🌌🐈⬛宇宙ねこが来たんだなーなーなー
土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)
第1話 やっぱり宇宙ねこが好き!
ここはオフィス・モノクロ。マンガ家、一色サブロウの職場兼自宅である。取材兼バケーションでタイに出かけていたアシスタントの二人、瀬田チカと山本カズマが帰ってきた。
「師匠、ヨシノさん、ただいまあ」
「帰ったで〜!」
留守番をしていたサブロウとヨシノが出迎えた。
「おう! おかえり~、お疲れさん!」
「おかえりなさい、チカさん、カズマさん! どうしたんですかそのおっきいぬいぐるみ!」
カズマが世界的に有名な白ネコの大きなぬいぐるみを抱いているのを見て、ヨシノとサブロウは反応した。
「なんてモノをかかえてるんだよ? キャラ変か? 気色悪いぞ!」
「好きでやっとんちゃうわ! 道中ガリガリ精神力削られたで! ホンマ勘弁して欲しいんやけど、チカに持たせる訳にもあかんかってん」
「助かったわ、カズマ!」
「そのぬいぐるみ、そんなに重いんですか? ちょっと持たせてください」
187㎝とマリア・シャラポア並みに長身のヨシノはカズマ(180㎝)から白ネコぬいぐるみをさっと取り上げてしまった。
「ああ、ああ、ヨシノさんアカンて!」
「ヨシノさん! 危ないから気を付けて!」
カズマとチカが叫ぶ。
「二人とも何言ってるんだ?」
「大袈裟ですね。そんなに重くないですよ。あれ? 中になにか入っているのかな?」
ヨシノはぬいぐるみをかかえてその感触をたしかめる。
「あまり強く抱かれると窮屈なんだなー」
「え? なに?」
「いまの声カズマか?」
「いやいや、ボクやないで」
「でも柔らかくって居心地がいいんだなー」
ぷにぷに。ぷにぷに。
「きゃああああああああああああああああああ!」
ヨシノが絶叫してぬいぐるみを遠くに放り投げた。
「「あ~あ~、やっぱり!」」
ぬいぐるみは空中でくるりと回転して短い2本足でスタッと着地した。
「どうした、ヨシノ!」
「む、胸をもまれましたあっ!」
「なんだと、ゴラァ、カズマぁ! 俺のヨシノになんてことしやがる!」
「いやいやいや、ボクは無実や! 揉んでも
カズマは二本足で立っている白ネコのぬいぐるみを指さす。
「本当だってば。カズマは手を出してないよ!」
チカもカズマをかばう。
「そんな訳あるか!」
「で、でも、わたしの胸を揉んだのは、あのぬいぐるみさんです!」
自分自身を抱きしめて怯えているヨシノも証言する。
「そうか、わかった!」
「「ナニ、この扱いの差ぁ~」」
「いやあ、いきなり投げられて、びっくらこいたんだなー!」
ぬいぐるみから間延びした声が聞こえた。
「あのぬいぐるみ怪し過ぎます!」
「おい、お前ら、なんなんだアレは?!」
「わかった。説明したるから。ユーリぃ! もういい加減出て
「了解なんだなー」
ぬいぐるみは前屈みになって身をくねらせると、ミチッミチッとマジックテープが剥がれる音がした。白ネコのぬいぐるみの背中が割れて、割れ目から黒ネコが出てきて、直立したまま人間臭い背伸びをした。
「ふーう。空気が美味しいんだなー。ぬいぐるみの中は息が詰まるんだなー」
「白ネコから黒ネコが出てきた!」
「セミの脱皮みたい」
「しゃべるぬいぐるみの正体はコイツか!」
「むむむ。ぼくはコイツじゃなくてユーリ・タチネンコなんだな。はじめまして、どうぞよろしくなんだな」
二本足で姿勢よく立つ黒ネコがサブロウに右手を差し出す。サブロウはついその肉球付きの手をぷにぷにしながらお辞儀した。
「一色サブロウです。こちらこそどうぞよろしく! って、ユーリはもしかして化けネコかなんかなのか?」
「ぼくはお化けじゃないんだな。宇宙から来た宇宙ねこなんだな」
「「宇宙ネコ?」」
予想斜め上の事態にサブロウとヨシノの目が点になっている。
「そうらしいのよ」
「銀河連邦から派遣されたエラいヒトやで〜」
「なんだと?」
「宇宙人さんなんですか?」
「違うんだなー。ぼくはひと型生命体ではなくって、ねこ型生命体なんだな。だからエラいひとじゃなくてエラいねこ、宇宙人じゃなくて宇宙ねこなんだな」
「それがどうした! エラいヒトだかエロいネコだか知らないが、ヨシノの胸を揉んだのは許さんぞ、オッパイ星人!」
「それを言うならオッパイ
「師匠、アタシも揉まれたたのよ!」
「チカはともかく、ヨシノはダメだ!」
「師匠、ひどい!」
「86㎝、Bカップのヨシノの胸は俺のだ!」
「なにバラしてるんですか!」
「ぷげっ!」
怒ったヨシノ(187cm)の美脚によるケイシャーダ(カポエイラの内回し蹴り)がキレイに顔面に入って吹っ飛ぶ身長165cmのサブロウ。
「だ、だいじょうぶなのかな? 死んじゃわないかな?」
「大丈夫、大丈夫。師匠は受け身がうまいから」
「いつものこっちゃ」
「サブロウ先生はこれくらいへっちゃらです!」
「まあ、そうなんだけどな」
サブロウは何事もなかったようにさっさと起き上がった。
「わあ、すごいんだなー」
ユーリは思わず拍手をした。
しかし、ぷにぷにした肉球のせいで音はしなかった。
「で、でも、ぼくの方は、……もう限界、みたい、なんだな……」
そう言うと宇宙ネコのユーリはいきなりパタリと倒れてしまった。
「ユーリ! どうしたの⁉」
「宇宙ネコさん大丈夫ですか⁉」
「宇宙ネコだから地球の環境に馴染めていないのかもしれないぞ!」
「そんなあ!」
「おい、ユーリ! しっかりせえ!」
「お、お、お……」
ユーリがつらそうになにか言おうとしている。
「おい、どうして欲しい? なにか俺たちにできることはないか!」
「お、おなかが、ぺこぺこなんだなー」
「あ、そういえば、昨日から何も食べてへんもんな」
「ええええ!」
「おいこら、お前ら!」
「しゃあないって、機内や人前でネコのユーリに堂々と食事させるのもアカンやん?」
「そうよ。機内食はネコが食べちゃダメなものばっかりだったしね。ナッツ類に、タマネギ入りのツナサラダ、ブドウ、マンゴー、パパイヤ。チキンも胡椒がかかってたし」
「あ、そりゃあダメだな」
「かわいそうに! ユーリさん、何が食べたいですか?」
「うーん。
ぼ、ぼくはおむすびが食べたいんだな」
「「「「うん。なんとなくそんな気はしてた!」」」」
つづく
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