第13話 素顔で向き合えば
硫黄島防衛戦から二週間が経過した。
作戦に従事した機械化装甲歩兵約一万五千人の内約三分の二が死傷、水陸両用車もほとんど大破する被害が出たが、結果としてこの兵士の規模でたった一日で硫黄島を確保したのは大戦果と言っていいほどだった。
駐屯地に帰ってきてからまず、ニカイドウの葬式があった。
俺やサバルやオキタ、軍曹も出席して、それから俺の知らないニカイドウの知り合いや友人が沢山出席していたのを覚えてる。やはりというか、ニカイドウは友人が多いタイプで皆から好かれていた。
親族らしき人は一人も出席していなかったので、軍でニカイドウと五年以上の付き合いがあったオキタがスピーチをしていた。ニカイドウの学生時代の友人の人から色々と知らなかった話を聞いたが、誰もニカイドウの夢のことは知らなそうだった。
ニカイドウは単独で敵の奇襲を防いだと言うことで、殉職しながらも異例の四階級特進をし、死後に伍長から少尉になった。
かくいう俺も、摺鉢山確保に多大な活躍をしたこととニカイドウが殉職したことで伍長となった。
最初は経験のあるオキタを伍長にすれば、と思ったが分隊内での役割は大きく変わらないのでそのまま了承した。
葬儀が終わり、駐屯地に帰って宿舎の部屋のパイプの二段ベッドで休んでいると、起きたがマグカップを二つ持ってやってきた。
「ほら、お前にやるよ。」
「コーヒーですか?高級品じゃないですか。」
「コナコーヒーだよ。ハワイ産の。コーヒーの中でも更に高級品だぜ。ニカイドウが好きで、たまに飲んでたんだ。」
「よく手に入りましたね。」
「数ヶ月に一回くらいの頻度で飲んでたんだよ。あいつ。どこで手に入れてたのかは知らん。あいつの私物の中にあったから淹れてきたんだ。」
「いいんですか、それ。本人聞いたら怒りますよ。」
「今日ぐらいはあいつも許してくれるだろ。」
そういえばニカイドウの好きなものとか、あまり知らなかったなと思った。一ヶ月の訓練で音楽について話すことは多々あったが、お互いの好物はよく知らなかった。そもそも聞く前にニカイドウが殉職してしまうとは考えてもなかったからだ。
ちょっとふざけた雰囲気はあったが、頼れる先輩で、死ぬなんてあり得ないと思っていた。
「あんだけ喧嘩してても俺の戦友に変わりなかったからな。ちょっと寂しいよ。騒がしく無くなって。」
「やけにさっぱりしてません?」
「まあ、もう何年もの付き合いだったからお互い覚悟はしてたよ。」
そう言ってオキタはタバコを取り出して火を点け始めた。
「俺タバコ吸わないんですから、ここで吸うのはよしてくださいよ。受動喫煙ってヤツですよ。俺はまだ死にたくないです。」
「受動喫煙で死ぬなら俺は今ごろとっくにあの世でニカイドウと喧嘩してるよ。」
そんなオキタの言葉を聞きつつコーヒーに口をつけると、なんとも言えない苦みとすっきりした酸味がした。コーヒーを飲むのはこれが人生で始めてだった。というのも、ドロイドとの戦争が始まってからコーヒーや紅茶などの嗜好品は極端に手に入らなくなったからだ。戦争が始まってから生まれた大半の人間はこのようなものを口にしたことがない。
「それから、ニカイドウの使ってたショットガンどうします?」
「ああ、それか。お前が使っていいんじゃねえ?ニカイドウからの最後の贈り物だと思って。今のお前なら使いこなせないこともないだろ。」
「でもいいんですかね、そんなこと。」
「あいつもきっとOKしてくれるよ。」
ははは、とオキタは笑った。確かに、今のところ誰もニカイドウのショットガンを使ってくれる者はいないし、まだまだ使えるので少し勿体ないと思った。
これを見ると不思議とニカイドウが隣にいるような気がして、硫黄島で短いながらも二人でドロイドの群れと戦ったことを思い出す。入隊してからニカイドウと過ごした日々は俺のW.D.Aでの生活の中で最も大きな思い出と言っても良かった。ニカイドウのことはこのショットガンを見るたびにずっと思い出すだろう。
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