その八:船


 サージム大陸の南東にある港町のツエマ。

 

 私たちが住むこの世界には大きく分けて四つの大陸がある。

 エルフの村がある南方のサージム大陸。

 その北西側にはウェージム大陸があり、更に北に行くとノージム大陸がある。

 そしてここ港町のツエマから私の目的地がある東のイージム大陸へと渡航できる。



「ここがツエマの港町かぁ、水上都市スィーフよりは小さいんだな?」


「それでも東の大陸との交易の窓口よ。イージム大陸に行くには、南回りのここか北回りの二つのルートしか無いからね」


 私がそう言うと、イオタは首をかしげる。


「なんでウェージム大陸から直接イージム大陸に行けないんだ?」


「普通の舟では海獣たちにやられてしまうからよ。ガレント王国や貿易都市サフェリナの保有する『鋼鉄の舟』でもないとウェージム大陸とイージム大陸の間の大海は渡ることは難しいでしょうね」


 「鋼鉄の舟」とはウェージム大陸にある世界最大の国家、ガレント王国とサージム大陸の北方、ウェージム大陸に近い貿易都市サフェリナの大商会が保有する船の事だ。

 帆船と違って、帆が無く機械と魔法仕掛けで動くかなり貴重な舟らしい。

 なんでも、その昔大魔導士が開発したもので鉄を水に浮かせる技術があるとか。

 鉄なんて重い物が水に浮くなんて驚きだけど、軍事的、重要な物資の運搬時にだけ使われると言う代物らしい。


「だからこの一番安全な南ルートで島々を渡るように航海するの。島々の周りは大型の海獣の縄張りじゃないからね」


「なるほど、それで普通はここから船で渡るんだ」


 冒険者ギルドに先ずは着いて、オオトカゲを下取りしてもらう。

 買値の七割くらいで引き取ってくれるので助かる。

 普通中古品は半額位からの交渉なんだけどね。



「ここまでありがとうね。ちゅっ♡」


 最後にオオトカゲにお別れとお礼の意を込めてキスしてやると、尻尾を振って喜んでいるようだ。

 そう言えば、このオオトカゲってオスだかメスだか分からないままだった。

 私がキスして喜ぶのなら、オスかな?



 そんな事を考えながら代金を受け取り、早速町に出る。




「ふーん、見覚えのある所が多いわね?」


「ここはそんない変わっていないって事か?」


「みたいね、宿屋もお店も倉庫も見覚えのある所が多いわ」


 二百年間ほとんど変わらない人の街って言うのも凄いと思う。

 とは言え、この町は交易の窓口。

 船着き場の港と、その荷物を保管する倉庫。

 そしてそれを各方面に運ぶための商隊が忙しそうにひしめいている。



「そう言えば、イージム大陸の南方にはドワーフの国があって魔鉱石って言う特別な鉱石が取れるんだっけ……」


「魔鉱石?」


「うん、魔力付与とかが容易に出来る鉱石で、あの『鋼鉄の鎧騎士』なんかでも使われているって聞くわ」


 この世界の特徴として、各国が「鋼鉄の鎧騎士」と言うゴーレムのような体長大体六メートル前後の巨人を保有している。

 特別な騎士たちはその「鋼鉄の鎧騎士」に乗り込んで戦場を駆ける。

 場合によっては「鋼鉄の鎧騎士」どうしが国の威厳をかけて一騎討をしてその勝敗を決める場合もある。

 まさしくこの世界の最高戦力の一つだ。


「『鋼鉄の鎧騎士』かぁ。俺も昔ガレント王国で見たよ。量産型って言ってたけど、あれ一つで国家予算の四分の一って言ってたから、凄いよなぁ」


「それだけ魔道と資源を投入したって事でしょう。さてと、船荷商会に行ってイージム大陸行きの船があるかどうか聞いてみないとね」


 私はそう言って記憶の中にある船荷商会を目指す。

 変わってなければこの通りを行って、倉庫区の近くのはずなんだけど……




「あったっ! うわぁ~二百年前と同じだわ」



 それはまるで当時のままの様子でそこにたたずんでいた。

 そして見覚えのある扉と看板。

 まったく変わっていない様だった。



「へぇ~、ずいぶんと古めかしい所なんだね?」


「でも助かるわよ、昔と変わってないようなのでね」



 言いながら商会に入る。

 中は活気があって、取引用の個別テーブルは商人たちでいっぱいだった。

 私はそれを横目にカウンターに行く。



「イージム大陸に行きたいのだけど、船は出ている?」


「おや、エルフのお客とは珍しい。定期便は一週間後に出発だよ。客室は……まだまだ空いているね」


 カウンターのおじさんに聞いてみると、台帳をぺらぺらとめくってそう答えてくれる。

 私はすぐに代金を聞いて、客室も取る。



「イージム大陸までお二人ね。部屋は一つっと。これが証書だ。一週間後の朝一にここへ来てくれ」



 船の予約は簡単に出来た。

 そうすると一週間ほどここでゆっくりできそうだ。



「イオタ、船の予約は出来たわ。早速町に行ってみましょう!」


「はいはい、それじゃぁこのツエマの街を案内してもらおうかな?」


「昔どおりならね。とりあえず食事行きましょ!」




 私たちはそう言ってツエマの町に出るのだった。  

 

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