第11話 独りじゃない
トキワ達が摺鉢山を確保する数時間前、摺鉢山の手前でニカイドウヨシタケは少し危ない状況になっていた。
トキワに「行け」と指示をし、奇襲を仕掛けてきた敵を軽く蹴散らしてすぐに合流するつもりだったが、ドロイドが想像していた数よりも多く出てきてしまったからだ。
ショットガンを撃ちながらニカイドウは考える。
どうやら敵は俺が思っていたよりも本格的に敵は背後から強襲するつもりだったらしい。ここで止めなければ前の部隊はたちまち壊滅するだろう。
トキワ達は無事だろうか。まああいつの事だから多分無事だ。正直言って、トキワの戦闘のセンスはずば抜けている。初陣からたったの一ヶ月であそこまで動けるようになるのは予想外だった。俺との連携も取れた。これが生まれ持った才能ってやつだろうか。この戦いで俺も越されるかもしれない。
「ここを死ぬ気で守らなきゃならんな。」
そう言い放ってまた正面のドロイドにショットガンを撃ち、排莢。薬莢が足の上に落ちる。
聞こえるのは自分のショットガンの銃声とブーストジャンプの起動音、それからガサガサというドロイドの不快な足音だけだ。
多分仲間が来ることはないだろう。
ブーストジャンプで真上に飛び上がる。最初に目に入った右の敵に片手でショットガンを撃つ。スーツの補助があれば反動だって楽々制御装置出来る。
そのまま再度ブーストをして右に着地。着地点にいたもう一体のドロイドをショットガンの銃身で思いっきりぶん殴る。そこからすかさず後ろへ回り込み、ドロイドの体の隙間に手榴弾を入れてピンを抜く。振り下ろしてきた足をかわして離れる。すぐにドロイドの体が爆散。
次に左の一体を榴弾砲で吹き飛ばす。そいつは塵になって消えた。すぐに榴弾砲を装填。
俺のショットガンの対ドロイドのバックショット弾はあと九発しかない。あとは大して役にも立たない通常弾と焼夷弾だ。榴弾砲の弾丸はまだ沢山あるがいちいち装填させてくれるほどヤツらは優しくない。手榴弾だってもう無くなってしまった。スーツのバッテリーはあと25%で、これ以上戦うの絶望的だ。
もうすっかり夕方になったのか、快晴の空に美しい夕焼けが広がっている。ドロイドと戦っていなければ純粋な気持ちでこの夕焼けを眺められたのに、と思う。
そんなことを思っていたがヤツらは感傷に浸ることすら許してくれない。また周囲の地面が盛り上がる。
いくら何でも多すぎる。
「クソっ、ヤツら本気だな...」
ショットガンの薬室に残ったバックショット弾を全て装填する。
突然腹をこぶし大の物体がかすめた。ドロイドのパイルだ。正面から撃たれたのか。危なかった。
すぐに前に出る。まずこっちへ向かってきたヤツに一発撃ち込む。排莢してソイツの死骸を蹴り上げ、次の標的へ一発。足に当たって、砕ける。外れた。排莢する暇がないから、左腕の榴弾砲を撃ち込む。敵が吹き飛ぶのを確認し、排莢して次へ。
ブーストしてショットガンを撃ち、排莢。前に出て倒して、状況を見て下がり榴弾砲を装填して撃ち込むのを繰り返す。動きは体に染み込んでる。
一体のドロイドを目の前にしてバックショット弾が無くなってしまった。銃身でドロイドを殴り、一旦後ろへ引いて咄嗟に取り出した焼夷弾を三発装填。
また前に出て一発撃って排莢。ドロイドの体に火が付くがまだ動く。ブーストで更に背後へ回ってもう二発。効いているのか分からない挙動でまだ足を動かすドロイドをまた銃身で殴る。動かなくなった。
やはり焼夷弾はドロイド相手にはあまり役に立たない。もう何体屠ったか忘れてしまった。
「ああ...クソ。流石にキツいか。」
そう独り言を喋るも返事は帰って来ない。
思えば俺の人生で肝心な時はいつも一人だった気がする。病気で死んだ母親の葬儀の時も親父はどこかへ行ってしまったし、入隊してからの初陣の時に同じ分隊だったやつはみんな死んでしまった。死にそうになりながらも独り生き延びたあの頃が少し懐かしい。
ホームに飛び降りたやつもきっとこんな気持ちだったのだろうか。そういえば昨日はいつものあいつの夢を見なかった。今日は何か違うのか、俺にはわからない。夢のことを何故トキワに話したのかもよくわからない。
そう思っていると、体中がとてつもない疲労感に襲われた。その場に倒れ込む。
「流石に...疲れたな...」
また独り言を言い放っていると、こちらに近付いて来る一人の人影が、日のほとんど沈んだ薄暗い中に見えた。
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