第15話 新隊員 その一
「という訳で、今日からG分隊に所属することになりました!よろしくお願いします!」
俺達G分隊のメンバーの前で元気に挨拶をするのは本日付けで異動してきた第七師団第四機械化装甲大隊第十六中隊の元A分隊所属のタナカシゲアキだ。
G分隊で一番若い俺とサバルよりも一つか二つは下の年齢だろう。
無邪気に白い歯を見せて笑うその姿はすごく子供っぽかった。
今回このタナカが異動してきた理由は、俺達G分隊の所属隊員が沖縄と硫黄島で立て続けに殉職したことにあった。
沖縄でパイルに頭を吹き飛ばされて死んだナガイ、硫黄島で奇襲を防いで死んだニカイドウ。
これらのことがあって、隊員数の減ってしまったG分隊の人数を調整するために中隊長がG分隊へ異動出来る隊員を探していたらしい。
その話を聞いたタナカは硫黄島で俺との面識があったため、自分から進んで異動を申し出たらしい。
結果として他に異動出来る隊員もいなかったので無事にタナカはG分隊に異動することが出来た、ということらしい。
「おーおー、また元気そうなのが入って来たな。」
話を聞いていたオキタが感心したように口を開いた。
「お前、戦地に行った経験は?」
「この前の硫黄島だけです!」
「新兵かよ。この前のお前みたいだなあ。トキワ。」
「俺はもう新兵じゃないですよ。」
「たったの二回戦地に行ったぐらいで何言ってんだ。お前がニカイドウとの訓練でどんだけ強くなったかは知らんがな。」
「結構強くなりましたよ。試してみます?」
「おっ、やるか?」
その様子をタナカはオロオロしながら見ていた。
サバルはちょっと呆れてる。
「てめえら、いい加減にしやがれ。ニカイドウが死んで喧嘩が無くなったと思ったら今度はトキワかよ。このまま行くようだったら俺が喧嘩両成敗で二人ともKIAにしてやる。」
「すみません、サー。」
「ここはアメリカ海兵隊じゃねえぞ。」
懲りないオキタに軍曹も呆れた口調だった。
色々と環境は変わったがG分隊はこれからも大きくは変わらなそうだ。
俺は少し安心した。
「よし、じゃあこれで今日は解散だ。お前らもタナカに優しくしてやれよ。」
軍曹の言葉とともに解散となった。
いつも通り面白みのない白い宿舎の廊下を歩き、食堂に向かっていると後ろから歩いてきたサバルに声を掛けられた。
硫黄島でドロイドに右足の膝から下を吹き飛ばされたサバルは、俺と同じように神経を接続した義足を身につけていた。
本来なら四肢のどこかを欠損した時点で退役することも出来るがサバルは戦うことを選んだ。
金属製の義足は床を歩くたびに音を発していて、サバルには悪いが少し鬱陶しいと思った。
「なあトキワ。」
「どうした?」
「いや、大したことじゃないんだが、ナガイとかニカイドウが死んでも俺らの分隊は変わりそうに無いなって。」
サバルも俺と同じことを思っていたらしい。
「奇遇だ。俺もおんなじことを思ったよ。」
「やっぱりか。それから、あのタナカとかいうやつ。なんかお前と面識ありそうだったけど、どこかで会ったことあるのか?」
「おう。硫黄島で仲間の救援と摺鉢山の攻略を少しサポートしてもらった。」
「俺が足を無くしてる内にそんなことがあったのか。あいつ強かったか?」
「まだあれが初陣らしいから何とも。でも一回ピンチを助けてもらった。」
「へえ、じゃあタナカ恩人じゃん。お前お礼言ったか?命を助けてもらったお礼。」
その言葉を聞いてハッとする。
そういえばあれからタナカに助けてもらった礼をしていなかった。
「まだしてない。」
「お前そういうトコあるよな。ついでに訓練とかつけてやったらどうだ?普段のやつとは別にさ。あいつまだ新兵なんだろ?」
「何でそういう話になるんだ。俺はまだ二回しか実戦を経験してない。」
「今思いついたんだよ。でも今のお前はニカイドウに訓練をつけてもらって熟練兵くらい強いだろ?初陣からたった一ヶ月。驚異的だよな。新兵のあいつに今から戦場での生き残り方を叩き込んでも損はないだろ。」
「そうだけどさあ...」
俺が訓練をつけるのか。
そう言われると何か変な気分になる。
今の俺は確かにそこらの兵士よりも強い自信はあるが、俺にはニカイドウと違ってまだ実戦経験が足りない。
こんな俺がタナカの訓練をキチンと見られるのか自分でも疑問に思う。
まだ決まったわけでは無いが。
初陣から数週間で訓練をつけてもらう。
タナカは案外俺と同じ道を歩んでいるかもしれない。
もしかしたら、もしも俺がタナカの訓練を見ることになったら。
もしそのお陰で戦場で使えるやつになったりしたら。
俺と完璧に連携が取れるようになったら。
ニカイドウのいなくなった戦力の穴を埋められるとしたら。
そうしたらドロイドとの戦闘も楽に進むかもしれない。
そう考えながらサバルと夕飯を食べに食堂へ向かう。
あとでタナカにお礼を言って、それから訓練のことを話してみよう。
そんな考えが俺にも少し芽生えていた。
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