前のエピソード――第53話、雅也の過去話

その頃小田原城ではあることで話し合いを開いていた。それは真里谷家の力は想像以上に強くなり万が一でも敵になればこれ以上にもない強敵になるだろうと北条氏康たちを始め、北条一族はそう考えていた。

内乱が起きて少し戦力が削れたと聞いたがそれでもあの当主となった真里谷信政の実力は計り知れないものであり川越の合戦では普通では考えられない戦力差を覆して北条家を助けてくれた。今は昔に貸した恩があるから味方になってくれたが次も味方になってくれるかと聞かれたらそうとも言い切れない。

そのために今まで以上に強固な関係を創り出さねばならないと考えた北条氏康は娘である早川殿を真里谷信政のもとに嫁がせることに決めた。もしこれでうまく縁談がまとまれば関東に怖い者はいなくなる。

東の守りは完ぺきとなり今川、武田とも今度は正面から戦うことができる上に残りの上野、下野にも勢力を伸ばすことができる。まさに北条家にとってみればこれ以上ない良い状況が創り出せる。

幸いなことに当主となった真里谷信政には正室が未だにいないので北条氏康はうまく嫁がせて北条の血を引く子供が真里谷家の当主になれば関東は事実上の北条家のものになる。

そうなれば北条早雲からの念願であった、関東に北条の国を創ることができる。それがまさかこんな早くも可能になるかもしれないとは夢にも思わなかった。

問題は真里谷信政が縁談を受け入れるかということであるが・・・どうか受け入れることをと願った。

俺に今、とても嬉しい話が舞い込んできた。それは北条家が姫である早川殿との縁談話をしてきたのである。もちろん北条家を滅ぼして奪うのも一つの手だけどそれはあんまり得策ではない。もし断れば三国同盟が成立させてしまうかもしれないから。そうなれば早川殿は今川のもとに行ってしまう。

それだと距離もあるので苦労はする、向こうが縁談の話を持ち掛けてきた以上は北条家と戦う理由はない。それとこちらの方が重要だがあの逃げた、真田家、前田家元、諏訪姫たちが上野国で勢力を立ち上げてきたのである。

最初は無謀なことだと笑っていたのだが僅か一年足らずで混乱をしていた上野国を統一して更に下野国の一部も制圧して一気に勢力を拡大してその名前を轟かせていた。

なんでそんなことができるのだと思っていたが、ある人物の名前を聞いてすぐに納得した。それは家臣にあの吉田雅也がいたのである。後に我々の礎を創り出す、伝説の悪魔の前世である。これぐらいはできても当然のことだろう。

もちろん今の俺には勝てないかもしれないが、このまま放置をすれば必ず大きな障害になる。それは間違いない、もちろんこちらもできる限りの妨害をしてきたが吉田雅也はそれを逆に利用して一気に勢力を拡大に成功して真田家を一国の主にさせた。

流石だと思いながら俺はため息するしかなかった、やはり意地でも何とか追撃をして殺すべきだったと後悔しても後の祭りである。今は確実に戦う準備をするしかない、そのためにも女は当分増えないだろうと思っていた時にこの話である。

これは受け入れるしかない、北条家も真田家の勢力の拡大は嫌だろうしせいぜい頑張ってもらおうと思いながら俺は北条家の縁談を受け入れた。

さて、どんな美少女になっているのか楽しみだな・・・・

縁談を受け入れて一か月後に早川殿と俺は正式に結婚して正室に迎え入れた。その姿はなかなかの美少女で今でも十分と可愛くて美しいが成長をすればもっと可愛くなるだろうと思いながら見ていた。

一応、北条氏康のことを義父上と呼んでいた。まあ、娘は可愛いから可愛がってあげるからその間は北条家の味方になってやるからよと思いながら見ていた。

儀式も終えてからようやく初めての夜が訪れようとしていた。さてさてどんな風に可愛がってやろうかなと思いながら部屋に向かってみると早川殿はとてもこちらに対して敵意を出してみていた。俺はどうしたのと優しい顔になりながら聞いてみるとすぐに早川殿が

「いい加減に信政さんの真似をするのはやめてください、私は小さいころに遊んでもらって覚えている真里谷信政さんはそんな目をしません。あなたが信政さんに憑りついている悪霊みたいな物とだけは理解をしています」

なるほどこの小娘、意外にも俺が真里谷信政ではないことを見破ってきたのか。思っている以上に使えるのではないかと思いながら俺は笑いながら「そうだがそれでお前が何ができるのだ？」と言いながら早川殿を襲おうと近づいていった。

すると早川殿は着物の中からあるものを取り出してきた。今更、懐刀ぐらいで怯える俺ではないと思っていたが出してきたのは石でその石を俺に当ててから封印と言ってきたがそんな物でと思っていた次の瞬間に今までに感じたこともないぐらいに意識があの石に吸い込まれるような感覚に襲われた。

何だ、この小娘。本当に封印の石を持ってきたのかと思い、すぐに逃げえようとしたがすでに意識の半分ぐらいはあの石に吸い込まれており逃げようにも逃げられない。

くそくそくそ、こんなところで終わってたまるか。俺の・・・俺様の夢はまだ始まったばかりだ。こんな場所で終わってたまるか。

俺は必死に抵抗をしたがあの早川が持ってきた封印の石はとても強力で酒吞童子の俺でも逃げれずに抵抗すらできないでいた。

おのれーー、この封印の石を持ってきた者。この小娘にあげた奴、末代まで呪ってやるーーー俺様はあの封印の石に意識を持って行かれたのだった。

あれからどのぐらい時間が過ぎたのだろう・・・ああっ暗い、何も見えないぐらいに暗い闇しかここにはない。自分はこのまま一生を終えるのだろうか。いや、死んだところで終わりが来るのであろうか。もうそんなことも分からない、ただ一秒でも早くこの闇から抜け出したかった。

でもどう頑張っても抜け出すことができずにもう諦めてどれぐらいたったのであろうか、そんなある時急に目の前に光が現れたのである。

いくら探しても見つからなかった光が現れたので自分はその光に向かって歩き出した、何かが変わるかもしれないと思いつつ歩いて行く。するとたどり着いた瞬間、自分を包んでいた光が無くなり現れた光景は自分を膝枕して月夜に照らされていた美少女がいた。だがこの美少女はどこかで見覚えがあるなと思い声をかけてみようとしたら。

「信政さん、お帰りなさい。早川はお待ちしておりました・・・わかりますか。北条氏康の娘で幼い時に遊んでいただいた小娘ですよ、私は」

優しい声と顔でそう答えてくれた、やはりあの時の娘かと自分は思い出しながら、ようやく戻ってこれたのだなと嬉しくなり涙が出て来てしまった。確かに戦国の世は辛いかもしれないけど何もない暗闇よりはましだ。

それに自分はすべてを失ったわけではない、まだ立ち直れる。それとどうして早川ちゃんはこの場所にいるのであろうか。ここは自分の居城にしている万喜城だし、何か理由があるのかなと思いながら見ているのだった。