第14話 より強く、より速く

ニカイドウの葬式から更に二週間。俺は駐屯地のコンクリートの床のトレーニングルームにいた。

あれから色々考えて装備を一新し、手にはニカイドウのショットガンを持っている。

今日はその新装備の力試しをするつもりだった。


ニカイドウが使っていたショットガンは、イタリア製のSPAS12というショットガンだった。この銃はとっくの昔に生産停止となっているが、ニカイドウがそれをどこからか探して購入したらしい。ニカイドウの持ち物は出どころが謎なものが多い。


SPAS12というのはイタリアのフランキ社が設計、製造していた軍や警察用の散弾銃だ。実用性に割と難があった銃だがその外見的な特徴から古い映画やゲームによく出てくる、フィクションでは人気の銃だ。


ニカイドウはこの銃を対ドロイド用に改修して使っていたらしく、ドロイドに有効なバックショット弾に対応するようになっていた。


しかし対ドロイド改修の結果、この銃の強みの一つだった自動式と手動式の切り替えが何故か出来なくなっており、手動式で使うことを余儀なくされていた。


訓練中になぜこのような不便な銃を使うのか質問したことがあったが、一言「ロマンだ。」と言っていたのを思い出す。いざ戦場に赴けばロマンも何も無いのだが、本人はそれで満足していたらしい。


『トレーニングプログラムAを開始。ポッド四機を起動。』


トレーニングルームのOSとともに四機のポッドが出てくる。早速正面の一体のポッドがこちらへ突っ込んで来たので右に軽く躱し、左腕からグラップリングフックを伸ばしてポッドに引っ掛ける。


W.D.A日本軍の機械化装甲歩兵は国産のスーツを使っている。


これには訳があり、ドロイドとの戦争が始まった際、石油などの資源を日本に輸出していた国が立て続けにドロイドの攻撃を受けたため資源の輸入量が激減したことがあった。


当時の産油国のほとんどはドロイドに対応した装備を持っていなかった。このため日本は自国でスーツの製造を行いこれらの国に輸出することで石油などを産油国から優先的に輸出してもらうこととなり、かろうじて今の状況が成り立っている。


それから日本中にスーツの製造工場が出来た。最初は「戦争に国民を巻き込むな!」という声も多かったらしいが、徐々にドロイドによる被害の実態が報道され始めるとそれらの声は自然消滅した。


肝心の性能だが、とりわけ突出した点は無いが質は高い。汎用性に非常に優れていて兵装のカスタマイズが豊富だ。


W.D.A日本軍は特にカスタムを定めていないので、自分の扱いやすい兵装で戦うことが出来る。


かくいう俺も左腕の榴弾砲を取り外し、グラップリングフックを装備することにした。というのも榴弾砲は威力は高いものの一発ずつ装填する使い勝手の悪さがあり、俺はどうも好きになれなかったからだ。


そこで代わりにグラップリングフックを取り付け、ショットガンと合わせてもっと機動的に動こうと考えついた訳だ。


フックを引っ掛けたポッドを全力で地面に叩きつけ、トドメと言わんばかりにショットガンを一発撃つ。

排莢する。


次のポッドへ走り出し、ブーストジャンプで上に飛び上がり標的へ一発。避けられた。すかさず排莢し、突っ込んできたポッドを横に転がり躱す。

すぐに起き上がって一発撃ち込む。ポッドが動かなくなる。排莢。


SPAS12は装弾数が8発あり、「小型の大砲」の異名を持っている銃だ。威力は以前の小銃とは比べ物にならなかった。


右にまた一体見えた。すぐに仕留めに行こうとしたがあともう一体いたはずだと思いとどまった。後ろに回り込まれたと思い咄嗟に屈む。その上をポッドが突進しながら通過していった。危なかった。


通過したポッドにグラップリングフックを引っ掛け、近づいて来ていたもう一体目掛けてそのまま叩きつける。ポッドはどちらも動かなくなった。


このショットガンとグラップリングフック、意外といいかもしれない。そう考えていると、突然トレーニングルームの扉が空いた。


「おーい。トキワいるか?」


その声に少し聞き覚えがあった。硫黄島で出会ったタナカの声だ。


「タナカか?どうしたんだ?」


「ああ、いた。突然だけど、俺今日からG分隊に所属変更になったから。言いに来たんだ。」


「え?」


突然の言葉に、俺は驚きを隠せなかった。

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