四十二話 想い溢れるバーベキュー(1)
名残惜しくはあったが、可憐で美しい花畑を閻魔様と共に後にする。
そして日がどっぷりと沈んだ頃、茜と葵が行く前と変わらず元気いっぱいに宮殿へと戻って来た。
「桃花、今帰ったアカ!! 腹減ったー! 今日の飯はなんだアカー!?」
「ただいまー桃花! あーオイラもお腹空いたアオー!!」
「はいはい、おかえりなさい。ご飯はもうすぐだから、ちょっと休んで待ってて」
わたしは台所でバーベキュー用の具材の下ごしらえをしていたのだが、二人は空のお弁当を開きながら楽しそうに今日の裁判所での出来事を報告してくれる。
「……んで、判断に困ったけど、閻魔様のお言葉を思い出してなんとか切り抜けたんだアカ! あっ、そうだ! 弁当に入ってた鶏のから揚げすっげーうまかったアカ!」
「そうそう、やはり閻魔様は偉大なお方アオ! あー唐揚げ、うますぎて茜と互いのを取り合って大変だったアオ。もちろんオイラが茜を負かして多く食べたアオ!」
「っバカ葵! んな恥ずかしいこと、ベラベラ喋んなアカ!!」
「バカはそっちだアオ! オイラにから揚げ食われて泣いてた癖にアオ!」
「だから余計なことは言うなアカ!!」
「はいはい、どうどう」
やれやれと呆れた表情の葵と、恥ずかしい情報を暴露されて自身の髪の毛よりも真っ赤な茜。小鬼時代を彷彿とさせる一触即発な雰囲気に、わたしは二人をベリっと引き剥がす。
「まぁケンカするほど気に入ってくれたんなら、作り甲斐あって嬉しいわ」
まだガルガルといがみ合っている二人に苦笑しつつ、食べやすいサイズにカットした新鮮なお野菜とお肉を交互に鉄串に刺していく。
そしてそんなわたしの様子を見た茜と葵はピタリと睨み合いをやめて、二人仲良く目を瞬かせた。
「桃花、それは一体何を作っているんだアカ?」
「どれも生だし、まだ作っている途中なのかアオ?」
二人の視線の先には今作っている串焼きの他に、生のイカやエビ、貝を盛り付けた海鮮皿や、ソーセージなどもある。
確かにこれだけでは、なんの料理か分からなくても無理はない。
「作っている途中といえば途中ね。はい、じゃあ二人にも仕事よ。このお皿たちを庭園まで運んで」
「「???」」
串焼きを盛り付けた皿や海鮮皿を茜と葵にそれぞれ渡し、わたしも他の具材を抱えて庭園に向かう。まだ二人は不思議そうにキョトンとしているが、それでも素直にそれらを受け取って健気にわたしの後をついてくる。
「ふふ、実はね……」
そんな姿が変わっても可愛らしい新米裁判官に、わたしは振り返って種明かしをした。
「今日はご飯を外で食べるのよ! みんなでバーベキューをしましょう!!」
◇◆◇◆◇
「――やぁ桃花、ちょうどいい感じに火を起こせたよ」
わたし達が渡り廊下から庭園に出ると、煤除けの白い割烹着と三角巾を着けた閻魔様が出迎えてくれた。そして見てくれと言わんばかりに、誇らしそうにパチパチと音を立てている炭火を指差す。
「ああ、本当ね。ありがとう、閻魔様」
なんで割烹着? 三角巾?? 他にもアウトドア用の服なんて、神力を使えばいくらでも手に入るだろうに……。
ビックリするくらい普段の威厳の欠片も無い姿だが、でもそれが妙にしっくりくるのは何故だろう?
「えっ、えっ……」
「な、ななっ……」
……しかし、しっくりくると思っているのはわたしだけだったようだ。
声にハッとしてわたしが振り返ると、後ろにいた茜と葵が持っていた皿を落とさんばかりに震え、そして――。
「えっ……、閻魔様ーーーーーーっっ!!? なんというお姿をしているのですかーーーーーーアカ!!?」
「きっ、気でも触れたのですかーーーーーーアオ!!?」
キーンと耳がつんざくような茜と葵の絶叫(発狂?)が冥土中に響き渡る。
ぐわんぐわんと揺れる頭をなんとか正気に戻すと、ちょうど閻魔様がちょっとムッとした様子で眉間にシワを寄せ、唇を尖らせているところだった。
「別に私は気など触れていない。桃花の夕飯の準備の
キリッとした顔で言ってるが、出て来た言葉は『お手伝い』である。威厳もへったくれもない。
さすがにこれではショックを受けている二人が可哀想だ。わたしは茜と葵に向かっておずおずと手を合わせる。
「あ、あの。茜、葵、なんかごめんね。一応わたしも止めたんだけど……」
「……いや、いいアカ。皆まで言うなアカ。もうだいだい察したアカ」
「まさか閻魔様がこんなやんちゃな方だとは。理解は追いつかないけど、理解したアオ」
「そう、理解は追いつかないけど、理解したアカ」
「あはは……」
やはり割烹着閻魔様は、二人には刺激が強すぎたのだろう。日本語がめちゃくちゃだ。
茜と葵の見た目は中学生くらいの筈なのに、まるで疲れ果てた哀愁漂うサラリーマンのように見えるのは何故だろう……?
「ま、まぁまぁ二人とも! これでも飲んで元気出して! シュワっとするから、気分もスッキリするわよ!」
とりあえず元気づけようと、二人が持っていたお皿を回収し、代わりにガラスのコップを渡してやる。
そしてそこに自家製のはちみつレモンスカッシュを注いでやれば、ヤケになったように二人は一気に飲み干した。
「ぷはぁっ! 確かにこれはスッキリするアカ!」
「はぁー! シュワシュワが喉に効くアオ!」
「炭酸だからね。で、どう? 少しは元気出てきた? おかわりいる?」
聞けば二人が目の前にコップを突き出してきたので、たっぷりとおかわりを注いでやる。
するとすぐさまもそれも二人は飲み干してしまった。
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