悪魔とも死神ともちがう

釣ール

これが息子達がみたアニメのバディ

 警察に呼ばれた。

 隣の畑の連中がこちらの悪口を言うし、孫自慢をしてきたからニラにスイセンを混ぜたら初めて捕まった。


 せっかくなので警官に隣の人間が如何に大したことの無いたかが人間の幸せをさぞ選ばれた人間でしか味わえない味のように話していたことがムカついていたかを演説したら息子夫婦にとがめられ、隣の畑とは遠い場所へ住まわせられた。


 私は美人に産まれたことを誇りに思っている。

 こんな人生でも子供が産まれた時や子育ては幸せに思えた。


 美人の多き選択肢を無駄に一つだけに使ってしまった。

 この世に幸せなんてない。


〈なんだよ。

 てめえも昔は自慢してたじゃねえか。〉


 生意気な『存在』が最近耳にささやいてくる。

 もう年寄りだから受け入れてしまった。

 最初は口が悪く、いよいよボケたかと病院へ行こうと思ったがそれならそれでスネかじりの息子夫婦に世話になりたくなかったから黙っていた。


 それに離婚もしてしまって、息子には罪悪感があった。

 だから自立できるよう育てたら私がたまたま金持ちに産まれていてひとりっ子だったから資産があったのを知ると最後までたかられるのだった。


 それでも息子は可愛かったし、義理の娘もいい人だった。


 だからもう、黙るしかない。

 涙ももう出ることも無く隣の畑とは別の場所に引っ越しをせざるを得なかったからとぼとぼと歩いているとどうやら私は若者とぶつかって何か嫌味をいったらしい。

『存在』といつもどおりお年寄りを利用して独り言のように会話していたら、



「お年寄りも事情はあるんだろうけれど時代にアップデート出来ず嫌がらせしかやることないなら『私は時代に合わせた生き方が出来ないから誰にも迷惑かけません。』っていって黙ってそのまま天寿をまっとうしてくれればいいのにね。」


「礼子言い過ぎ。

 ほら?関わらない方がいいよ。」


 と若い女の子に敬遠けいえんされた。


 リノベだかなんだか知らないが新しい人間が集合住宅地にやってきて余計にただ老いだけの孤独な私には傷つかないものの、なんだか若い時のように久しぶりに存在を否定された過去を思い出した。


〈ほらほら!お前みたいなチンケな奴に親切に声をかけるやつなんていないって。

 憎い連中もお前がもどかしく歩いているうちにすぐに前に行きやがる。

 お前なんて生まれた時から興味をしめされないっつーの。〉


 会話相手がいるのはいいものだ。

 もう誰にも介護されないように最低限の生き方を図書館の本で無理やり読み、こちらの財産を私物化する五十代の息子と娘達に今度はニラとスイセンを間違わせてやろうかと年寄り特有のボケを利用しようとした。


 どうせ偽善者なんだ。

 そう言われるってことはもう悪も同じ。


 馬鹿な年寄りのふりは疲れた。

 少しでも息子達を馬鹿にすれば老人ホームに送らされる。


 孫からはとっくに嫌われていてこのまえ


『あのババアまだ生きてるんだよ。

 うちら貧乏だし、そんなに世話されてないし親も要介護予備軍ようかいごよびぐんだから身内と関わりたくないんだよね。

 こういうこと他で言うと世話してもらっただろう?とかどっかの他人が邪魔するけれど〇〇に共感してもらえて嬉しいよ。』



 そう。

 もう邪魔者なのだ。

 固定概念の幸せを歩んでしまったからもう後は死ぬしかない。


 だから同じ性悪しょうわるの悪魔か死神か分からない存在が妄想ではなく実体でいてくれるのがありがたい。


 フィクションならもっと優しい精霊が現れてくれたかもしれない。


 だが私は最低の老婆だ。

 あの存在がたまに私が言わない誰かの悪口を言った後にこちらの悪口を言ってくれてフェアな関係だと思う。


 旦那ともとっくに離婚して第二のパートナーを探す気力もないからちょうどいい。


 この出会いはおそらく不幸なんだと思う。

 産まれてしまった時からそう思っていたけれど。


〈最低なお前のいい所なんて知らない方が最良だと思うぜ?

 はっはっはっ。〉


 ごもっとも。

 もう私はこの存在としか喋らない。

 老人ホームや認知症と思われないよう五十代でもスネかじりの連中に介護されないよう、努力するしかない。


 ずっと言われっぱなし。

 だが子供の頃はやりっぱなしだった。


 因果応報。

 甘んじて受け入れよう。


 もう居場所なんてないのだから。

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