第30話、戦後処理

自分はそれから戦後処理を終えて居城に戻ってきていた、戦いに勝利をしたにもかかわらず軍勢から歓喜などは感じられずに帰ってきていた。戻ってくると心配になり騎乗で待っていた吉乃が自分に対してもしかして何か起きたのですかと心配そうに見てくれていた。






「別に何ともないよ、味方の勝利で終わって長い連戦でみんな疲れてしまっただけだよ。さあ、宴会の準備でもしようか」






そう言って元気があるふりを見せていた、本国まで心配をされたくないと思っていたから無理に元気を出していた。すると本当に大丈夫ですかと何かおかしいと感じたかもしれないと思いですぐにでは今度は父上にも報告に向かうからと言ってその場を後にした。






今度は城内で待っていた父上に戦の報告をした、すると父上はあんまり喜んでいる顔をしていなかった。なぜだ、こうも下総、常陸の国も統一できたのにと思いながら見ていると






「お前のその表情から見て何か嫌なことでも起きたな、正直に話してくれないか。最もその内容で考えられるのは諏訪姫のことに関してだろうがな」






それはどうしてわかったのですかと驚きながら自分が言い返すと父上である真里谷信隆はそれはお前の父親だからさと笑顔で返してきた。






やはり、父上には隠せないなと思いでこの前に起きたことをすべて話したのである。太田城で諏訪姫や北条氏康の娘を助け出すもすでに敵の子供が生まれておりそれを助けてほしいと言われたが自分は殺そうとしたが周りすべてに反対をされたこと。






話しているうちに泣き出しそうになっていたらここで父上が自分に対して話してくれたのであった。






「そうか・・・それは辛かったな。諏訪姫とその子をどうするのかはお前の考えで構わないと思ってる。もう隠居をした者で言う資格はないが・・・お前はわしにとって最高の息子だ。一族の悲願を叶えた上に天下に名を轟く大名になることもできた。わしでは一生が何回来ても無理だと思うことはお前は成し遂げた」






確かにそれはできたけど自分は結局、手元に何も残っていないと落ち込んでいた。あくまで虚勢を張っただけであり、本当は弱いと思っていたら






「どうせ、お前のことだ。自分は弱いと思っているだろうが、本当に弱い者は自分のことを弱いと思っていないものだ。強者は自分の弱いところを見つけそれを直す、もしくは表に出さない。しかし、弱者はそれが分からないものだ。お前は自分の弱いところを分かっているのではないか」






けれどもそれを頑張っても今回のようにダメであったと思っていた。頑張って努力はしたが結局は水の泡へと消えてしまった。自分は本当に当主として良いのかと思っているぐらいに。






「父上、自分はどうすれば良いと思いますか。教えてほしいのですが・・よろしいですか」






「簡単なことだ、信政。自分を信じろ、お前は決して弱くはない。お前のことを理解してくれる者は必ず出てくるはずだ。だから信じろ、己をそしてこの父を。不甲斐ないかもしれないが父はな、お前のことを本当に誇りに持っている。最高の息子だ、だから信じた道を突き進め・・・上総の龍よ」






そう言われて自分には理解者がいるのだと嬉しかったのと同時に自分自身を強く持とうと思うことにした。そしてこのことも当主としての威光を示して行こうと思い、本城にて諏訪姫たちの処遇をどうするかと考えることにした。






見ていたこれを見ていた真里谷信隆はもう息子は天をかける龍となってしまった。もうわしが届くところではないなと思いながら見ていた。それと同時に息子を裏切った諏訪姫に密かに殺意を抱いていた。






本当ならばその子も殺したいところであるがどうも厄介な者に見られているなと感じていた、そしてそれが当たっておりこの二人の会話を遠くから見ていた三本足の烏がいた。






その後はその日は宴会などして嫌なこと出さないで楽しんでいた、翌朝になり評定を開いて諏訪姫たちをどうするかと考えを改めて話し合われた。






「諏訪姫は我、真里谷信政と離縁して近くの神社にでも向かわすのが良いと思うがみんなはどう思うか」






それを言うとやはり反対をしてきた、特に島津将希が猛反対、そして諏訪姫と仲が良い太田康資も反対してきた。太田は家督という権利を無くすだけで良いのでないでしょうかと言ってきていた。






自分はあの子の親を殺したのにこの場で育てろと自分に死ねと言っているのかと怒鳴り返した。すると今度は島津将希が






「信政殿、ここはこの子供を諏訪家の嫡男とするのはどうでしょうか。それならば真里谷家、家督の相続権は無くなりますしその上で彼女の実家である諏訪家の再興にもつながります。これが最善の方法かと思います」






ふざけるなよ、いつ寝首が危なくなるか分からないではないか。もう生かすにしても武士としては認められない。せめて諏訪家は神社の家系であるから神社の子として生かす程度しか認められない。






彼女も元々神社の娘みたいな感じであるから大した影響はない、それに近くであるから最低限の支援はしてあげるつもりだ。一応、自分に陰陽術を教えてくれたからな、そのお礼としてその子が自立するまでは援助をするだけだと思っていた。






しかし、それでは余りにも可哀そうですと家臣たちから反対の声が上がっていた。何が可哀そうだ、本来ならば憎くてしょうがない相手の息子を殺さずに大人になるまで諏訪姫とその子に最低限の保証はしてあげると言っているのに。






こんなことをする大名がほかにいるのであれば是非とも教えて欲しいぐらいだよ。かなり優しめの罰だと思うがなと思っていた。ここで隠居である父上にも何か話してほしいと家臣たちからそう言われていた。






恐らく父上にも説得してもらったらうまく行けるのではないかと思っているのであろうがそうして父上は話し始めた。






「わしは隠居のみのはずだが、なんで当主である信政よりもわしの言葉が優先されると思っているのか」






「ですが、前当主として意見を話してください。そうすれば少しは違うと思いますので・・・」






「ならば言ってやろう・・・息子を裏切った、あの屑女は今すぐにでも処刑をしたいことだ。それも足や手などバラバラにしてそのまま海に流して骨すらもこの地から消してやりたいぐらいだ。子供同じように海に流してやりたいところだ、生まれてきたことを後悔させながらな・・・それでもわしの意見のほうが良いと思うのか」






これを聞いた家臣たちは何も言えずに黙り込んだ、息子の意見を変えるには隠居の力があればと思っていたが隠居は更にひどい内容でありそれを聞いてこの親子はと思いながら黙ることにした。それに自分もここまで気迫を出している父上は初めてでありそのすごさで父上を見ていると






「ほら、当主。隠居など見ないで話しを進めてくれ、わしは帰ってゆっくりとしたいのだ」






それを聞いてはいはい、とすぐに話を再開させた。そして当主と前当主の意見、そして真里谷一門衆は諏訪姫との離縁に賛成した。その結果、諏訪姫とは完全に離縁した。そうして城から追い出して近くの神社で住むことを許した。






生活に困らないように仕送りもしていくつもりだ、この上総の国は賊が少ないから安心に子供を育てることができるだろうから文句はないはずだ。






別にそれ以外は諏訪姫に対して何もしていくつもりはない、もう諏訪姫の心には自分はもういないのだ。それならば一緒にいないほうが良いだろう、諏訪姫は前田家元に心があるのだから。






戦後の最初の評定の後にわかったことであるがあの前田家元はこの三年間、ほかの女性とは一切に付き合わずにただ諏訪姫のみを愛していたらしい。現実に前田家元の部屋には何もお金になりそうなものはなくただ諏訪姫が住んでいた部屋とその子供には小道具などがあった。






元佐竹家の者も前田家元は諏訪姫に対しては非常に優しくて己のことよりも諏訪姫を優先にしていたらしい。そして子供が生まれてからは子供にも愛情を注いでいたみたいだ。






その時に生きていた佐竹義昭から一族から娘を娶って一門衆にならないかと言われたときにも自分は愛する諏訪姫がいますから結構ですと断ったらしい。






この時代では一門衆になれるのはとても名誉があることなのにそれを断ってまで諏訪姫を愛していたらしい。もちろん佐竹家からは煙たがられてしまったらしいが。






それを聞いた自分は前田家元、確かに自分の妻を奪い、国など脅かしていた。けれども一人の女性に対して愛情を注ぐその意気込みだけは賞賛に値した。今、あの前田家元のことを思い出せば前田家元はただ家族のところに帰りたかっただけかもしれない。






少なくても家族を愛して大切にしていた、己よりも家族を優先にしていた。前田家元、お前は本当に恨み切れないぐらいに盗まれたよ。諏訪姫と言う女性の心を完全にお前のものにしてしまった。






結果はもう二度と諏訪姫は自分のところに戻ってこないだろう。生活の保障はしてやるから神社に向かえと言うとすぐにわかりましたと言ったのが良い証拠だ。諏訪姫は野心はないだろう、ただ心から好きになった前田家元の子を守りたかっただけなのであろう。






だから神様よ、自分はお前たちを恨むぜ。ならば最初から諏訪姫を前田家元の場所に向かわせたらよかった。そうすれば自分も諏訪姫もそして前田家元も不幸にはならなかったのにそうすればと思ってしまっていた。






ただ運命はこうなってしまった、天はどうしてこんなひどい運命が好きなのかなと思いながら空を見上げていた。その空はいつも晴れている晴天ではなく今にも雨が降り始めそうな感じであった。

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