第3話 とぼけた顔してバンバンバン!
「ともかく、秋葉原に行かないとどうしようもないな。よし、行くか!」
「ありがとさんなんだな」
「ちょっと待った! ユーリをどうやって連れて行くんや? ボクはもうぬいぐるみを抱っこして行くのはイヤやで! 羞恥心のサービスタイムはもう終了や!」
「ぼくもぬいぐるみは窮屈だったから、あまり着たくないんだな」
「でも、猫耳メイド喫茶に入らせてもらえないかも。ほら、飲食店ってペットお断りのところが多いじゃない?」
「それは困るんだな」
「猫カフェもよそのネコは入れてもらえないから、ユーリさんもきっと入れないと思います」
「それも困るんだな」
「そもそも、誰にも咎められないで二本足で立って喋るネコを連れて歩くのは難しいか。目立ちすぎる」
「「「「うーん」」」」」
「大丈夫、ぼくはリュックサックに入って大人しくするんだな。だから秋葉原まで連れて行って欲しいんだな。そしたらなんとかするんだな」
「ホンマかぁ?」
「だーいじょうぶまーかせてなんだな」
「かえって不安しかないのだけど」
「でも秋葉原に行かないとなにも進まないですよ」
「そうだな。ここはユーリを信用するしかないか。わかった、そうしよう」
「またまた、よろしくなんだな」
「ユーリ、秋葉原の駅についたで」
カズマがリュックを下ろしてユーリに話しかけた。
「ありがとさんなんだな。ぼくはトイレに行ってくるから待ってて欲しいんだな」
「トイレまで連れて行こか?」
「自分で行けるから大丈夫なんだな。じゃあ行ってくるんだな」
ユーリはリュックから飛び出すと、右足を歩道のブロックに乗せると右手で前の方を指差して言った。
「トイレの方向と距離、ヨシ」
それから、さーっと四本足で人々の足元を走り抜けた。黒いねこの姿は人混みに紛れてたちまち見えなくなった。
「なんだったのアレ?」
「「「さあ?」」」
ともかくサブロウたちは駅前でユーリを待つことにした。
「さて、秋葉原の猫耳メイドカフェと猫カフェ。ユーリを連れて行って聞き込みをすることになるんだが。まさか全部の店を回るわけにいかんだろう」
「写真のお店の場所か名前だけでもわかるといいんですけど」
「でも10年前のお店がそのまま残ってると思えないよ。秋葉原も移り変わりが激しいから。引っ越しをしたり名前を変えてるかもしれないし」
「それかバステト一族の長が人間として名乗っている名前やな。正直言うてネコの名前だけ分かってもクロとかミケとかタマだったら探しようあらへん」
「あとはユーリが宇宙科学技術的なバステト・センサーとかを持って来ていれば楽なんだけど」
「ともかくユーリ待ちだな」
「お待たせなんだな」
サブロウとカズマの背後から声がした!
「ええっ!」
「うそっ!」
ヨシノとチカが目を丸くして両手を口に当てて驚いている。
「うん?」
「なんやねん?」
サブロウとカズマが振り向く。だが、路上を見てもユーリの姿が見当たらない。
「ユーリはどこだ?」
「おらへんのやけど」
「もっと目線をあげるんだな。ぼくはここなんだな」
二人が目線を上げると黒いパーカーに黒いジーンズの菅⬜︎将暉によく似た青年が爽やかに微笑み、右手を振っていた。
「「ええっ! まさか!」」
「ぼくなんだな。ユーリ・タチネンコなんだな」
「「「「マジですかあ?!」」」」
「まじなんだな」
「ユーリも変身できたのか?」
「ぼくは変身はできないんだな。コレは変身じゃなくて変装なんだな」
「変装やて?」
「地球で活動するのに便利なダミースーツなんだな。肉じゅばんみたいなものなんだな。コレを着たらひと型生命体のフリができるんだな」
「ダミースーツって、どこに入っていたんだそれ?」
「ぼく専用の携帯用虚数空間があるんだな。ぼくはいろんな姿に変装できるように、ダミースーツをいろいろ持ってきたんだな」
「ようわからんけどさすがは宇宙ネコやな!」
「上手くできていますね! 菅⬜︎将暉さんそっくりです!」
「カッコいいじゃない! ねえねえユーリ、一緒にツーショット撮ろうよ!」
「かまわないんだな」
「わたしも!」
チカとヨシノは大喜びでユーリに抱きついて写真を撮りまくる。
「コレはまずいな」
「せやな」
「どうしたんですか、サブロウ先生?」
「何よ! ジェラシーかしら? いいじゃない、ちょっとくらい」
「せやのうてなあ」
「あんまりイケメンで目立つと、バステト一族の捜索どころじゃなくなるぞ!」
「「ああっ!」」
「これはウッカリしていたんだな。じゃあマスクとめがねをかけるんだな」
ユーリはどこからかマスクとめがねを取り出してかけてしまった。
「あーあ、もったいない!」
「ですねえ」
「ユーリぃなんで日本に来る時ダミースーツ使わんかったん? ユーリが変装しとったらボクあないな恥ずかしい真似せんでもよかったやん」
「それは無理だったんだな」
「そうだろうなあ」
サブロウもユーリに味方する。
「なんでやねん!」
「ぼくは飛行機のチケットもパスポートも持ってなかったんだな」
「ああ、ああ、そういうわけやったんや!」
「じゃあ、じゃあ、あたしたちに会ったときダミースーツ着てなかったのはどうして?」
「ひと型生命体のすがたで『ぼくは宇宙ねこ』だとか『銀河連邦』だとか話してたら、あたまがおかしいと思われたんだな」
「「たしかに」」
「当然だな」
「そうですね」
「ねこ型生命体のすがたで二本足でしかも日本語で話したから、ぼくがただのねこじゃなくて『宇宙ねこ』であることも、『銀河連邦』のことも二人に信じてもらえたんだな」
「「なるほど」」
「さすがは銀河連邦の使者だな」
「いろいろなことをしっかり考えていたのですね」
「どこかの誰かさんたちと違ってな」
「「ぐぬぬぬ」」
「ところで、ユーリは秋葉原でどうやってバステト一族を探すつもりだ?」
「お店の名前はわかってるんだな。『ネコ耳メイド喫茶・ネコとゴハン』と『和風お猫様カフェ・猫八』なんだな」
「すごい名前だな。みんな聞いたことあるか?」
「ないですね」
「ないなあ」
「同じく」
「じゃあ、もう潰れてるかもしれないな。他の手がかりはないのか?」
「バステト一族は興奮すると特別なエネルギーが出るから、影を見たらわかるんだな」
「影がどうなるんですか」
「ねこ型のときはひとの影ができて、ひと型のときはねこ耳やしっぽの影が見えるんだな」
「じゃあ、じゃあ、猫耳メイドの格好で尻尾もつけていたら?」
「それはわからないんだな。ああ、ようく見たら長いねこひげの影も見えるんだな」
「そいつはけっこう難しそうだな」
「あとバステト一族はうまく説明できないんだけどめずらしい香りがするんだな。あっ、ちょうどあっちからその香りがしてきたんだな!」
そう言うとユーリはものすごい勢いで走り出した。
「おい、ユーリちょっと待て」
「どこ行くんや!」
「きっと見つけたのよ!」
「追いかけましょう!」
ユーリは駐車場ビルに駆け込むと一台の黒いベンツC200の前に立った。
「見つけたんだな!」
バンバンバン! バンバンバン!
ユーリはベンツのボンネットをバンバンと叩き出した!
バンバンバン! バンバンバン!
サブロウたちが追いついてもユーリはまだベンツを叩き続けている。
バンバンバン! バンバンバン!
「ちょっとユーリさん、ナニしてるんですか!」
「ユーリ、それはアカンで!」
「落ち着け! ユーリ!」
「ユーリ! もうやめて!」
「コラァ! お前らワシのベンツにナニしとんじゃあ! おんどりゃあ!」
振り返ると黒いスーツの凶悪な目つきの男が皆の後ろからダミ声で怒鳴っていた。
つづく
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