三十三話 心もほっこり、煮込みうどん
「よし、じゃあ早速作ってみましょうかね!」
台所に到着して準備を整えたら、まずは冷蔵庫を開いて食材の確認。しいたけ良し。鶏もも肉良し。かまぼこ良し。油揚げ良し。青ネギと卵も良し!
「そして忘れちゃいけないのが主役よね」
わたしは調理台の上にどんっと、小麦粉と書かれた紙袋を乗せる。
この小麦粉も冷蔵庫の奥に眠っていたのをわたしが発見したものだ。
「さぁ、今からこの小麦粉を使って、うどんを打っていくわよ!」
手打ちと聞くと、とても手間と時間がかかるイメージだが、実は案外お手軽に作ることも可能だ。
もちろん簡単な分、本格的なものには負けるが、それでもなかなかそれらしく仕上がるのである。
「まずは小麦粉とお水、それに塩を用意して、これらを全てしっかり混ぜる」
わたしは腕まくりして、気合いを入れて混ぜ始める。最初はボロボロとしているが、混ぜるごとに次第に生地と生地同時がくっつき合って丸くまとまっていく。
「ふぅ、こんなもんかしらね」
よく混ざり生地がつるんと綺麗にまとまったら、これを袋に入れて、次は踏みの作業を行う。この〝踏み〟こそが手打ちうどんを作る工程の中でも最も重要な部分で、ここでしっかり踏まないとコシが出ない。
なのでとにかく気合い。気合いを入れまくって、根性で踏んでいく。
「ふー、ふー。はぁー、足が疲れてきたー。あーこんな時こそ、茜と葵がいたらなぁ……」
きっとガンガン楽しげに踏んでくれて、さぞ頼もしかっただろう。とはいえ二人は大切なお仕事中なのだ仕方ない。
またドタバタと騒がしい足音を立てて、お腹を空かせて帰ってくるだろうから、美味しいものを食べさせてあげる為にも今はわたし一人で頑張らねば。
「ふー……。さてだいぶ踏んだけど、これくらいでいいかしら?」
わたしは流れる汗を拭って、根性で踏んで踏んで踏みまくった生地を確認する。
「お、モチモチ。うん、弾力があっていい感じ」
という訳で、踏みの工程はこれにて終了。
ここまで来たら、手打ちうどんの完成までは後ちょっとだ。
「細過ぎず、太過ぎず、均一に……」
踏んだ生地を袋から取り出したら、めん棒でゴロゴロと少しずつ薄く長く生地を伸ばす。
出来たら更に伸ばした生地を三つ折りにたたみ、これを包丁で均一の太さになるように麺状に切っていく。
「麺切り包丁まであるなんて、本当この台所ってすごい。なのに今まで使われなかったなんて、勿体なさ過ぎだわ」
ぶつぶつと呟きながらも、サクッと生地を最後まで切り終えれば……。
「じゃじゃーーんっ!! お手軽手打ちうどんのかんせーーいっ!!」
いつもならここで茜と葵の歓声が聞こえてくるところだが、今はシンと静かだ。
なんだか物足りず寂しいが、料理の完成まであと一息。気を取り直して調理を再開する。
「えーっと、お
お鍋からホワッと出汁のいい匂いが立ち、わたしのお腹も「ぐぅ」と音を立てる。
「後はうどんと出汁と、他の具材も一緒に煮込めば完成だけど……。うーん……」
食器棚から人数分の小鍋を取り出して、わたしは思案する。
「でもうどんは茜と葵が帰って来てから煮込もうかな。せっかくの手打ち麺が伸びちゃうものね。あとこれ一品って訳にいかないし、副菜は何がいいかしら?」
うどんが熱々なんだから、副菜は冷たい料理の方がいいだろうか?
なんと言っても、閻魔様は猫舌なのだし。
「……ふふっ」
思い浮かんだ昨日の卵粥を何度もフーフーする閻魔様の様子に吹き出しつつ、わたしは冷蔵庫を開ける。
今度は副菜を作る為に――。
◇◆◇◆◇
「出来たぁーー! ……って、わぁ! もう真っ暗じゃない!」
副菜としてかぼちゃの煮物と豚しゃぶのサラダを作り終えた後、窓の外を見れば夕日はすっかり沈んでいた。
「そろそろ茜と葵も帰って来る頃かしら? ……あ」
ドタバタと騒がしい足音を廊下から響く。
「ふふ、噂をすれば……ね」
わたしは足音を聞きながら、寝かせておいたうどんを小鍋に取り分けて、ぐつぐつと煮込み始める。
「おーうまそうな匂いがするアカ! 桃花、ただいまだアカー!」
「お腹空いたアオー! 早くご飯だアオー!」
すると案の定というか、出汁の美味しそうな匂いにつられて、今朝と変わらず元気な茜と葵が、台所にどやどやと入ってきた。
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