第16話 新隊員 その二
うんざりするほど面倒なPTが終わったお昼時、俺は昼食の乗ったトレイを持ち食堂の一番端に座っていたタナカに声をかけた。
「タナカ、PTおつかれ」
「いやいや、トキワこそ!」
「俺一応先輩何だけど」
「あっ、そうか。じゃあ敬語使った方がいい?」
「いや、もうなんか慣れたからタメでいい」
「オーケー!」
「あと隣座っていい?」
「もちろん!」
まだ一度しか戦場に行っていないからか、タナカはいつも元気だ。もしもこれが漫画ならこいつの喋る言葉全てにビックリマークがつくだろう。
大切な人の死とか戦場の過酷さをあまり知らない目をしている。まあ俺もたったの二回ほどしか戦地へは行っていないけど、大切な人の死は経験したから、タナカがすごく眩しく見えた。
あんな思いは二度とゴメンだ。
「硫黄島の摺鉢山で助けてもらったお礼をまだしてないと思って」
「ああ。いいよ、そんなの。兵士として当然のことをしたまでだし!あのときのトキワの活躍に比べたらどうってことはないよ!」
「どうってことないってことは無いんだけどなあ...」
元気に食事をするタナカを見ていて、俺は先日サバルに言われた訓練の件を質問してみることにした。
「なあ、タナカ」
「何?」
「俺と一緒に訓練をしないか?普段のやつとは別で」
「訓練?」
「そうだ。この駐屯地の南側にトレーニングルームがあったろ?実戦形式で今からでも生き残る方法を習得しても損は無いと思って。俺もまだ二回しか戦地に行ってないけど戦いは出来るほうだし。」
「·····」
「ああいや、別に嫌なら断ってくれても····」
「·····やる」
「ん?」
「やるやる!やらないわけ無い!」
「声がデカいんだよ···」
食堂で急に大声で喋られるものだから、つい驚いてしまった。タナカの顔を見る。
五歳児がおもちゃ屋の商品を見るようなキラキラした目をしている。
かわいい後輩だ。
「じゃ、早速やってみるか。午後空いてる?」
「もちろん!」
あいにく今日の午後はもう何も無い。
トレーニングルームはこの駐屯地で使うやつはあまりいないので、午後はみっちりトレーニング出来るだろう。
◇◇◆
「それで、そのポッドを全部倒せばいいの?」
「そう言う事だ。思いも寄らない動きをすることが結構あるから、気をつけろよ」
「ちゃちゃっとやりますよ!」
「すげー自信だな。ま、頑張れ」
タナカにトレーニングの方法を簡単に教えたところで、手元のタッチパネルを操作する。
早速訓練に入ると言うことでタナカはすごく気合いが入っていた。
『トレーニングプログラムCを開始。ポッド三機を起動。』
トレーニングルームの聞き慣れたOSとともにドロイドを模した三機のトレーニングポッドが出てくる。
三機のポッドはそれぞれ広がり、タナカの周りを取り囲んだ。
タナカが小銃を構える。
タナカはまず正面のポッドに銃を撃った。
当然躱される。今度は後ろからポッドの体当たりを喰らって転ぶ。
「いたあ!」
「最初はそんなもんだ。頑張れよ」
「アドバイスとか無いの!?」
「いやあ、アドバイスって言っても···ニカイドウも俺にアドバイスあんまりくれなかったし。自分のなりの動きを身に着けろとしか」
「えぇ···」
「あ、強いて言うなら全体を見るといいかも。複数相手は特に。慌てずにどれから倒すか考えて」
「なるほど!」
「ほらほら、敵は待ってくれないぞ」
タナカの右からポッドが急接近。
タナカは慌てて屈んだ。
「危ない!」
「慌てんなよ」
タナカは起き上がってまた銃をぶっ放した。全部外れる。これは射撃訓練も必要そうだ。よく硫黄島で生き残れたなと思った。
急いで弾倉を交換、などとする暇なくまた後ろから体当たり。
「ちょっと止めてもらっていいですか···」
タナカはさっきより弱弱しく声を上げた。
「もうギブ?」
「これ以上はキツいですよ!ちょっと休みます!」
タナカの言葉にハハハ、と笑う。
そういえばニカイドウともこんな会話をしたな。つい最近のことなのに懐かしく感じる。
まあ一ヶ月もすれば慣れるだろう。
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