第2話 ユーリは何しに日本へ?

「お、おむすびは海苔とおかかが一番おいしいんだな。でも、ミネラルが多すぎるとぼくはたくさん食べられないので、お塩ひかえめの白いおむすびもほしいんだな」


「わかりました。ちょっと待っててくださいね、今作りますね」


「飲み物はどうする? お茶か?」


「麦茶かトマトジュースがいいんだな」


「麦茶なら冷蔵庫にあるわよ」


「あとでコンビニでトマトジュースも買うて来たる」


「みんなとっても親切なんだなー。ありがとさんなんだな」


 となんだかんだとバタバタしつつもとりあえず宇宙黒ねこのユーリは希望する食事に無事ありつけた。


「ふうっ。ごちそうさまなんだな。おなかがいっぱいなんだな。ほんとにほんとにありがとさんなんだな」


「さあて、食事も終わったところで、聞きたいことが山ほどあるのだが」


「どうぞ、どうぞ、なんだな」


「話が早くて助かる。ユーリはいったい何をしに日本に来たのだ?」


「日本にいる地球の責任者に会いに来たんだな」


「地球の責任者! そんな偉いヒトが今の日本に来ているのか?」


「ちっちっち。エライひとじゃないんだな。地球の責任者はぼくとおんなじねこ型生命体なんだな。だからエライねこなんだな」


「「うん、うん」」


「「マジですかあ!」」


「まじなんだな。そのむかし、銀河連邦の使節が地球を訪問したときも、ひと型生命体は戦争中で話し合いどころでなかったんだな。そのとき、銀河連邦の使節ときちんとお話をしてくれたのがバステトさんというねこ型生命体の長だったそうなんだな」


「あ、それは初耳」


「そうやったんや!」


「バステトさんですか? どこかで聞いたお名前ですね」


「バステト女神、古代のエジプトか! きっと、ただのネコのはずないだろう」


「その通りなんだな。それで、銀河連邦はねこ型生命体の長のバステトさんを地球の責任者に任命して、地球を監視して報告してもらっていたんだな」


「なるほど。そういういきさつがあったのか。たしかに銀河連邦の使節が人類にコンタクトを取ろうとしたらいろいろと難しかっただろうな。それどころか現代もまだ一部の国は戦争中だったりするし、地球の人類の意見が一つにまとまるとは正直思えん」


「全人類どころか、国連常任理事国でも意見が一致することはそうあらへんもんな」


「宇宙に対して誰が地球の責任者とか、代表者だとか決めるだけでも十年、二十年とかかかりそうねえ。いえ、それでも決められないかも」


「そう考えたら、銀河連邦の使節を迎えたねこ型生命体のバステトさんに地球の責任者になってもらったのは正解だったのかもしれません」


「そういうことなんだな。みんなには悪いんだけど、はっきり言って銀河連邦内では地球のひと型生命体の評判は良くないんだな。危ないものをいっぱい作ってるし、そのくせ安全管理もおろそかなんだな。おまけに、まわりにゴミをいっぱいまきちらかして、とてもダメな知的生命体なんだな」


「その通りだな。心当たりが多すぎる」


「返す言葉もありません」


「何回聞いても耳が痛いわね」


「アカンことばっかりやっとるもんなあ」


「だから、ぼくが銀河連邦から派遣されたんだな。地球の責任者になっている、ぼくと同じねこ型生命体の長に、ひと型生命体を野放しにしてあまり宇宙に進出させないで欲しいと伝えに来たんだな。地球のことをきちんとできるまでなるべく宇宙に出てきてほしくないんだな。宇宙にまで危ないものやゴミをまき散らされるとみんなが迷惑なんだな」


「そういうわけだったのですね」


「全く同感だな。宇宙の前にまずは地球とその周辺の環境を整えるべきだろう」


「せやなあ」


「たしかに」


「話をもどすぞ、ユーリはバステト女神と会うために日本まで来たのか?」


「正確に言えば、バステトさんの一族なんだな」


「ふむ。バステト女神もねこ型生命体の一つに過ぎず、不老不死ではなかったか」


「じゃあ、バステトさんはもうお亡くなりになって子孫の方が日本に?」


「そうなんだな。バステトさんの一族は地球のねこ型生命体の中でも珍しい、ひと型生命体にも変身できる一族なんだな。ふだんは変身してひと型生命体の社会にまぎれて暮らしているんだな」


「へえ、変身できるだなんてカッコいいじゃない!」


「ワーキャットとか猫又の類やろな」


「なんだか賢そうなネコさんたちですね」


「でも、どうして、ユーリはわざわざ地球にまでやってきたんだ? 普通に宇宙から通信すればいいだろう」


「十年くらい前からバステトさんの一族と連絡がつかなくなったんだなー。それでぼくが直接訪ねに来たんだなー」


「うーん。ユーリ、君の訪ねるべき相手は大きな事故や自然災害に巻き込まれた可能性があるな」


「バステトさんの一族はすごく強いから全滅したとは思えないんだな。でも、ひょっとしたら通信機がこわれちゃって直せなくなったかもしれないんだな」


「なるほど、そうかもしれないな。そのバステト一族は日本のどこで何をしてたんだ?」


「たしかバステトさん一族の写真があったんだな」


 ユーリはそう言うと腕時計のようなものから壁に写真を投影した。猫耳カチューシャを付けてメイド服を着た若い女性がお店の中で手首をくにゃッと曲げたポーズをとっている。


「「「「猫耳メイド喫茶!」」」」


「それともう一つ写真があるんだな」


 様々な種類のネコたちが思い思いの姿勢ですっかりくつろいでいて、若い女性たちに撫でられていた。


「「「「猫カフェ!」」」」


「どっちも秋葉原ってメモがついていたんだな。だからぼくは秋葉原へ行きたいんだなあ!」






つづく

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