦には秘密にしなければならない。もしばれたらおしまいだ。あたしたちは宇宙ネコ様には勝てない。この秘密を守るためにあたしは銀河連邦との通信手段を完全に破壊して身を隠す。後はよろしく頼む。ルミ子』
「「「「ええええええええっ!」」」」
つづく
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