第18話 駐屯地強襲 その二

爆音の警報とともに目を覚ます。時計を見る。

時刻は午前五時六分。宿舎の俺が寝ている部屋の他のベッドはどこも空。

何が起きているのか分からない。最悪の朝だ。

空になったベッドを見て俺は焦りを覚え、急いで廊下へ出る。


兵士達が慌ただしく走っている。戦闘スーツを身にまとっている者もいる。

近くの兵士に状況を尋ねる。


「何はあった?」


「この駐屯地がドロイドの強襲を受けたとさ。準備でき次第、各個迎撃しろって命令だ。あんたも急いだ方がいい」


その話を聞き、俺は一個小隊六十人の武器装備の保管されているハンガーへ急いだ。

ドロイドが本土まで強襲を仕掛けてくるのは今までで始めての出来事だった。

兵士達は未知の出来事に混乱しているようだ。

この様子じゃ指揮系統も麻痺してるだろう。


ハンガーにたどり着き、急いでドアを開けて中に入る。室内は多数のスーツが乱雑に積まれていた。


俺たち機械化装甲歩兵は戦闘スーツがなければ戦えない。生身の人間はドロイドに手も足もでない。

多数の合金を複雑に組み合わせ、更に装甲と兵器を装着したスーツを来て人類はやっとドロイドと戦うことが出来る。

乱雑に積まれたスーツは、切羽詰まった状況で他人のスーツを着ようとした証拠だ。


通常俺たち機械化装甲歩兵の外骨格スーツは、入隊したての頃に新品が支給される。

スーツを装着してまずすることは、スーツと体の全身をリンクさせることだ。

リンクしたスーツは、最初はぎこちない動きをする。

スーツが持ち主の体に慣れていないからだ。

実戦や訓練を重ねると、そのうちスーツが持ち主に適応し、持ち主が快適に動けるようになる。

スーツは持ち主に合わせて変化する。


だから他人のスーツを着て戦うことはまず出来ない。軍のアカデミーで最初に習うことだ。

無理に他人のスーツを着て戦おうとすれば、動けなくなってパイルの的になるか、それでも動こうとして一生ものの後遺症が残るか、など碌なことにならない。


ここのスーツは、それでもやらずにはいられないという厳しい状況を物語っていた。


俺は冷静に自分のスーツを探し出して装着する。

右腕左腕胴右足左足のリンクを確認。準備よし。

グラップリングフックとジャンプキット、準備よし。

スーツのバッテリーは九十三パーセント。

問題なく持つ。

ヘルメットを被る。眼球越しの視界が、モニター越しに変わる。

HUDと無線の電源を入れる。無線は大半が雑音だ。

ガンロッカーからSPAS12とバックショット弾を数十発取り出し弾薬盒へ詰める。

破片手榴弾を三つ、腰のベルトに装着。準備よし。

外では爆発音と銃声が聞こえる。

逃げられはしない。

まあいいだろう。


ハンガーを出て、宿舎の廊下の窓を突き破り外へ。

銃声のする場所へ向かう。

戦闘をしているのは演習場の方か。


俺は金網や鉄条網で囲まれた演習場の中へ入った。

風が強く、銃弾も相まって土埃が激しい。

ヘルメットのHUDにはポツポツと仲間を表す青い点が表示されていた。

それから敵を表す大量の赤。


正面の土埃越しに敵の姿。ショットガンを構える。

いち、に、さん、ズドン。

軽快なステップを踏んでショットガンを撃つ。排莢。

一瞬にして敵を葬る。

俺の回りにはまだまだ敵がいることをHUDのレーダーが表している。


次だ。俺は右の二体に目を付けた。

走り出してブースト。敵に急接近。

目に入った一体にバックショット弾を撃ち込む。

少し距離の離れている次の敵に向かってグラップリングフックを引っ掛け、巻き取って素早く接近。

さっき俺がいた場所にパイルが撃ち出される。


接近しながら腰の手榴弾を取り出し、ピンを抜く。

手榴弾はピンを抜いてから爆発するまでに少し時間がある。投げてすぐには爆発しないので、ドロイドに避けられることもしょっちゅうだ。

俺は目の前の敵を確実に仕留めるため、早めにピンを抜くことにしたのだ。

敵は目と鼻の先。手榴弾を投げつけ、フックを外す。

ブーストで後ろに回り込んだ直後、手榴弾で敵が吹っ飛ぶ。


一体目を撃ったショットガンを排莢。

敵が多い。仲間と合流するか。

レーダーに映った青い点の所へ向かう。

また敵だ。すかさず撃つ。外れたか。

振り下ろされるドロイドの足を転がって避ける。

排莢して、また撃ち込む。


死骸を超えて仲間の下へ。

土嚢にバイポッドを立て、機関銃を撃っている兵士がいる。足元には弾薬箱と大量の薬莢が落ちている。

ヘルメット越しの音声でそいつに話しかける。


「なあ、あんた。第十六中隊のやつを誰か見なかったか?」


「ん?その声はトキワか?」


聞き慣れた機械音声。サバルだ。


「サバルか。よかった。状況は?」


「よかねーよ。突然の攻撃で指揮系統は麻痺。みんな大混乱だ」


「やっぱりか」


そう言っているとレーダーにまた赤点が近づいているのが見えた。


「おい、サバル。来るぞ」


「わかってるよ」


「じゃ、行くか。援護よろしく。俺を撃つなよ」


「ああ」


俺は敵の方へ向かっていった。

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