二話 金を生み出すための実験

 バーグは眠そうな目で、私を胡散臭そうに見た。


「真なる錬金術師? なんだそれは?」


 そりゃ分からないわよね。私は溜息を吐いて説明を始めた。


「錬金術師ってなんだか分かりますか?」


「……知らん」


 正直な男だ。貴族というのは見栄張りなので分からない事を分からないと言いたがらないものなのだけど。


「錬金術師は、魔力と科学を使って事象に干渉する術者の事です」


 私の言葉を咀嚼するようにバーグは上を向いて考え込んでいたが、やがて不審げな顔で私を見た。


「それは魔法使いと何が違う?」


 魔力を使う術者と言えば普通は魔法使いだ、と一般的にはそう考えるだろう。分かる分かる。錬金術師の知名度なんてそんなもんなのだ。


「魔法使いは『魔力で事象を改変する』術者です。錬金術師は『魔力と科学を使って事象に干渉する』です」


 バーグはまた考え込み、そして首を傾げつつ言った。


「よく分からんが、何となく魔法の方が凄そうだな」


「それはそうでしょうね。魔法は無から有を生じさせる事が出来る力ですから」


 魔力を変換して、例えば大きな火の玉とか水の壁とかあるいは土の壁とかを出す事が出来るのが魔術だ。まぁ、正確には触媒が必要だったり、大魔法には何日も掛って魔法陣を描かなければならなかったりと万能ではないのだけど、それでも神にも見える強大な力を使う事が出来る魔法の方が錬金術よりも凄いのは確かだ。


 錬金術は分かり易く言えば、魔力を機械や道具の「補助」として使う術だ。


 例えば、井戸から水を汲む滑車とつるべがあったとする。これで水を汲むのは重労働だ。錬金術師はこれに細工をする。魔力を通すと感じる重量が少なくなるロープや自動で回る滑車、内容量を増加出来る樽を設計するのである。


 これには色んな素材を混合して魔力を通しやすくしたり、あるいは魔法陣を刻んで魔力を通すだけですぐに起動出来るようにするなどの細工がいる。そういう事を考えて設計製作をするのが錬金術師の仕事である。


 小さいものでは日常的に使う魔法灯。大きい物なら貴族が乗る馬無し馬車なんかも錬金術師が発明した魔法道具だ。この世界にありふれている、今や生活には欠かせない魔法道具を発明して設計したのは歴代の錬金術師たちなのである。


 私の説明を聞いてバーグはそれでも納得がいかないような顔をしていた。


「魔力を使えば現実を改変出来るのであろう? その方が手っ取り早くはないか?」


「魔法を使うにはとんでもない量の魔力が必要ですよ。よっぽどの魔法使いでも日常的には使えません。一方、錬金術で設計した用具は少ない魔力でも動かせるようになっています。それこそ、平民でも使える程度に」


 勿論、馬無し馬車みたいな大物はそれなりに魔力が必要だけど、魔法灯や魔法つるべくらいなら平民でも使える。つまり、魔力を科学で補うのが錬金術師の創る道具なのだ。


 複雑な術式を覚える事もなく、単に魔力を通すだけで使えるから何の教育も受けていない者にも使える。見た目の派手さはないけども、この世でのお役立ち度で言ったら魔法使いより錬金術師の方が役に立っていると思うのよね。


「なるほどな」


 バーグは頷きながら、手に持ったコップの縁をツッと撫でた。それでコップには水が満たされる。コップに刻んだ魔法陣が魔力を受けて空気中の湿気から水を集めたのだ。ちなみに、湿度が低いと作動しない。


「確かに、重要な術だな。それにしては知名度が低い気がするが……」


「魔力が多い者は魔法使いを目指しますからね」


 格好良いからね。


「錬金術にもそれなりに魔力が必要です。それなのに魔力持ちは魔法使いになってしまいます。ですから、錬金術師は数が少ないのです」


 おまけに、錬金術師は魔力を使う為の魔力理論は魔法使いと同程度に学ばなければならない上、科学知識も当然学ばねばならない。つまり、魔法使いよりも勉強する事が多くて大変なのだ。


 マイナー職業な上に勉強が大変で地味な仕事。これでは若い魔力持ちが目指すわけがない。大きな魔力を持った者は貴族に産まれ易いからね。そんな我が儘お坊ちゃんお嬢ちゃんはたとえ錬金術師に弟子入りしても、すぐに逃げ出してしまうだろう。それくらい錬金術師の修行は大変なのだ。


「ふむ、それなら君はなんで錬金術師になったのだ?」


「私は平民の生まれですので」


 この帝都の下町に生まれた私は七歳までは平民の娘として呑気に暮らしていた。


 それが七歳のお祝いで魔力を測定したところ、平民には非常に珍しいくらいの大魔力を持っている事が分かったのだ。


 それを聞きつけた錬金術師、私の師匠が、私の両親に買い取りを申し出た。困窮していた両親は喜んで娘を師匠に売り飛ばした、というわけである。


 それ以来私は師匠に教育され、十歳で正式な錬金術師となり、十七歳の今に至るというわけだった。


「娘を売るか。よくある事なのか?」


「まぁ、困窮した家が幼い子供を丁稚奉公に出したり女衒に売ったりはよくある事です。相手が錬金術師で高値で売れるなら、両親としては渡りに船だったのでしょうね」


 両親はそのお金で土地を買って、農家を始めたと聞いている。それで弟や妹が飢えずに済むのなら、私だって別に恨みには思わない。


「ふむ、錬金術師が何か、と君の身の上は大体分かった。それで? その『真なる錬金術師』とはなんだ」


 私はその称号を聞いてげんなりした。それは明らかに過大な呼び名なのだ。


「そもそも、錬金術はどうしてそんな呼ばれ方をするのだと思いますか?」


「ん? 錬金術。そのままの意味を取ればつまり金を作り出す術という意味だな」


「そうです。かつての錬金術師の目的は、科学と魔力で金を錬成する事でした」


 それは科学などという言葉も無い時代の事だ。錬金術師は金を作り出そうと様々な試行錯誤を行った。その過程で様々な発見があり、それが科学の進歩に繋がったのだ。


「……つまり、真なる錬金術師、というからには、金を作り出したということか? 君が」


 私はハーッとため息を吐く。


「その通りです」


「すごいではないか。これまでどんな錬金術師にも出来なかった事なのだろう? それは讃えられても当たり前の偉業だと思うがな」


 まぁ、讃えられ、絶賛されたのは間違いない。それどころか命まで狙われるほど危険視された訳だけどね。


「大した事じゃないんです。原理的には非常に単純な事をやっただけですから」


「ほう? どのようにして金を創り出したというのだ。教えてくれぬか?」


 バーグはワクワクした顔で言った。眠気は吹っ飛んだようだ。


「はぁ、そうですね。貴方は水をどうやって作るか知っていますか?」


 バーグの目が点になる。


「は? 水を作る?」


 まぁ、分かるまい。私は構わず言う。


「水素と酸素に少量の銅を加えて加熱すると、水が出来ます。これを化学反応というのですが、つまりこの世界にある物質は、水素や酸素のような根本物質が化学反応によって結び付く事で構成されているのです」


 バーグもセイルイもポカーンとしている。彼らには全く科学知識がないのだろう。


「金も、根本物質の一つです。ですから金を科学反応で作り出す事は出来ません」


 数多の錬金術師が金を生み出せなかった理由がこれだ。他の物質にいかなる手を加えても、それが金となるような科学変化を起こすことはないのだ。


「根本物質を生み出す方法はない、というのがこれまでの定説でした。ですけど近年、根本物質は何か大きなエネルギーを物質が受ける事で。物質が変質して生み出されるのではないか、という仮説が出されました」


 既にバーグは理解を放棄したような顔で私の話を聞いている。


「凄まじいエネルギーを受けると、物質の構造が根本から破壊され、違う物質に生まれ変わる、という説です。私は文献でそれを知って実験してみることにしたのです」


「……ちょっと聞いただけで、並大抵ではないエネルギーとやらが必要なのではないかと思えるのだがな」


「当然です。火を燃やす程度では全然足りませんし、古の魔術師が最終奥義としていたという伝説魔法『核撃』でも無理でしょうね」


 ちょっとやそっとの魔力でどうにかなるとは思えない。私は考えた末、魔力を貯める事にした。魔力を貯める魔道具自体は珍しくはないけど、私の魔力を数年分蓄積して、使用するときには一気に解放出来るように設計するのにはちょっと苦労した。


 私は十歳の頃から魔力を蓄積した、七年間。毎日毎日膨大な魔力を魔道具に溜め込んだのである。


 この時、私は金を創り出そうとしたわけではなかった。単純に根本物質が変質したら面白いし大発見になると思っただけだったのだ。


「それだけのために七年間も魔力を溜め込んだのか?」


 バーグが何やら恐ろしいモノを見るような目付きで言った。私は頷く。


「そうですよ」


「頭がおかしいな」


 錬金術師なんてそんなもんですよ。役に立つ発明より、自分の好奇心が赴くままに様々な実験に多大なリソースを費やす。そんな事をするから錬金術師は変人揃いとか役立たずの穀潰し扱いを受けちゃうんだけどね。


 で、魔力を貯めると同時に実験施設の作成も行う。何しろ核撃の数千倍にもなろうという大エネルギーを解放するのだ。失敗すれば帝都どころか王国が消滅しかねない。


「……そんな危険があることが分かっていて実験を強行したのか?」


「? そうですよ?」


 なんの問題が? 失敗しなきゃ良いんでしょ?


 私は魔力結界を何重にも掛けた五センチ四方の空間を作り、そこに数種類の根本物質を入れた。


 そして七年間溜め込んだ魔力をその狭いスペースに一気に開放したのである。


 七十二層に及ぶ魔力結界は六十四枚も跳ね飛んだけど、なんとか持ち堪えた。でも、漏れ出たエネルギーで王城の外れにある研究室の石の壁は溶けちゃったけどね。私は更に五十層の魔力結界に守られていたから平気だったけど。


 それこそ火山が爆発したかのような惨状に、騎士団や魔術師達が飛んで来て、私はしこたま怒られた。でも目的は達成した。


 冷却には魔術師が極冷却魔法を使ってさえ一ヶ月も掛かったけど、結界の中から取り出した物質を分析した結果、元の物質には含まれていなかった根本物質が何種類も発見されたのだった。


 つまり、その中に金が含まれていたのである。


「魔力顕微鏡でしか見えないくらいの微量ですし、金だけが出来た訳ではありません。なのに『金が出来た』と大騒ぎになってしまって……」


 私としては根本物質の変質に成功したという事に注目して貰いたかったんだけど、他の錬金術師も魔術師も、とにかく「金が出来た」事に驚き、それが貴族や王族に伝わって大騒ぎになってしまった。


 微量であっても金を錬成したのは史上初の快挙であるとして、私は国王陛下から『真なる錬金術師』という称号を授かってしまったのだ。その頃には噂は変質し、誇大になり、私が無から無制限に金を生み出す術を持っているという話になってしまっていた。


 その結果、私の元には多くの貴族から専属契約だの養子だの婚姻だのという勧誘の書簡から、金を生み出すのを止めろという脅迫状に至るまで、多彩な手紙が山のように届いたのだった。


 私は困惑していたのだけど、所詮事実に基付かない噂であるし、その内収まると思っていたのよ。それがなんと刺客が襲ってくるまでになるなんて!


 私はもう頭を抱えるしかなかったわよね。一体、私が何をしたというのか!


「そんな実験を面白半分にするからいけないのだろうが」


 バーグが呆れたように言った。


「其方から詳しく説明を受けても、正直何が何やらさっぱり分からん。これでは、噂を聞いただけの連中が、誤解するのも無理はあるまい」


 面白半分になんてやってないわよ。興味本位ではあったけど。


「いずれにせよ、誤解を解くのは簡単ではないと思うぞ。なにしろ、実際にもう一回同じ実験をやってみる訳にはいかないのであろう?」


 そうね。そもそも私の魔力を七年分貯めなければいけないほどの膨大な魔力が必要な実験だ。設備も使い物にならなくなったから一から作り直さなければいけない。それに、錬金術師協会や魔術師協会から「危険なので二度とやるな」と厳重に申し渡されている。


 つまり、私が金を生み出すことはもう二度とないのだけど、それでは納得出来ない連中は沢山いることだろう。


「それにしても……、やれやれ。偶然にしては厄介な女を拾ってしまったものだな。どうしたものか」


 バーグはうーんと伸びをした。こう見るとなかなか精悍な顔立ちをしている。背も大きいし、均整の取れた体付きでもある。


 しかし態度があまりにもだらしない。眠そうな表情でグデっとソファーに寄り掛かる様は貴族には見えない。平民の酔っ払いとなんら変わりがない。


 もっとも、私は王城の研究室(錬金術師は全員王家の管理下に置かれる)で長年研究していながら、あんまり貴族には会ったことがない。だから本当は貴族がどんなモノなのかよく知らないのよね。もしかしたら貴族ってみんなこんな感じなのかもしれないわね。


「錬金術師の研究所は王城にあるのだろう? そこで襲われたのか?」


「そうですよ。そこから程近い寮も一応は王城の中です」


「だとすると、かなり高位の貴族が関わっているのかも知れぬな」


 曲がりなりにも王城の中で、国王陛下の保護下にある錬金術師を襲うなんて事が露見したら、貴族であっても処罰されるだろうとバーグは言う。


 まぁ、錬金術師は保護されているというより、街中で勝手に研究させるととんでもない実験をして市民に迷惑を掛けまくるので、王城の片隅に隔離されてしまったのだと師匠は言ってたわね。


「ふむ、騎士団なり魔術師協会なりに保護を頼む、というのも止めた方が良さそうだな。相手が高位の貴族なら」


 騎士団は全員貴族の子弟だし、魔術師も貴族出身者がほとんどな上、貴族と個人的な契約をしている事が多い。刺客を送り込んできた貴族と繋がりがあってもおかしくない。


「セイルイ。あの連中は何か吐いたか?」


 セイルイはプルプルと顔を可愛く振ったがなかなか物騒な事を言った。


「結構痛め付けたのですが、依頼者の事は詳しくは知らないそうです。ただ、かなり高位の貴族だろうとは思ったそうですが」


 私を襲った二人の男は街のチンピラで、金に困って殺しも請け負う何でも屋をやっていたそうだ。それで数日前、顔を隠した使者から私の暗殺を依頼されたらしい。かなりの大金を受け取っていたそうだ。


「思ったよりも闇が深いな。さて、どうしたものか」


 私は研究室に戻って錬金術師協会に事の次第を訴えて、保護を頼むのが一番ではないかと言ったのだが、バーグは鼻で笑って否定した。


「高位の貴族を侮るでない。連中は目的を果たすためなら手段を選ばぬ。錬金術師協会も抱き込まれていてもおかしくはない」


 そもそも、私のような若い女に『真なる錬金術師』の称号を奪われた錬金術師たちの嫉妬がそもそもの原因の可能性があるとバーグはいう。まぁ、錬金術師は変わり者ばかりだけど、序列にうるさいところがあるからね。


 しかし、そうなると私は行く所がなくなってしまう。


 錬金術師は王城の研究室でしか研究してはいけない決まりである。野良の錬金術師というのはあり得ないのである。なので、私は研究室に帰れないとなると、錬金術師を廃業しなければならないという事になる。


 いやよそんなの。


 私は七歳で親に売られてから十年間、必死に勉強して努力して錬金術師になったのだ。十歳で独立すると、数々の発見や発明をして一流の錬金術師として認められてきた。


 金の錬成に成功したのだって私の研究と努力の成果だ。それなになんで私が錬金術師を辞めねばならないのか。私は何も悪いことはしていないのに!


 私が歯噛みしている様をバーグは面白そうに眺めていたが、やがて彼は胡散臭い笑顔を浮かべながらこう言った。


「どうかね。ミルレーム。この私が保護者になってやろうか?」


 はい? 私は首を傾げる。


「君が錬金術師として生きて行くには、後ろ盾が必要だ。暗殺を狙ってくるような高位貴族に負けないような後ろ盾がな」


 バーグの言っている事は正しい。魔術師や錬金術師には、大貴族の後ろ盾があるのが常だからだ。大貴族は魔術師や錬金術師を保護し、パトロンになって援助を行い。代わりに魔術や研究成果を独占的に使用する権利を得るのである。


 まぁ、貴族出身の魔術師や錬金術師の場合、大抵実家が後ろ盾になる。私は平民出身で師匠は結構前に死んでしまい、その実家もそれほど裕福な家ではなかったため、これまでパトロンがいなかったのだ。


 なので研究費用は国王陛下から支給される予算分しかなくて常に不足しがちだった。真なる錬金術師の称号のおかげでこの先は予算が増えるだろうと喜んでいたところだったのだ。


 命を狙われるような事態になっている今、後ろ盾になってくれる大貴族の庇護は喉から手が出るくらい欲しかった、ところではあるんだけど。


 私は思わずバーグの有様を見てしまう。


 恐らくはお忍び用のアジトなのだろうこの家にまで召使兼護衛のセイルイがいて、それ以外にも昨日見た髭面の男と、少なくともザムザンと呼ばれていた護衛がいた筈だ。こんなに多くの者をお忍びの間にも付けているのだから、相当高位の貴族なのだろうと想像は出来る。


 しかし、本人には全く威厳のカケラもない。セイルイ曰く「道楽息子」との事だから、当主ではないのだろう。嫡子でもないのかもしれない。


 それでも保護者になると言い出せるのだから、実家は余程実力のある家なのだろう。そんな家の保護を受けられるなら願ったり叶ったりなんだけど……。


 私はバーグをじろっと睨んだ。


「……条件はなんですか?」


「条件?」


「タダではないのでしょう? 貴方の庇護を受ける代わりに、私は何をすれば良いのですか?」


 私の言葉にバーグは思わず、といった感じで口笛をピュウと吹いた。


「これはこれは。流石に錬金術師というのは賢いのだな。頭がよく回ることだ」


 しかしバーグはやや意地悪そうな顔でニヤッと笑う。


「だが、君に選択の余地はないのではないかな? その意味では無駄な聡さではある」


 うぐっ……。確かにそれはその通りで、この期に及んで私に選択の余地などないのである。むしろバーグが保護を申し出てくれなければ、私の命運はここに尽きていた可能性があるのだ。


 しかし、この男に無条件に我が身を預けるというのは……。でも、他にこの窮地を切り抜ける方法も思い付かない。私はしばらくうーむと葛藤した挙句、遂には自棄を起こしてこう叫んだ。


「分かりましたよ! 確かに選択の余地はないようです! 煮るなり焼くなり好きのしたらいいでしょう!」


 私はむしろ胸を張って叫んだ。それを見て、バーグはひとしきり笑い転げると、意外に機敏な動作で立ち上がった。彼の頭がヌーっと私よりも遥かに高い所に上がり、私を見下ろしている。私は思わず身を引いて怯んだわよね。


「良い覚悟だ。ではまずベッドに……、痛い! 痛いぞセイルイ!


 見るとセイルイが笑顔のままバーグの背中をつねっていた。


「バーグ様? あまりお戯ればかりなさっていると、お父様に言い付けますよ?」


 主人であるはずのバーグを掣肘する召使ってなんだろうね。そのお父様から命じられてでもいるのだろうか。


 セイルイに笑顔で睨まれて、バーグは顔を引き攣らせた。どうやら怒ったセイルイはバーグよりも上位らしい。


「じょ、冗談だ。冗談だとも! セイルイ分かっておる」


 バーグはゴホンと咳払いをすると改めて私に言った。


「うむ。歓迎しよう。君は今日から、この私。アズバーグ・アイヒルークの専属錬金術師だ」

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