その十一:ドワーフ王国オムゾン
私たちはアスラックの港町を出発したキャラバンに同行してドワーフの王国、オムゾンに向かっていた。
「敵襲! ロックワームだ! 護衛はすぐに展開しろっ!!」
キャラバンの隊長が大声をあげて指示を飛ばす。
アスラックの港町を出て既に三日が経っていた。
ドドス共和国へ直接行くルートは、グリフォンの群れが繁殖期で狩場としていて危険すぎるのでドワーフの王国経由でドドス共和国を目指す事となった。
しかしそこはやはりイージム大陸。
こちらのルートはこちらのルートで魔物が多い。
「サーナ、俺たちも手伝うべきかな?」
「今は様子見でいいわ。その為にこのキャラバンには護衛が付いているのだし、危なくなったら手を貸すくらいでいいわよ」
実際キャラバンに同行するのに代金を取られている訳なので、私たちは一応お客さんな訳だし。
護衛の人たちだって、それ専門で雇われている訳だからお手並み拝見と言ったところか。
「そ、そっか。分かった。でも何か有ったらすぐ出られるようにしなきゃな」
「ロックワームくらいなら問題無いと思うわよ。あの魔物は大体一メートル前後で、音に反応して襲ってくるからね。魔物よけの鐘を鳴らしているのに出て来るって事は、はぐれか群れかのどちらかよ。はぐれなら簡単に退治できるからね」
二日目あたりから周りは岩場が多くなり、渓谷に差し掛かって来ていた。
ここをもう少し行くと不毛の岩山に辿り着き、そしてドワーフの王国がある洞穴に着く。
この辺にはロックワームと言う、岩の隙間などに潜んで襲ってくる芋虫とムカデを足して割ったような細長い気持ちの悪い魔物がいる。
音や匂いに敏感で、近くを通る小動物を襲って食べる肉食獣だ。
しかし、これだけの大規模なキャラバンを襲うと成ると、もしかしたら群れかもしれない。
「くそ、数が多い!」
「そっち、行ったぞ!!」
外から聞こえて来る護衛の声は、ロックワームが一匹でない事を示していた。
「これは手伝わないとダメかしら? イオタ!」
「おうっ!!」
状況的には群れの方だったみたい。
一匹一匹はそれほど強くないけど、群れで来られると厄介な魔物だ。
絡み付き、それをはがしているうちに他のが襲ってくる。
そうすると、人間位でもあの魔物に食い殺される事もある。
私たちは馬車から飛び出し、状況を見取って動き出す。
「大地の精霊よ、彼のモノの動きを止めろ!!」
「はぁっ!!」
私は岩に張り付いてこちらに飛び掛かろうとしているロックワームたちを土の精霊を使って束縛する。
イオタはそこへ一気に足に魔力を込めて踏み込み、かなりの間合いの外からロックワームに一撃を入れる。
硬いムカデの殻のような継ぎ目を狙って切り込んだそれは見事に一刀両断にする。
アスラックでの私の手ほどきが功を成していた。
イオタは私が使える「操魔剣」の基礎である踏み込みを習得していた。
これが出来る出来ないでは、戦士として雲泥の差が出来る。
「加勢感謝する! まだまだ来るぞ、頼む!」
「分かったわ! 風の精霊よ、その風の刃で我が敵を切り刻め!!」
どうやら護衛のリーダーか何かだろう、私たちの加勢に気付きすぐに指示を飛ばして来る。
こういう指示系統がしっかりしている時はそれに従う方が効率的だ。
私とイオタは彼の指示に従ってロックワームたちを次々と倒してゆくのだった。
* * * * *
「加勢てくれて感謝する。助かった、俺はバーク、護衛のリーダーをしている」
ロックワームを倒し終わると、護衛のリーダーであるバークと言う人が私たちの所へ来て手を差し伸べる。
私もイオタもその手を握り握手する。
「相変わらずこの辺の魔物は多いのかしら?」
「そうだな、最近は活発化でもしているのか小型の魔物でさえこうして襲ってくる。この辺は来た事があるのか?」
バークは私を見ながらそう聞いてくるので、頷きながら答える。
「ええ、昔にね」
「そうか、今回の加勢についてだがキャラバンの隊長に交渉して少しは出せる用意する」
そう言ってバークは片付けの為行ってしまった。
「サーナはここにも来た事があるのか?」
「うん、昔ね。でもまぁこんな小さなロックワームが襲ってくるのは珍しいわね?」
一メートル無いのがほとんどの群れだった。
それがキャラバンに襲いかかると言うのは珍しい。
相当に気が立っているか、それともほかの理由があるのか。
「でも、このくらいのなら今のイオタなら余裕でしょ?」
「まあな、サーナに鍛えられたからな」
イオタを下から覗き込みそう言うと、イオタは苦笑しながらそう言うのだった。
* * * * *
その後も何度か魔物と遭遇するも、難なく撃退して私たちは山間にある洞穴に着く。
その洞穴の入り口はそれほど大きくは無いものの、石造りの門があって、ドワーフの門番が立っていた。
「とまれ、キャラバンか? 通行書を見せてくれ」
門番のドワーフがキャラバンと止めて、通行書を確認する。
そして軽く検問をして中に入ることを許可される。
「ここがドワーフの国か!」
イオタは目を輝かせながら洞穴の中を見る。
そこは明らかにこの岩山の大きさ以上の空間が広がっていた。
ここドワーフの王国オムゾンは、妖精界とこちらの世界が混ざっていると言われている。
だから岩山の大きさ以上の広い空間があり、街や城などが収まっている。
二百年ぶりに訪れるけど、相変わらず土と火の精霊力が強い。
「すっげーな、こんなに広いだなんて!!」
「ここは半分妖精界と繋がっていると言われているわ。その昔、古い女神様たちがこの世界を精霊界、妖精界、そして人間界と分けたのだけど私たちエルフやドワーフは妖精界からこちらの人間界に移り住んだと言われているわね」
古い言い伝えを思い出しながらそう言うモノの、私にはそんな妖精界なんて実感できない。
「世界樹」のあるあのエルフの村がもしかしたら妖精界なのかもしれないが、気にした事もない。
「へぇ~、そうか、サーナたちも妖精界の住人だったんだ。どうりで奇麗なはずだ」
「お世辞言っても何も出ないわよ? それよりここには二日間しか滞在しないから、商業ギルドに着いたらすぐに知り合いの鍛冶屋に行きましょう。二百年前のままなら好い剣が手に入るわ」
正直あまり行きたくはないけど、あいつの作った剣なら信頼できる。
彼の時もそうだった。
あの人の為に作ってくれた剣は、私たちの冒険でたびたび役に立った。
だからイオタにもあいつの打った剣を持たせてあげたい。
「知り合いの店? でも二百年も前なんだろ? まだあるのかな」
「ドワーフも長命族よ。寿命だって千年はあるから、多分大丈夫だと思うわ」
私はそう言って、キャラバンが商業ギルドに着いたら早速イオタを引っ張ってあいつの店へ向かうのだった。
* * *
「うーん、この辺だったはずなんだけど……」
記憶をたどりに、あいつの工房を目指すも微妙に街並みが変わっていた。
「大丈夫なのかよ、サーナ? 誰かに聞いた方がいいんじゃないのか?」
「だ、大丈夫よ! ほら、多分こっち!」
言いながらイオタの手を引っ張る。
とは言え、もう一時間近くこの辺をぐるぐるしてしまっている。
記憶が正しければ、この辺のはずなんだけど……
「サーナか?」
しかしその声はいきなり後ろからかかって来た。
驚き振り向くと、背負い籠にたくさんの鉱石を背負ったドワーフがいた。
「タルタル! 良かった~、あなたの工房を探していたのよ!」
「儂の工房は五十年前に別の場所に移ったのじゃが」
「あ”あ”ぁっ! 道理で見つからないはずだ!!」
私がそう叫んでいると、イオタが横でジト目で見ている。
「違うのよ! 前だったらこの辺で間違いなかったんだから!!」
「はいはい、それでこっちの人がサーナの言っていた……」
「タルタルと言う。お前さんは?」
「イオタだ。よろしく」
イオタはそう言ってタルタルに手を差しのべる。
タルタルはイオタと握手をして、イオタの顔を見ながら言う。
「ふむ、剣士か戦士じゃな? このタコのつき方は片手剣か。サーナ、儂を訪ねてきたのはこの者の武器じゃな?」
「察しが良くて助かるわ。お願いできる?」
「ふん、まぁ昔のよしみじゃ。とりあえず儂の工房に来るがええ」
そう言ってタルタルは私たちを引き連れて彼の工房へと向かうのだった。
* * *
「親方、鉱石どうなりましたか!?」
「ほれこの通りじゃ」
タルタルに連れられて行った工房は、そこそこ大きな場所だった。
そしてお弟子さんと思われる若いドワーフが数人いた。
「タルタル、これって……」
「儂も弟子を取る年になったんじゃよ。もう六百歳を超える」
そう言えばタルタルは私より年上だった。
長寿族でエルフ以外でもそこそこ長生きなドワーフ。
場合によっては私より年上なのもいる。
「して、そこの小僧は剣でいいのかの?」
「え、ああ、うん。彼に合いそうな剣ってある?」
タルタルに聞かれて私は慌てて答える。
するとタルタルはイオタを見て言う。
「……こ奴、まだまだ強くなるぞ? 普通の剣では足りぬじゃろう。どれちょっと待っておれ」
そう言ってタルタルは奥へと行ってしまう。
私とイオタは工房で作業を続けるお弟子さんたちの様子を見る。
「なぁ、サーナ。あのドワーフって昔の知り合いなんだろう?」
「うん、昔私たちがパーティーを組んで冒険していた時の仲間よ。もう二百年くらい前の話だけどね」
私がそう言うと、イオタは自分の手を見て言う。
「じゃあ、あのドワーフが言うように俺ってまだまだ強くなれるのか?」
「タルタルがそう言うのだもの、間違いないわね」
私はにっこりと笑ってそう言うと、イオタも笑顔になる。
「だったら、金等級目指していつかサーナの横にいても引けを取らないくらいにならなきゃな!」
どきっ!
そう言う彼の笑顔に何故か一瞬鼓動が高鳴る。
それはあの人がまだ私と出会ったばかりの頃に言った言葉と同じ。
そんな事を思い出していると、タルタルがやって来た。
「ほれ、小僧。儂の集大成じゃ」
そう言ってタルタルは布に包まれたその剣を取り出す。
私はその剣を見て一瞬息が止まる。
「すげぇ、見ただけでわかるほどの技物だ!」
イオタは手渡されたその剣を握りしめ見ている。
タルタルはいつの間にか私の横に来ていてぼそぼそと言う。
「もう二百年じゃ…… あの剣も遊ばせておくよりはお前さんと共に行く者に託した方がいいじゃろう?」
「あ、う、うん…… そうかもしれないわね……」
喜んで剣を素振りしているイオタに、私は彼の面影を重ねる。
あの人もタルタルの剣を渡された時に喜んでああして素振りをしていた。
イオタは確実にこの後も強くなる。
きっと彼と同じく。
「ありがとうタルタル。そうだお代は?」
「いらんわい。持って行け」
タルタルはそれだけ言うと、小さな瓶を私に手渡して来る。
「行くのじゃろう、ジマの国に。儂はもう歳じゃからな、これをあいつに持って行ってやってくれ」
「タルタル…… うん分かった。ありがとう」
私はその小瓶を受取り、もう一度イオタを見る。
イオタはまだまだ楽しそうにその剣を振っているのだった。
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