その九:海上
港町ツエマは驚いた事に二百年前とあまり変わってなかった。
「ふわっ、あの店まだある!」
「これで何件目だよ?」
私とイオタがこの町に滞在して既に三日が経っていた。
予定ではあと四日後に船が出航するので、その間この町で以前行った事のある場所を巡っていた。
勿論イオタも付き合ってくれたけど、私が見知った店や場所を見つけて喜んでいるたびに苦笑を浮かべていた。
流石にそろそろ飽きてきたか?
とは言え、私にしてみれば人の町でこうして以前と変わらないものを見るのはとても安心感がある。
「そうそう、あっちにはこの町全体が眺める事の出来る公園があったんだ。ねぇイオタ、行ってみましょうよ!」
「はいはい、分かったよサーナ」
またまた見た事のある場所まで来て、その昔彼と一緒に行った事のある公園を思い出す。
はしゃぎそう言う私にイオタは苦笑しながらも付き合ってくれる。
そして目的の公園についてみると……
「あ、あれ?」
「公園が無いね……」
階段を上ってそこまで行ったら、何とそこは墓地になっていた。
たくさんの墓石が街を見下ろすかのように有った。
「そっか、ここ墓地になっちゃったんだ…… でもまあ、お墓に入っている人も町の全景が見られるなら良いかな……」
そう言って墓地に入ってみて、刻まれている時間を見ると百年ちょっと前位からここが墓地になったようだった。
「サーナ?」
「うん、こんな素敵な場所で眠れるなら悪くは無いわよね?」
「俺やサーナだってまだまだ先の話だろ?」
「……うん、そうだね。そろそろ戻ろうか」
私たちはそう言って踵を返して町へと戻るのだった。
◇
「凄いな、この船! もう陸地があんなに小さくなったよ!!」
「イオタは帆船に乗った事あるの?」
船は予定通り四日後に出航した。
大型でしかも定期便、そして旅客まで乗せられるこの帆船は帆にたくさんの風を受けての巡航だった。
「ああ、これだけ大きな帆船は初めてだ。ウェージム大陸からサージム大陸には特別にゲートを使わせてもらったからな。大陸間移動で船に乗るのは初めてだよ」
「そっか、初めてなんだ」
私はそう言いながら軽いため息を吐く。
実は私たちエルフ、特に精霊使いである者にはこう言った精霊力の偏りが酷い場所は落ち着かない。
海は水の精霊と風の精霊しかいない。
いつも感じる大地の精霊や、人の街には必ずいる炎の精霊が感じられないのだ。
ああ、食事の時だけは火を起こすのでわずかに炎の精霊は感じるけど、四六始終風と水の精霊だけってのはだんだん精霊酔いをしそうになって来る。
「サーナ、大体どのくらいでイージム大陸に着くんだ?」
「何も無ければ十日から二週間ってところかしら。今のところ風の精霊たちに聞いても嵐も何も無いから順調に行けそうね」
私はたなびく金色の髪の毛を片手で押さえながら風の精霊の言葉に耳を傾ける。
ここ二、三日は付近で低気圧が発生している気配はないそうだ。
であれば、しばらくは安定した船旅になりそう。
「……綺麗だな」
「うん、全部水だらけだけど天気もいいし空も海も青いものね」
ふいにイオタが私にそう言ってくるので、私も小さくなって見えづらくなったウェージム大陸の方を見る。
しかし、イオタはなぜか私の方を見ていた。
首を傾げイオタに向かって微笑むと、慌てて海の方に顔を向ける。
「でもね、大体二日もすると海ばかりで飽きて来るわよ? 私なんか精霊酔いしちゃうかもしれないしね」
「そんな、モノなのか?」
「うん、同じ風景ばかりってのは意外とすぐに飽きるものよ」
私のその言葉にイオタは暫し黙っていたけど、それでも嬉しそうに笑って言う。
「そうかもしれないけど、サーナと一緒なら大丈夫だろ?」
「何それ?」
つられて私も笑顔になる。
私たちの船旅は順調に進むのだった。
* * * * *
「そのはずが、やっぱり二日もしないで精霊酔いが来たぁっ! うっぷっ!!」
「帆船って、揺れる時は揺れるんだな…… うっぷっ!!」
なんだかんだ言って、二日もたなかった。
そして意外な話イオタも船酔いをした。
昨日あたりから、天気は良いのだけど波が荒い。
おかげで船の揺れが酷くなって、イオタが船酔いをした。
私もただでさえ水の精霊が多くて不安な所、風の精霊も元気で荒波を立ててくれるから一気に精霊酔いをした。
「おいおい、お前さん方、吐くなら海にしてくれよ! 掃除が大変になるからな!!」
水夫にそう言われる中、私とイオタは甲板から二人仲良く海に向かって吐くのだった。
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