その十三:女神神殿


「どこへ行った!?」



 イオタはあの女の子が逃げ去った方へ走るも、その姿はもう見当たらない。

 通りから入った細い路地を左右に見渡しているけど、さっきの子の影も姿も無い。


「ちょっと待ってイオタ、『風の精霊よ、あの子を探して!!』」


 私は闇雲にあの子を探すイオタに待ったをかけて、エルフ語で風の精霊にお願いをする。

 風の精霊はすぐに私の声に応えてあの子を探す。

 そして、あの子の軌跡を見つけ出し私に教えててくれる。



「イオタ、こっちよ!」


 私はイオタにそう言って走り出す。

 すぐにイオタも私について追ってくる。


「見つけたのか、サーナ!?」


「風の精霊に反応があったわ。こっちみたい!」


 イオタに答えてつつ、私たちは通りを曲がると少し開けた場所へ出た。

 そしてその後ろ側には女神神殿があった?



「サーナ、ここって……」


「女神神殿。でもなぜ?」


 不思議に思っていると、女神神殿の前にあるその建物から子供の声がする。

 私とイオタは頷きあってからそっとその建物に行くと、どうやら孤児院のようだ。

 質素なボロボロな建物。

 後ろにあるきらびやかな女神神殿とは大違いだ。


 私たちは建物の窓から中を覗き込む。

 すると、その子供たちの中にあのフードをかぶった少女がいた。


「いたな。すぐに捕まえてやる!」


「待ちなさいイオタ。少し様子を見ましょう」


 今にでも飛び出しそうなイオタを私は引き止めて、しばし様子を見る事にする。

 すると、フードをかぶった少女はフードを降ろすと、そこから動物の耳が現れた。


「獣人? イージム大陸で獣人なんて珍しいわね?」


「なんでこんな所に?」


 獣人族は北のノージム大陸とウェージム大陸の北方の一部にしかいない。

 珍しく、その昔は好事家によって奴隷として売り買いされていた。

 しかし今は彼らの立場も保証され、ノージム大陸に彼らの部落がある。


 見れば獣人の少女の周りにはさらに小さな子供たちがいる。

 子供たちは彼女になついているようで、周りに人だかりになっている。


 そして、奥から老齢のシスターがやって来た。

 彼女は獣人の少女に何か言っているようだ。

 すると小さな子たちは獣人の彼女の後ろに隠れるようにしている。


 しばし様子を見ていると、獣人の少女は懐から「精霊石」を取り出す。

 するとシスターはにんまりと笑ってそれを奪い取る。



「イオタ、行くわよ!」


「ああっ!」



 それを見た私たちは直ぐに行動に出る。

 


 ばんっ!



「な、なんだい!?」


 驚くシスターにイオタは「操魔剣」を使い、一気にシスターの腕を取る。


「これは依頼で神殿に届けなきゃならいなものなんだ、返してもらう」


 そう言ってシスターの手から精霊石を奪い取る。

 シスターは唖然としていたがすぐにこちらを睨んで叫ぶ。



「なんなんだいあんたらは!?」



「精霊都市ユグリアのファイナス市長から女神神殿に『精霊石』を届ける様に依頼を受けた者よ。あなた、これが盗品だと分かっているのでしょう?」


 私はシスターに指を突き付けそう言うと、彼女は視線を外しながら言う。


「し、知らないよ! あたしゃこの孤児院を運営するのにそこの子が持ってきたこれをお金に変えるだけだからね! どう言う品物なんか知らないよ!!」


「孤児院のシスターが言うセリフじゃないな?」


「あ、あたしだって仕方なくこいつらの面倒を見てやってんだよ! 神殿からの金だけじゃこの子らの面倒なんか見れやしないよ!!」

 

 シスターは唾を飛ばしながらそう言う。

 



「そうかしら? 私たちが与えている資金はそれ程少なくないはずよ?」



 あからさまに何か有るシスターの弁明に、奥から別の声が聞こえてきた。

 この声、私も知っている。


「ま、まさかこの声って……」


「あら、サーナじゃない? こんな所で何しているのよ?」


 その声の主は紛れもない、「災い世呼ぶシェル」その人だった。



「シェ、シェルさんっ!?」



「久しぶり。しかしこんな所で出会うとはね」


 にっこりと笑うその女性は、エルフの中でも飛び切り美人ではあるものの、村に戻って来ると彼女の意思に関係なく必ず何か良く無い事が起こると言われるエルフ!



「それで、どうですの?」


 私が驚いていると、シェルさんの後ろからもう一人、金髪碧眼、こめかみの上に三つづつトゲのような癖っ毛のあるエルフから見ても超美少女が出てきた。



「エ、エルハイミさんまで!?」



「あら、えーと確か、エルフ村にいたサーナさんでしたっけ?」


 にっこりとそう笑う彼女に私は更に唖然とするのだった。



 * * * * *



「つまり、ファイナイス長老から『精霊石』を預かって来たのがサーナたちだったって事ね?」


「はい、しかしシェルさんが何故ここに?」



 今私たちは女神神殿にいる。


 あの後、シスターは腰を抜かす程シェルさんを見て驚き、懇願して今までの罪を全て吐いた。

 結局のところ慈善事業を任されたこのシスターが孤児院へ回された資金を着服して、更に俊敏な獣人の娘に何とかしろと言って盗みなどをさせ更に私腹を肥やしていたのだった。

 当然この事は神殿に伝えられ、女神様の名のもと厳格に処分される。

 そして孤児院の子たちも女神様の名のもと手厚く保護されることになるのだったが……



「サーナ、こちらのエルフの人とそちらの女性は?」


「うっ、シェ、シェルさんどうしましょう?」


「別にいいわよ、本当の事言っても。サーナがパートナーに選ぶ人なら大丈夫でしょうし」


「いや、旅仲間でそんなパートナーとかそう言うのじゃ……」


「そう? まんざらでもないのでしょ?」



 シェルさんにそう言われ、何となく顔が熱くなってくる。

 イオタとはそう言う関係ではないけど、そうなっても良いかもと思った時もある。

 私も人肌が恋しいのかもって、その時は思っちゃったし。


 私はイオタをチラチラ見るけど、当人は何も気づいていないみたいだ。

 むしろ、シェルさんやエルハイミさんを見て鼻の下を伸ばしている。


 確かにこの二人は飛び切りの美人だけど、私の目の前で他の女性に気を取られるのは面白くない。

 思わずムカムカしてイオタのモモをつねる。


 

 ぎゅっ!



「いてぇっ! サーナ何するんだよ?」


「ふんっ! 良い事イオタ、これは絶対に他言無用だからね! こちらのエルフは『女神様の伴侶』と呼ばれるエルフ、シェルさんよ!」


 私がそう言うとイオタはシェルさんの顔を見て呆然とする。

 シェルさんは私にそう紹介されてにこりと微笑む。

 そして……



「そして、こちらの女性は女神様です」



 私がそう言うと、エルハイミさんはエッヘンと言う顔でドヤ顔して微笑む。

 しかし、イオタはエルハイミさんの顔とシェルさんの顔を見比べて私を見る。



「なんだって?」


「だから、こちらの少女が女神様なの! 女神エルハイミ様なのよ!!」



 私のその説明にイオタはもう一度エルハイミさんの顔を見てから叫ぶ。






「はいぃぃぃぃっ!!!?」


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