第5話 今ねこによる危機

「ごろにゃんこ・ゴーゴー組長、さっきも名乗ったが俺はマンガ家の一色サブロウで、こっちの三人はオレの『オフィス・モノクロ』のスタッフでアシスタント兼モデルの山本カズマ、瀬田チカ、ミイ・ヨシノだ」


「「「ごろにゃんこ・ゴーゴー組長、どうぞよろしく」」」


「キミらやったら『ごろにゃん』て呼んでくれてええよ」


「「「「ありがとうございます」」」」


「うん、うん」


「そしてお騒がせしたのが友人のユーリ・タチネンコだ」


「ごろにゃんのおじさん、ぼくはユーリ・タチネンコなんだな。改めてよろしくなんだな」


「なんや、日本人やと思うたらユーリは外人さんなんや。日本に来て長いんか?」


「ぼくは日本に来たばっかりなんだな」


「なら、国で日本語の勉強頑張ったんやなあ。その名前やと多分……」


「おっと。ちょっと訳ありで。国籍については勘弁してくれませんか」


 サブロウがごろにゃん組長の言葉をさえぎる。


「せやな。あの辺は戦争中やしな。ユーリなんかが兵隊にとられてもうたら、無事で帰って来れへんわ。わかった。黙っといたる」


「ありがとうございます。助かります」


「ところで一色先生やユーリは秋葉原に何しに来たんや?」


「サブロウでいいですよ、ごろにゃん組長。実は人探しなんですよ」


「それは違うんだな。ひと型生命体ではなくてねこ……」


「わーわーわー、ユーリは黙ってて! 話がややこしくなるから」


「ん~~~~~!」


「ユーリさん、しばらくだけ我慢してください」


「ちょっとの辛抱や!」


 ユーリは3人がかりでその口を押えられる。


「『ねこ』~なんやって?」


 耳聡いごろにゃん組長がギロリとにらんで問いただす。


「ね、猫耳メイド喫茶や猫カフェで働いていたらしいユーリのSNS繋がりの知人を探しに来たんですよ。ツイテンダーのツキ友って奴です。10年ほど前に急に連絡がつかなくなったそうで」


「ほう。その知人を探しにわざわざ日本にまで来たんか?」


「そうなんだな」


「さては、可愛い女のか?」


 ごろにゃん組長がニヤリと笑う。


「ええ! ごろにゃんのおじさんはどうしてわかったのかな!」


 ユーリが驚く。


「くっくっく。そんなとこやと思うたわ。初恋の相手を尋ねて日本までかあ。青春やのう。そのの名前、教えてもろうてええか?」


「えーと、猫柳ルミ子さんなんだな」


「なんやて! 猫柳ルミ子やとぉ?!」


 ごろにゃん組長が大きな声を上げた。


「知っているんですか! ごろにゃん組長!」


「いや、知らんがな」


 組長以外の全員がずっこけた。


「お約束や、お約束。せやけどツイテンダーじゃそれ本名かどうかもわからへんで」


「うーん。でも写真もあるんだな」


 ユーリはそう言うと腕時計状のナニカから駐車場の壁に画像を投影した。例の猫耳メイド服の若い女性がお店で猫招きっぽいポーズをしている写真だ。


「おおっ、ハイテクやな。ちょっと写真撮らせてもろうで」


「どうぞなんだな」


「なかなか可愛いやんけ。でも、正直言うてこんなカッコの娘さん、ここらのメイドカフェやコンカフェにゃ仰山ぎょうさんおるよって探すの大変や。勤めとった店の名前はわかるんか?」


「最後の連絡のときのお店の名前は『ネコ耳メイド喫茶・ネコとゴハン』だって教えてもらったんだな。もう一つ『和風お猫様カフェ・猫八』でも働いていたらしいんだな」


「悪いけどどっちも知らへんなあ。そもそも10年ほど前やとワシがまだ関西で現役やった頃やしな。そん頃の秋葉原のことはよう知らんわ。10年前と今は色々変わっとるさかい、探すのは骨折れるで」


「やっぱりそうなんだな」


 肩を落としてうなれるユーリ。そんなユーリの肩をごろにゃん組長がぽんぽんと叩いて言う。


「まだ日本に来たばかりやないか! おっちゃんも友だちに聞いたるわ! なんかわかったら、サブロウ先生に連絡したるさかい、気ぃ落としたらアカンで!」


「うん、わかったんだな。ありがとさんなんだな」


 ごろにゃん組長はケモナー痛黒ベンツに乗り込むと、運転席側のウインドウを下げてユーリにもう一言、声をかける。


「ほな、おっちゃんコレから仕事やさかい、ユーリもがんばるんやで! サブロウ先生、みんな、ユーリのこと頼んだで〜!」


「うん。お仕事行ってらっしゃいなんだな」


「もちろん」


「わかりました!」


「わかってるわよ」


「ごろにゃん組長、任しとき!」


パッパッ


 軽くクラクションを鳴らしてごろにゃん組長の痛ベンツが去る。


「本当にアレで街中を走ってると思うとごろにゃん組長やっぱりただ者じゃないなぁ」


「見た目は怖いけどいい人でしたね」


「オタクでケモナーだしお茶目だし」


「ユーリのことめっちゃ気に入ったみたいやしな」


「ごろにゃんのおじさんとは仲良しになれたんだな」


「お前らもみんな気に入られてたぞ」


「ええ? 師匠、なんで?」


「怖がってた割りにはユーリをかばってさっと身構えてたろ? だから侠気おとこぎがあると思われたみたいだぞ」


「サブロウ先生、カズマさんはともかくわたしもチカさんもレディですよ」


「じゃあ言い直せば友だち思いで勇気があるってことだ」


「それなら納得です」 


「けどセンセ、それよりもなんであのとき身構えんかったんや? 最初からあのベンツがごろにゃんこ組長のモンやってわかっとったみたいねんけど」


「ああ、さっきも言ったけどナンバーがにゃんの黒ベンツってYoruTubeヨルチューブで組長が言ってたからな。そりゃ覚えもするさ」


「「「へぇ〜」」」


「面白いんだな」


「ともかくごろにゃん組長と縁ができたのはラッキーだったな。ところでユーリ、聞きたいことがあるんだが」


「どうぞなんだな」


「そもそもどうして、ここまで来てごろにゃん組長のベンツを叩いていたんだ?」


「せやせや。わざわざネコバンバンのためだけにきたんとちゃうやろ」


「バステトさんの一族の匂いがしたんだな。ごろにゃんおじさんのクルマのボンネットの下に隠れてお昼寝してたんだな。あそこは危ないから起こしてあげたんだな」


「どんな匂いだったんですか?」


「地球のモノで例えるならばナツメグと納豆と生八ツ橋を混ぜたような匂いなんだな」


「うーんちょっと想像つかない匂いね」


「ですねえ」


「ひと型生命体には匂いが微妙すぎて全然わからないんだな。ねこ型生命体はひと型生命体の20万倍くらい匂いに敏感なんだな」


「警察犬みたいやな」


「いぬには負けるんだな」


「じゃあ、ユーリとさっきなーなー言ってたキジネコがそうだったのかぁ」


「実はそうだったんだな」


「でもキジネコちゃん、どこか行っちゃいましたね」


「ああ、それは多分大丈夫なんだな」


たったったったったったったっ


「はあ、はあ、はあ、はあ! お、お、お待たせしました、ご主人様ー!」


ざんっ!


 猫耳にモノトーンでギンガムチェックのメイド服の小柄だが恰幅の良い少女が大声で叫びながら全力疾走してサブロウたちの方にやってきて、いきなりジャンピング土下座した。


「「「「誰?」」」」


「今日お店を臨時休業にしましたから、まずはそちらにご案内いたします! なんでもお話します! ですから、地球を滅ぼさないでください、ユーリ様!」


「「「「なんだって!」」」」


 サブロウたちはギョッとしてユーリを見つめた。


「なんのことなのかな?」


 ユーリは首をかしげて土下座している猫耳メイドを不思議そうに見ていた。





つづく

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