第17話 もしも/駐屯地強襲
「トキワって、もしこの戦争が終わったらなにかしたいことはあるのか?」
パイプの二段ベッドの上にいるサバルから突然声をかけられた。
タナカが部隊に入ってから二週間が経った。
今日もタナカの訓練に付き合い、宿舎で休んでいた所だった。
「俺らが生まれる前から何十年とやってる戦争がそう簡単に終わる訳ないだろ」
サバルが呆れた様子で言葉を返す。
「あのなあ、俺は“もし終わったら“って言ったんだ。今の話じゃない」
「分かったよ」
「で、何かあるのか?」
もう一度サバルに質問されて俺は悩んでしまった。
そういえば戦争が終わった後の事など考えもしなかった。そもそも俺が生きてる内に終わると考えていなかったからだ。
全てが終わったあとの世界はどうなるのだろう。
俺がもし生きていたら幸せに暮らしているのだろうか。兵士では無い俺の姿はあまり想像出来なかった。
俺はやりたいことも何も無く、戦場の実情を知らずただ安定しているからという理由で軍へ入った。
幼少期や学生時代にヘタレだった俺が、戦争を通して何か変わるんじゃないか、戦争で俺はヘタレでは無くなるんじゃないかなどと言う夢みたいなのもちょっと見ていた。
確かに今の俺はヘタレでは無くなったかもしれないが、こんな日々を過ごすくらいなら夢もやりたいことも無く生きている方がまだマシだったかもしれない。
「俺は···特に思いつかないな。その後なんて想像も出来ない」
「だろうね」
「はあ?」
「そう怒るなよ」
「そういうお前は?」
サバルはそう言われて少し照れくさそうに答える。
「俺は軍に残って士官になろうと思うんだ。平時なら軍は安泰だ」
「人とドロイドの戦争から、人と人との戦争になるだけかもしれないのにな。俺は戦時中じゃなきゃ軍になんか入って無いだろうから」
「じゃあお前、ドロイドと戦いたいとか英雄になりたいみたいな理由で軍に入ったのか?」
「いや、それも違う」
「じゃ、何だよ」
「さあ。特にやりたいこともなかったから。なんとなくで入ったよ」
「軍なんてなんとなくで入るもんじゃない」
「今はそれが身にしみて分かる」
◇◇◆
「つーわけで、また地獄の沖縄だ」
軍曹が部屋に分隊員を集めて話している。
次の作戦が決まった。
沖縄の二度目の奪還作戦だ。
ウォーバードで即座に上陸した後、俺達第七師団を中心として機械化装甲歩兵約八万人が扇状陣形に展開。
そのまま敵を包囲し各個撃破しながら進軍して沖縄を奪還するという作戦だ。
この作戦には俺達第七師団二万人の他にも九州に駐屯している機械化歩兵師団が六つ参加する予定だ。
各師団の機甲部隊なども参加するので戦車の支援もある。沖縄は俺の初陣のときよりも敵がいるだろう。
話を聞いたタナカが口を開く。
「結構大規模なんですね」
「正直沖縄にはもっと部隊が必要なんだけどな。司令部は沖縄の敵の規模を分かってねえ。多分前来たときよりもうじゃうじゃいやがるぞ。お前は硫黄島が初陣らしいが、あそこで派遣された戦力は大分少ない方だ。島を取れたのが奇跡だぜ。ウチの司令部は戦力をいつもケチりやがる」
「マジですか···」
「大マジだよ」
実際この戦力じゃ本当に奪還出来るか怪しかった。
人類とドロイドの戦争になってから、総合防衛軍、もといW.D.Aの死傷率はそれまでの戦争や紛争を遥かに上回る。
ドロイドは人と違って損耗率など気にしない。
まるでプログラムされた機械のように人を殺す。植物を枯らす。蹂躙する。
そこに感情などは感じられない。殺人マシンのようにただひたすら人を狩っていくだ。
何処から湧いて来てるのかも分からない。気が付けばどこからか湧いてくる。
ひょっとしたらヤツらは無限にいるかもしれない。
俺達の戦争に勝ち目はあるのかとふと思う。
「ハッ、新兵が。俺を撃つなよ」
隅で話を聞いていたオキタが喋る。
手に何か透明な容器のようなものを持っているのが見えた。
「オキタ先輩、それなんですか?」
気になってオキタに訪ねてみる。
「ああ?」
オキタはそう言って手を体の後ろに隠した。
「隠さないでくださいよ。さっき手に持ってたやつ、一体なんですか?」
「うるせえ。お前に関係ねえだろ」
「何か言えないようなものなんですか?」
そう言うとオキタは突然俺の胸ぐらを掴んだ。
そのまま壁に押し付けられる。
「てめえさっきからうるせえぞ!お前にゃ関係ねえ!」
あまりに突然のことに驚いていると、隣から軍曹が止めに入った。
「おいオキタ!てめえ何やってんだ!離せ!」
「なんすか、軍曹。軍曹も人のプライベートにズカズカ入り込んだコイツの味方をするんですか」
「オキタ、お前今日なんかおかしいぞ」
「俺はいつも通りですよ」
そう言ってオキタは部屋を出ていった。
「あいつ、何があった?」
俺とタナカ、サバルは呆然としていた。
その後は次の作戦のために全員自分の部屋に戻り、休むことにした。
◇◇◆
午前五時を過ぎた頃、俺は轟音と、その次に聞こえた耳をつんざくような駐屯地の警報とともに目を覚ました。
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