ショートだとか、なんだとか。

@ashibumi

第1話 愛の巣

初夏の風が吹く六月を皆様いかがお過ごしでしょうか?

最近は、五月ごろになると非常に暑いですね。もう夏です。そんなんだから、暦上の春なんていうものの存在が、どんどん小さくなって、非常にかわいそう、なんて思うんです。一方、暦なんてつゆ知らずと、木々は日々青々と茂り、生命をおう歌しています。羨ましい限りです。木々にさえ嫉妬を抱く私ですが、趣味ができたんです。なんと、なんとね!聞いてくださいね。私の部屋の窓から見える木に、鳥が巣を作り始めたんです!ちょっとづつ、ちょっとづつ、せっせ、せっせと小枝か何かを運ぶ姿が、ほんとにかわいくて、かわいくて、たまらないんです。私ね、少し前に彼氏と別れたんですけど、鳥の巣作りを見てると、なにかね。彼氏との、日々を思い出すのです。互いの体の輪郭さえ交わってしまうような夜から、別れて出て行ってしまった日まで。酸いも甘いも全部。鮮明なほど思い出すのです。けど、いくらなんだって、鳥と自分を重ねるなんてバカバカしいでしょ?しかし、そんなことをしないと、やっていけないのです。彼氏との別れはつらいです。しかし、未だにわからない、なんで出て行ったの?、毎日どれだけ私があなたを愛していたか、どれだけあなたに尽くしたか、何にも知らないで。とんだ恩知らずが。ごめんなさい。彼氏の事になると熱くなってしまうんです。


そう。それでねやっと巣が完成して、ヒナが一匹誕生しました!私、自分の事のように、嬉しくて、嬉しくて、あの喜びようといったら、今でも思い出して笑ってしまうんです。まるで子犬のよう。ふふ。それで、もっと鳥の子育てを見たいから、双眼鏡を買いました。そもそも、今まで鳥なんて、じっくり見たことないものですから、食い入るように覗きまくりです。それでね、ふと気が付いたんです。あの鳥、別れた彼氏にそっくりなんです。鳥と人がそっくりなんて、うまく想像できないしょう?目というか、輪郭というか、私にも、わからないのですけど、いや...顔です!顔!穏やかな顔を見た瞬間、釘を脳にぶっ刺されたみたいな衝撃が走ったんです。彼氏!彼氏!彼氏!運命めいたものを下半身で感じました。ぐっしょりです。それで、もう一羽は、私です。鳥ではなく、あれはもう一人の私。誰が何と言おうと私。すると、彼氏が虫を運んできました。ヒナが、これでもかと、大きく口を開け、「ピーピー」と虫を催促します。つられて、覗いている私も一緒になって、口を大きく開け、「え゛ーえ゛ー」と来るはずのない虫を催促してみるんです。顎が痛くなってもかまいません。だって彼氏が運んできた虫なのですから。選りすぐりの虫なのですから。そんな瞬間が、たまらなく好きなのです。私と彼氏で育てる子供、一体どんな子に育つの? 願わくば賢く、優しい子に育ってほしい。顔は彼氏、性格は私。もう完璧よ。非の打ちどころがない。ケチをつけようものならつば吐いてやる。あぁもう好き好き好き。そんなことを想像しながらその日は床に就きました。


久しぶりに夢を見ました。

「くるっくーくるっくー」といつもと同じように、彼らは鳴いていました。自然の脅威に耐えながら、さも平然を装って。「くるっくーくるっくー」と。けどね、いつもと様子が違ったんです、だから耳を立てました。できる限り疑り深く。すると、聞こえる世界が違った。あれは鳴いているんじゃないです。泣いていたのです。「狂うー狂うー」と泣いていたのです。恐ろしさのあまり、私「んっぃ!んっぃ!んっぃぃ!」うまく声は出ませんでした。けれど、悟ったの、あれは前世は人だったんじゃないかって、それもただの人ではなく、大罪人です。大罪人!私を置いて出てった彼氏は死んで、生まれかわって鳥になって罪を償おうと、私に会いに来たのです。きっとそう!そうに違いない!思わず巣に向かって走り出し、彼氏の名前を叫びます。力の限り叫びます。鳥にも負けじと叫びます。聞こえる声はさらに勢いを増し、それはもう大合唱ですよ。「狂うー狂うー狂うー」負けじと、私も「狂う狂う狂う」あれ?彼氏の名前なんだっけ?まぁいっか。


狂う...つぶやくような寝言で目が覚めました。グッドモーニング。ひどい寝汗です。まるでシャワーの後のよう。寝起きにも関わらず、心臓がはねてます、どっくどっくと。なにか嫌な予感がして、慌てて双眼鏡を手に取り、巣を覗きました。すると、太く長い紐のようなものが、巣を陣取ってるではありませんか。いつもと違う様子に、私はさらに目を凝らします。見える世界が変わりました。紐ではないです。蛇です。たいそう立派な蛇が私たちの家にいます。私は、おもわず「ひっぃ!ひっぃ!ひっぃぃ!」今度はうまく声が出ました。夢ではなく現実です。頭がカーっと熱くなり家を飛び出します。凄まじいスピードです。水を得た魚。草原を走る馬。自宅から飛び出す私。いい勝負。けど遅かった、木の下にたどり着くころには、巣は原型をとどめないほど壊され、我が子はおろか、親の私たちでさえ、その姿は見えませんでした。かわりに、丸く体が膨れた蛇がのっそりと木から降りてくるところでした。そんな...これからだったのに。名前も決めてたのに...「きゅっ」と何かが締め付けられました。これが心でしょうか?食後の蛇が私を見て、チロチロと舌を動かします。ぼーっとする心をよそに頭をフル回転させます。何かできることがあるはず。まだなにか... 望みを捨てきれませんでした。ぽつりぽつりと雨が降り始め、暗雲が空を覆い始めようとした矢先。ふと、童話を思い出しました。母ヤギが、オオカミの腹を割いて子ヤギを救出する話です。これだ!脳に五寸釘をぶっ刺したような衝撃が走りました。これだ!これこれこれ!できます!私なら。レスキューできます!。それに蛇は、獲物を丸のみする、なんてどこかで聞きもしました。わずかな希望です。すがるような思いで包丁を手に取り戻ってきました。さっきまでの小雨が雨に変わりました。まるで、天もこの惨事を嘆いているようです。もはや、一刻の猶予もありません。素早く、蛇の頭をぶつ切りにし、頭からしっぽにかけて裂き、体液にまみれた我が子を両手に取りました。しかし、それは、生命の片りんすら感じさせないただの肉片でした。わかってはいました。頭ではすでに結果は、わかっていたんです。けど、諦められませんでした。涙です。大粒の涙があふれてきました。だって、だって、我が子との最後が、こんな結末であって言いはずがありません。より一層雨が強まりました。彼氏も我が子も失った私は、何を支えにして生きていけばいいのだろう?頭も心も疲れ切った状態で、雨の中立ちつくしていると「大丈夫ですか?」振り向けば穏やかな顔をした男性がたっていました。


                見つけた。


皆様いかがお過ごしでしょうか?

最近は、非常に暑いです。おそらく夏です。そう思うんです。一方、知らずと、人は生命をおう歌していますね。羨ましい限りです。私ですが、趣味ができたんです。聞いてくださいね。部屋に巣を作りました。窮屈ですが申し分ないです。見えます。何かをする姿が、ほんとにかわいくて、かわいくて、たまらないんです。

いいにおいがしてきました。食事の時間です。カレーでしょうか?

覗いている私も、一緒に口を大きく開け、「え゛ーえ゛ー」と来るはずのない食事を催促してみるんです。



                 ~fin~

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