第3話

結婚式……婚活中の女性には地雷でしかないのでは?私は前世でそう感じていた。※これは個人的な感想です。


友人の結婚式なら、既に結婚している友人達が旦那の愚痴や子育ての大変さを語るのだ。それを引き攣った笑顔で聞くだけの地獄。


会社の同僚や後輩の結婚式なら『今は寿退社する人も減ったわよね……あ、ごめんなさい』なーんて言われちゃったり、『結婚と仕事の両立って本当に大変よね……あ、ごめんなさい』と同じテーブルの人達に気を使わせながら引き攣った笑顔を振りまく羽目になる。


そして……一番辛いのは、親戚の結婚式だ。

『あれ?まだ結婚してなかったの?もう立派な行き遅れだな!』と葉に衣着せぬ親戚のおっちゃんに大体、煽られるのだ。

すると母が『中々縁が無くてねぇ。頑張ってるんだけどね』と余計な一言で私を落として終わる。本当に地獄。


だからと言って、今のままのくたびれた私で兄の結婚式に出席するのは嫌だ!!別に花嫁に勝ちたいとは思っていないが、せめて『あんなに美人なのに勿体ないわね』ぐらいは思われたい。

『あれじゃ、貰い手ないよね』だけは絶対に言われたくない。私にだって小さなプライドがあるのだ!

私はそれからの一週間、目一杯気合いを入れて頑張った。


肌はプルプル、髪は艶々、腰はキュッと引き締まってドレス映えするスタイルだ。

どうだ!これが私の本気なんだ!!


そして明日いよいよ結婚式という晩の事、夕食時に


「そう言えば王太子殿下も出席となっていたな……畏れ多くて緊張しちゃうよ」

と父がため息をつく。伯爵家の結婚式に王族が参加など前代未聞だ。

父は明日の警護について、心配し始めた。


「近衛がたくさん付いて来るだろうから、うちが心配する必要はないよ」

と兄はあっけらかんと言った。母は、


「まぁ……グリンダ、チャンスかもよ?若い近衛騎士の方々も来られるでしょうから」

と私の方に身を寄せて小声で囁くと私にそっとウィンクした。


私はそんな上手くいく筈ないと思いながらも、明日のドレスはもっと気合いの入った物に変更しようと心に決めた。


「そう言えば、何故か王族が結婚出来る身分が伯爵位まで引き下げられたな」

と父が顎を擦る。


「まぁ……でも、公爵様にも侯爵様にも相応しい令嬢の方々がまだ多くいらっしゃいますものね。王太子殿下もそろそろ婚約者を決めなければねぇ」

と母は言った。


今度生まれ変わったら、公爵令嬢が良いかしら……それなら結婚、苦労しない?いやいや、公爵や侯爵に生まれたら、もっと厳しい教育を受けなければならなくなって、結局辛くなりそうだ。

伯爵ぐらいが丁度良い。


「あいつは何だかんだで独身を楽しみたいだけだよ。選り好みばっかりでさ」

と兄は少し馬鹿にした様にそう言った。


「おいおい、殿下に『あいつ』はないだろう」

と父は兄を嗜める。


「殿下には殿下のお考えがあるのでしょうけど、お相手を決めなければ、陛下も安心出来ないでしょうね。もしかすると水面下で他の国との縁談の話でもあるのかもしれないわね」

と母は名推理だと言わんばかりに手を叩いた。


私は既にそんな会話は耳に入っておらず、明日着るドレスに思いを馳せていた。



厳かな雰囲気で、兄の結婚式は粛々と進められていく。


自分で言うのも何だが今日の私はイケてる。


ただ……殿下の到着が遅れているのよねぇ。これじゃあ、近衛の方々に出会えないではないか。……いや、期待はしていない、期待は……していない。


挙式が終わり、新郎新婦が教会の扉を開いて出て来る。


出席者の皆が拍手で出迎える中、門の所が騒がしくなった。


「おやおや、遅い登場だな」

と兄が苦笑していると、


「ディレクすまない!遅くなった!!」

と大勢の近衛を引き連れた殿下が登場した。


「遅いぞ!!もう結婚式は終わった所だ!」

と言う兄に、


「あー!やっちゃったな」

と殿下は朗らかに笑う。あれ?殿下ってこんな気さくなキャラだったんだ。

デビュタントの時に踊った記憶はあるが、緊張し過ぎて、よく覚えていない。もうあれから五年ぐらいになるし。

その後は王宮での夜会に参加していない私には、殿下は兄の口から語られるだけの人物だった。


私はそんな事より殿下の後ろに控えている近衛の方々に目を走らせる。


どの方も麗しい。騎士という事もあり、体格も立派だ。


すると、何故か周りがざわつき始めた。

煩いな。私は今忙しいのだ(イケメンを愛でるのに)


そんな私の前に突然、たくさんの薔薇の花束が差し出された。


え?邪魔なんだけど。近衛の方々が見えないじゃない。


私は花束を差し出す人物に苦情を言おうと口を開きかけて、そのまま固まってしまった。


その人物が……この国の王太子殿下……サイモン殿下だったからだ。


え?何?何?


殿下を見上げて目を丸くして固まっている私に、


「えっと……会うのは二度目だ。覚えてるかな?」

と笑顔でそう言った。


私は辛うじて首を縦に振る。失礼なのは承知だ。でも声が出ない程驚いているので許して欲しい。


「良かった~覚えててくれて!突然だけど、この花束受け取ってくれる?王宮の薔薇園から見繕って来たんだ。珍しい品種もあるみたいだよ。これを作っててすっかり遅くなってしまった」


………良く動く口だな……違う、違う、違う。そうじゃない。

何故殿下が私に花束?何だか色々と殿下が言ってくれていたみたいだが、全然頭に入ってこなかった。

しかも何故殿下は頬を少し染めているのかしら?


私は無意識ながらもその花束を受け取っていた様だ。気づけば大きなその花束は私の手に握られていた。


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