第12話 一行怪談12

 歩道橋からぶら下がっているキイちゃんに手を振ると嫌いな大人が嫌な目に遭うおまじない、というものを息子が試したと話した日、夫が轢き逃げに遭ったと警察から連絡があった。


 夫が寝言で呟く内容は、かつての私の恋人との秘密ばかりだ。


 数ヶ月前に拾った猫は、かつて私を捨てた元彼の一部を丁寧に一つずつ私の枕元まで運んでくる。


 サリナちゃんのドッペルゲンガーに出会ったらすぐに近くの神社へ逃げるように、という紙が学校の掲示板に貼られていた。


 スマホの着信音は何度変えたとしても、幼少期の私を殴る父の怒声に戻ってしまう。


 祖父の仏壇に供えられている一束の黒髪について、触れてもいいが決して話題にしてはならないのが我が家のルールだ。


「おかえり」と包丁を握る妻に殺されることを悟って、これで百四十六回目。


「もうすぐ会えるよ」と笑う私のストーカーだった男との夢から覚めた後、この腹に宿る胎児を今度はどうやって処理するべきか頭を抱えた。


 ベッドの下から聞こえる「お母さん」という子どもの声に、全く聞き覚えはないし第一俺は男だ。


 電柱から垂れ下がるペラペラの彼女は、今日も幸せそうな笑顔を浮かべて通学路の子どもたちを眺めている。

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