その十五:ジマの国


 私たちは野宿のオレンジ色の焚火の明かりに映し出されていた。




「なぁサーナ、明日にはジマの国に着くそうだけど、君の目的って何なんだい?」


 イオタは焚火に薪を入れながら聞いてくる。

 そう言えばイオタには私の旅の目的を言ってなかった。


「ある人のお墓があるのよ、ジマの国にはね」


 私はそう答えながらイオタを見る。

 イオタは焚火越しに私を見ながら聞いてくる。



「それって、サーナの昔の彼氏か?」


「……うん」



 私がそう答えると、イオタは鼻の下を擦る。

 まるであの人そっくりに。


「そうか、サーナの昔の彼氏か……」


「カッコつけて、最後には私を守って死んだわ。まったく、無理しちゃってね……」


 苦笑気味に私がそう言うと、イオタは薪をまた焚火に入れる。

 ぱちぱちと薪が萌える音がする。



「そうすると、サーナの目的はお墓参り?」


「それもあるんだけどね。うーん、約束では二百年後に何が何でも生まれ変わって私の前にまた来るって言ってたんだけどね。あの時は私を安心させるための無茶苦茶な言い訳ね。まぁ、そんなに自由に転生できるなら、すぐにでも転生しろっての」


 私がそう言うと、イオタは苦笑して言う。


「じゃぁ、本当に転生してるかどうかも分からないのかよ?」


「うん、でも約束したからお墓に行く事にしたの」


 私はそう言って、イオタの剣を見る。

 その剣はその昔彼が使っていたモノ。

 それを今はイオタが使っている。


 でも、それでも良いと思う。


 私は二百年待った。

 だけどこれは決して果たせない約束。

 だから私は約束の二百年後に彼のお墓の前に立ってお別れを言うつもり。


 もう彼は戻っては来ない。

 そして、転生もしない。


 だから……



「サーナ?」


「あ、うん、ごめん、なんでもない」


 いつの間にか涙が流れていた。

 この旅は自分の気持ちにケリをつける為のモノ。

 最後に彼のお墓に向かって、お別れを言う為のモノ。


 だから私は約束通りジマの国に行く。



「そっか…… じゃあ、お墓参りしたらその後は?」


「うん、エルフの村に帰ろうと思うの」


 イオタのその質問に涙を拭き取りながら私は答え、ふと気になってイオタに聞く。


「イオタはジマの国に行ったら何をするの?」


「うーん、当初は黒龍様やジマの国の騎士を見て見たかったけど、サーナと無事ジマの国に行く事が目的になってた」


「何それ?」


「俺にも分からないさ。でもサーナと旅をした事は良かったと思う。正直楽しかったよ」


 イオタはそう言いながらまた薪を焚火に入れる。


 

「でもその旅も、もうじき終わりか……」



 ぱちっ



 焚火が音を鳴らして、しばし沈黙が続く。

 その沈黙に耐えられなくなって私は口を開こうとすると、先にイオタが話し出した。



「俺、ジマの国でしばらくしたらイザンカ王国へ向かおうと思うんだ。あそこは傭兵の募集もしてたし、このイージム大陸で自分をもっと鍛えようかと思う」



「あ、え、う、うん、そう……なんだ……」


 私は一体全体イオタに何を言おうとしたんだろう?

 それは口にしてはいけない事だ。

 もう限りある命を持つ者と、私は一緒にいてはいけない。


 それは分かっているはずだった。



「ごめん、先に寝るね。しばらくしたら見張り交代するから、起こしてね」


「……ああぁ」



 そう言って私は毛布にくるまり目を閉じるのだった。




 * * * * *



「ここがジマの国か!」


 

 イオタは眼下に広がる盆地にあるジマの国を見ている。

 北側には険しい山を背景にジマの国のお城が建っている。


 ここジマの国は東の海辺を抜かして、周りがぐるりと険しい山々に囲まれている、天然の要塞のようになっている。

 ジマの国に陸路で入るには私たちが通って来た渓谷の谷間を通るしかない。

 それ以外は険しい山で、容易にその山々を超える事は出いない。


 入国の際に検問所があって、そこで税金を払うと入国できる。

 私とイオタは税を納め街の中に入って行く。



「ジマの国って、何となく独特な雰囲気だよな?」


「ええ、そうね。それだけこの国は特殊でもあるのよ」


 言いながら私はお城を見上げる。

 ジマのお城は険しい山の上にあり、そこへ行くまでに十二の関所を通らなければならない。


 その昔、一度は亡者の国と化したここも一千年以上の時を経て、元の美しい街並みになっていた。

 記憶の中にある二百年前とほとんど変わらない街並み。



 ふと、私は立ち止まる。



「サーナ?」


「イオタ、ここまでありがとう。私は約束を果たしに行くわ」


「ちょ、ちょっと待てよサーナ、俺も行くよ」






 イオタのその言葉に何故か私は逃げ出すようにその場を駆け出すのだった。 



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