最終話 彼と彼女のハッピーエンド

彼女は陽だまりの匂いがした。

ふわふわで、あったかくて、ぎゅっと抱きしめたくなるのは当然だと思う。


初めて見た時、彼女は窮屈そうに寝ていた。毛がないところが寒そうだ。

そっと隣に寝てあげて、気づいたらいなかった。

次に見た時は、獲物が獲れなくてしょぼんとしていた。肌色は目立つから仕方ない。

狩ったばかりのがあったから、お腹の柔らかいところをあげて一緒にオヤツにした。


気がつくといつも彼女を目で追っていた。彼女はいつも頑張っていた。


次第に、彼女の頑張る方向が変わってきた。

森をやめて海に行き、道具を使って狩りをするようになった。

人にはない素早さで使う道具は魔法のようで、狩りは成功することが多くなった。

取った獲物を森に持ってきて魚と交換で肉を手に入れることも覚えた。

たまに食べる魚はやみつきになる味で、僕もとっておきの肉を彼女に融通した。


ある日彼女は閃いたらしかった。

「人にも猫にも獲れない獲物はどうだろう」

海の小島に泳いで行って、珍しい鳥を獲ってきた。


身が締まっていてとても美味しい。美味しすぎてあっという間に広まった。

何匹もの猫が人の舟に乗って小島に行き、珍しい大きな鳥を狩って来た。

そのうちにその鳥は小島には来なくなった。彼女はとても残念で悔しそうだった。

慰めようと美味しい鳥モツをあげたら、泣きながら

「私が獲った鳥の方が美味しかった」と食べた。

泣き顔が可愛くてちょっとドキッとしたけど、猫顔だからバレてないと思う。


ついに彼女は閃いたらしかった。

「人にも猫にも獲れない獲物はどうだろう」

海岸の岩陰にいるでっかい蟹の、口を開けた瞬間に、モリを突き立てた。


蟹は甲羅が硬くて猫爪では狩れない。動きが速くて人には仕留められない。

あれ食えるのか?という視線も含めて、みんなが遠巻きに見守っていた。

今度こそ獲物は彼女だけのものだった。


茹でた蟹足を剥いてほぐして、彼女は僕にくれた。

初めて食べた味だったけど、甘くてしょっぱくて、とても満たされる味がした。

彼女は甲羅の中の茶色い所をひと舐めして、とても幸せそうに微笑んだ。

一口味見させてもらったけれど僕は身の方が断然美味しいと思う。

「蟹足1本ほぐしてくれたら、山鳥の卵のとこの親を追い払うの手伝ってやるよ」

「え、あの怖い鳥の濃い味の卵?やるやる!」


君はまだ気がついていないようだけど、僕も君を逃す気はないんだよ。




…どう見ても異世界恋愛です。もふもふバンザイ。カニ食べたい。

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このこ猫のこ この猫こねこ 白火取 @shirohitori

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