第三章:真相
その十二:ドドス共和国
ドワーフの国からドドス共和国へは数日で着く。
但し、相変わらず魔物は出るけど。
「ロックバードだ! 弓使いと魔法使いはすぐに応戦をしてくれ!!」
岩山の崖際を進んでいると、ロックバードが襲って来た。
ワシのような、まだそれほど大きくなっていない個体でも人一人くらいは簡単に捕まえて飛び去る事が出来る。
捕まったら最後、巣に連れられて行って食べられてしまう。
「サーナ、俺たちも!」
「ええ、でも決してロックバードに捕まらないでよ?」
そう言いながら私たちも出る。
私はすぐに風の精霊を呼び出し、ロックバードに風の刃を差し向ける。
「風の精霊たちよ、その風の刃を使い我が敵を切り刻め!!」
ずばっ!
『きえぇええええぇぇぇぇっ!!』
羽に傷を負わせることは出来たけど、致命傷には至らない。
ややも飛行に影響を及ぼしてはいるけど、まだまだ相手はやる気だ。
こちらの護衛が弓矢を放つ。
矢の軌道を邪魔しないために私も弓矢を取り出し、その矢を放つ。
ひゅんっ!
ばさぁッ!!
「くそ、羽ばたきの風で矢が届かない!!」
「くっ、もう一度精霊魔法を! 矢を放つのをやめて!!」
私たちの放った矢は羽ばたきで明後日の方向へ飛ばされてしまった。
なのでもう一度精霊魔法をと思っていたら、ロックバードが急降下してきた。
「しまった!」
ロックバードは私が精霊魔法を使っているのに気付いた様で、真っ先に私に襲いかかる。
が、その爪が迫る瞬間、私とロックバードの間に影が入る。
がきんっ!
「くっ、だがまだまだぁッ!」
それはイオタだった。
ロックバードのあの鋭い爪を、あの剣で弾いた。
それも「操魔剣」の踏み込みを使って。
漸っ!
『ぐえぇええええぇぇぇぇっ!!』
イオタはロックバードの爪を受けたその剣で、返すかのように振り込みロックバードのモモに斬り込む。
それは見事にロックバードに傷を負わせ、援護で飛んでくる矢にロックバードは慌ててこの場から逃げ出した。
「ふぅ、行ったか。サーナ大丈夫か?」
「ええ、ありがとう。ふふふふ、この私を助けられるようになるなんて、強くなったじゃない?」
「そうか? この剣のお陰だよ。あの一撃にびくともしない」
そう言ってイオタはその剣をかかげてみる。
ほころび一つないそれはあの時あの人が使っていたあの剣。
ドワーフのタルタルが丹精込めてあの人の為に作った剣。
その剣に今回も守られた。
私は微笑んでイオタに言う。
「ありがとう、その剣はきっとあなたと共にもっともっと強くなるわ」
「ああ」
イオタは嬉しそうにそう答えるのだった。
◇ ◇ ◇
ドドス共和国。
ここドドスの街を中心に近隣の町や村からなる共和国。
とは言え、この大陸最大の女神神殿がここに在る事を良い事に、貴族と呼ばれる連中がドドス街でその権威を振りかざしているので、近隣の町や村からの信頼は無い。
共和国を名乗って、共和国王がいるけど、その忠義は非常に低い。
ではそんな共和国をまとめているのは何か?
それはズバリ、ドワーフとの交易と女神神殿があるからだ。
一応、それ等の窓口としてこのドドスの街がある。
なので物流も人も全てこのドドスの街に集中する。
結果各ギルドやら何やらもここに拠点を置かざるを得なくなり、古来よりこのドドスの街が中心となってしまっていた。
「へぇ、ここがドドス共和国の首都、ドドスの街なのかぁ」
「首都、と言うとちょっと違うのだけど、まぁドドスと言ったらここかしら……」
ここドドスは私たちエルフにすると少々居心地が悪い。
と言うのも、ドワーフとの交易が盛んなため、ここにはドワーフの職人たちも多い。
結果、土と炎の精霊力が強く、そのバランスが悪い。
精霊酔いはしないけど、あまり居心地がいいとは言えない。
「それで、ファイナス長老からの依頼って言うのは何だっけ?」
「ああ、女神神殿にこの『精霊石』を届けて、『鋼の翼』の補修だったわね」
「なぁサーナ、その『鋼の翼』って何だよ?」
キャラバンは商業ギルドに着いて、私たちも馬車から降りて街中に入る。
通りを歩きながら、まずはファイナス長老の依頼をこなさなければならない。
その為に女神神殿に向かっているのだけど、イオタはドドスの女神神殿から天界に行ける事を知らないらしい。
「知らないの? 数年に一回、ここドドスの女神神殿から女神様の住まう『天界』へ偉業を成した者たちが呼ばれるのよ。その時に『鋼の翼』と呼ばれる空飛ぶ船に乗るの。その動力源にこの『精霊石』も使われているのよ」
言いながら手渡された『精霊石』を取り出し、イオタに見せる。
七色とまでは言わないけど、赤や青、茶色や銀色に輝くそれはとても奇麗だった。
「そうなんだ。知らなかった」
イオタはまじまじと私の手元の精霊石を見る。
そして私の顔を見て聞いてくる。
「で、その女神様の神殿ってのは何処にあるんだい?」
「ええぇとぉ、多分こっちだと思うのよね……」
商業ギルドから出て、大通りを歩いているけど街並みが変わっていた。
確かに大通りは変わってないのだけど、建物や細かい通りが変わっているので、昔の記憶を思い出しながら神殿に向かう。
多分、大通りを通って行けば問題無いと思うけど……
どんっ!
そんな事を思いながらきょろきょろと周りを見ていたら誰かにぶつかった。
「おっと、ごめんなさい」
「……」
ぶつかったのは私より小柄なフードをかぶった女の子?
その子は何も言わずにすぐに通りの向こうへと行ってしまった。
まぁ、このドドスではエルフは珍しいから驚かされたかな?
そう思ってなんか違和感に気付く。
それは手に持っていた精霊石がなくなっている事。
「あれ?」
そう言って落としたのではないかと、周りをきょろきょろ探すけど無い。
「どうしたんだよサーナ?」
「『精霊石』が無い!」
「え? さっきまで手に持ってたんじゃ…… あっ!」
イオタは何かに気付いたように駆け出す。
「さっきの子だ! 盗まれたんだよ、スリだ!!」
「あっ!」
イオタのそれに私もようやく気付き、慌ててイオタの後を追うのだった。
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