おまけ


『あどけない話』


高村光太郎『智恵子抄』より


智恵子は東京に空が無いといふ、

ほんとの空が見たいといふ。

私は驚いて空を見る。

桜若葉の間に在るのは、

切つても切れない

むかしなじみのきれいな空だ。

どんよりけむる地平のぼかしは

うすもも色の朝のしめりだ。

智恵子は遠くを見ながら言ふ。

阿多多羅山あたたらやま(※)の山の上に

毎日出てゐる青い空が

智恵子のほんとの空だといふ。

あどけない空の話である。


※福島県中央部の3市1町1村にまたがる安達太良山あだたらやま

標高1,700メートル

県内学校の登山遠足でもおなじみの山


ちなみに。

筆者が中学生の頃、国語の教科書に『智恵子の空』というタイトルのエッセイが載っており、その中で『あどけない話』が引用されていました。

そのためか、設問自体を勘違いしたかは分からないのですが、「この(詩の)タイトルを書け」という期末テストの問題で、『智恵子の空』という誤答が非常に多かった――と、担当教諭が嘆いていました。

勝手な話ですが、本当に『智恵子の空』というタイトルでよかったのではと思ってしまいました。

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カッコウの鳴くころ ユリノキ @yurinoki2024

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