第四章:流れゆく時の中で

その十六:イオタ


「サーナっ!」



 イオタは私の名を叫びながら追って来る。

 でも私は止まらない。


 今もし止まってしまったら、私はイオタを受け入れてしまいそうだった。



 もう終わりにしなくてはいけない。

 定め有る者とそうでない私たちは一緒にいられない。

 そんな事は終わりにするべきだ。


 そして私は今だに彼を忘れる事が出来ないでいる。



「サーナっ! ちょっと待ってくれ!!」


 それなのにイオタは私をってくる。

 駄目なのに、いけないのに。


 しかし私の走るスピードはだんだん遅くなり、イオタに抱き着かれる。



 ばっ!

 抱きっ!!



「待ってくれサーナ! やっぱりごまかせない。俺は君の事が好きだ!」


「!?」



 イオタのその言葉を聞いて一瞬息が止まる。

 正直とてもうれしい。

 それと同時に決してそれを受け入れてはいけない気持ちが津波のように押し寄せて来る。



「……イオタ、ごめんなさい。それはダメ。もう終わりにしましょう」


「嫌だ! 俺やっぱり自分の気持ちに嘘がつけない。好きだサーナ、君がエルフだろうが何だろうが関係ない! 俺が好きになったのはサーナ自身なんだ、種族や年齢なんか関係ない!!」


 ぎゅっと後ろから抱きしめられるその腕の力が強くなる。

 その力強い抱きしめに私の心はグラグラと揺れる。



「でも…… 私は以前の彼を忘れられない。そしてあなたはきっと私を残して先に死んでしまう運命よ?」


「そんなの関係ない! 俺は君が好きなんだ!!」



 イオタのその強い思いに私はいけないとわかりつつも、彼を見る。

 そこには優しい笑顔のイオタがいた。


 

 私はその彼の瞳を見つめ、引き寄せられるように彼と唇を重ねるのだった。 




 * * * * *



「……夢見たい」


「どうしたのサーナ?」



 そろそろ夜が明ける。

 私はベッドの中でイオタに優しく抱きしめられたままそう言う。

 

 結局私はイオタを受け入れてしまった。

 そしてイオタに抱かれた。


 抱かれている間、彼の姿がチラチラと脳裏をよぎったが、それでも今はイオタを愛おしく思う。

 そう、もう彼とはお別れなんだ。

 そして今の私にはイオタがいる。



「なんか、彼からの呪縛から解き放たれたみたい……」


「何それ?」


「うん、昔の彼氏に私はこの二百年間ずっと縛られていたんだと思う。彼が私を守って身を挺して身代わりになったあの時からずっと。だから守られるはずの無い約束をずっと信じていた。ううぅん、本当はそんな約束守れないの知っていた。でも、信じたかった。だから今回このジマの国に来たのは彼との約束を果たしに、そして最後のお別れを言う為に来たの……」



 イオタに私の本当の気持ちを伝える。

 するとイオタは私をぎゅっと抱きしめて軽く口づけをする。



「大丈夫、今後は俺がサーナを守る。この命続く限りぜったいにだ」


「ふふふふ、すぐに寿命で死んじゃうくせに…… 私も好きよイオタ……」



「サーナ……」



 初めて自分からイオタに「好き」と言ってしまった。

 しかしそれはたとえ短い命の彼であっても、彼を愛すると言う覚悟の表れ。




 私が自分の気持ちを言うと、イオタはまた優しくキスしてきて私を抱くのだった。

  

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