第34話 俺って不器用だったんだ
「じゃあ篠崎さん、そっち持っててもらえますか」
「ういっす。これでいいっすか、
「はい、お上手です。すいませんが、しばらくそのままでお願いしますね」
盆休みを間近に控えた日曜日。
この日は新居の壁の張替えをしていた。
軽トラックに積まれた壁紙と道具一式。それを家に運び込むと、早速張替えが始まった。
まず
信也は
早希も、「信也くんってやっぱり器用だね」と褒めてくれた。
しかし問題はその後だった。
所々で皺になり、継ぎ目も斜めになり何度も貼り直した。
逆に篠崎はその長身を生かし、
その様を見ながらため息をつく信也の頭を撫で、早希が「大丈夫大丈夫」と励ましてくれるのが、男のプライドを更に傷つけた。
その様を見ながら信也は、「俺って実は、不器用だったのか」と思いうなだれた。
「いただきます」
ひと段落ついた4人が、早希の作った弁当を囲んでいた。
「むっちゃ腹減ったっす! すいません三島さん、いただきますっす!」
篠崎が早希の料理を豪快に口に運ぶ。
「三島さんうまいっす! 副長はいいっすね、こんなうまい飯、いつも作ってもらえるんっすから」
「そんなに嬉しそうに食べてもらえたら、作った甲斐があります」
「……」
「信也くんどうしたの? 元気ないよ」
「……だって俺、全然役に立ってないし」
「もぉー信也くん、さっきからそればっかり。いじけすぎだよ」
「そうっすよ副長。俺も
「いやいや、お前は十分役に立ってるじゃないか。それに身長もあるから、高い所も出来てるし……なんか俺、ここ最近で一番へこんでるかも。こんなんで俺、一人でやろうとしてたんだぜ。恥ずかしすぎるだろ」
「副長らしいですね」
そう言って
「苦手な物と真剣に向き合う。そして自分に足りない物は何か考え、学び、挑戦する。その繰り返しが技術を上げていくんですよ。
私も若い頃、いつも父に叱られてました。父が言うには、我が子とは思えないぐらい不器用だったらしくて。でも繰り返していく内に、父の真似事ぐらいは出来るようになりました」
「
「手伝い、ですか」
「お願い出来ませんか。このままで終わるのは俺、悔しいんで」
「流石ですね。だから副長は、失礼ですがその若さでラインを見守る立場につかれたんですね」
「そうっすよ。副長は俺のヒーローっすから」
「いや篠崎、今日の俺にその言葉は勘弁だ」
「なんでっすか。ほんとのことじゃないっすか。ねえ三島さん」
「いえ、信也くんは王子様です」
「いやいや早希、それはまた違う」
「はっはっは、少しでもお役に立ててよかったです。それで副長、引っ越しはいつされるんですか」
「あ、はい。盆休み初日にしようと思ってます」
「そうですか。じゃあ盆は新居でゆっくり出来ますね。盆休みのご予定は?」
「まさかの婚前旅行っすか?」
「なんでだよ。仮にそうだとしても、お前には言わんから安心しろ」
「何でっすか。それで三島さん、どこか行かれるんすか?」
「お墓参りに行こうって、信也くんが言ってくれたんで」
「墓参りっすか。そうっすね、ご先祖様に結婚の報告って大事っすからね」
「父と母、それからおばあちゃんのお墓参りなんです」
「……え?」
「あ、いや……早希はご両親を早くに亡くされてるんだ。親代わりだった祖母も亡くなっててな」
「……なんかすいませんっす、三島さん」
「いえ、気になさらないでください。別に隠してた訳でもないので」
「いや、それでもっす。俺、すぐこうやって調子にのって、空気壊しちゃうんす」
「いやいや篠崎、へこむなへこむな。早希の言った通りだから」
「駄目っす……俺、こうやっていっつもみんなに気を使われて……やっと今日、副長の役に立ててるって思ってたのに、またこうやって……副長、三島さん、それから
「だから篠崎さん、気にしてませんから頭上げてください。ほら。まだご飯、いっぱいありますよ」
「それじゃ駄目なんす! 俺、いっつもこうなった時、みんなに逆に気を使われて……だからいつまで経っても治らないんっす! 三島さん、なんか俺に罰、与えてほしいっす!」
「罰ってそんな」
「そうだぞ篠崎。そんな大袈裟な」
「いいじゃないですか」
「
「それで篠崎さんの気が済むのなら、そうしてあげるべきです。三島さん、篠崎さんのためにも、何か罰を考えてあげませんか」
「お願いするっす!」
篠崎が頭を下げたまま訴える。
「罰って言っても……信也くん、何か思いつく?」
「おんぶしてもらうとか?」
「それはデートの時の罰ゲームでしょ」
「ほほぅ、副長は三島さんをおんぶしたと」
「ほらー、
「なんでもどうぞっす! なんでも答えるっす!」
「篠崎さんって、どうしてそんな喋り方なんですか?」
「え?」
「あ」
こいつ、地雷踏みやがった。信也はそう思った。
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