第10話 摺鉢山攻略 その三
摺鉢山は硫黄島の南西端に位置する火砕丘だ。硫黄島の火山活動で形成された安山岩質で、名前の由来は「すり鉢」を伏せたような形状から来ている。
太平洋戦争中はこの地で上陸してくる米海兵隊と旧日本軍守備隊が激突した場所で、太平洋戦争でも最も激しい戦いの一つだった。山体内部は七層にくり貫かれ、旧日本軍の砲台陣地となっていた。今となってはもうドロイドの巣になっているだろうが。
中隊長の指示で戦える兵士が集まり、再度攻撃が始まった。機械化装甲歩兵五十三名は摺鉢山の麓でドロイドの大群と激戦になっていた。ドロイドの撒いたガスはすっかり晴れ、雲一つない空には戦場には不似合いな美しい夕焼けが広がっていた。
パイルが飛んできた山の麓に向かって榴弾砲を一発発射する。すぐに近くの木の裏に身を隠す。頭上をパイルが貫通し木の破片が頭に落ちてきた。
右側では頭部を撃ち抜かれ兵士が一人倒れた。
中隊長によって兵士が集まったとはいえたったの五十三名では山を攻略するのは正直言って絶望的だ。だがそのようなことを考えたってクソ司令部は増援を寄越してくれないからからしょうがない。
こっちは一人一人死ぬ気で戦ってるってのに。俺達が命を賭けている戦いも上から見ればただの数字。損失が出ても島を取り返せればいい。作戦上必要な犠牲ってやつだ。クソみたいな司令部のことを考えるとすごく腹が立ってきた。死ぬ気でやってやる。
最後の手榴弾を前方に投げてパイルがこちらへ発射されるのを防ぐ。そのままブーストで一気に前進。麓を突破。死の登山が始まった。
ドロイドは出たり隠れたりを繰り返している。姿を見て近接戦闘に入ったかと思えば今度は遠くからパイルをこれでもかと撃ち込んでくる。なら一気に登るか。
俺が山に入ると他の兵士も続々と麓を超え始めた。
その光景に少し安心してまた前進を始める。
目の前にドロイドが一体見える。俺は右前の木に向かってブーストし、木に足を一瞬着いた。そのまま敵の方向へ木を蹴り上げ、更にブースト。ドロイドは前足を振り下ろそうとするが構わずヤツの懐へ。ブーストしたまま右腕を叩き込む。敵が動かなくなったので、着地してまた登山を再開。
初陣ではあまり気にしなかったバッテリーを確認する。スーツのバッテリーは残り39%。少ないが山を攻略することは出来るだろう。
また足元の土が盛り上がる。すかさず後ろへ下がり榴弾砲を地面に撃ってこれを止める。土が顔に飛び散った。俺の登山は邪魔されてばかりだ。また頂上を目指して歩みを始める。
途中、二、三体のドロイドに出くわしたが俺は難なく撃退して先へ進んで行った。急な傾斜が無くなり、頂上と思しき場所に到着した。また息を切らし、膝に手を付く。息を切らすのはこれで何回目だろう。
まだ下では銃声が聞こえるので仲間がたどり着くまで少し休むことにする。状況がヤバそうなら戻って仲間を助けるか、そう考えているとまた土が盛り上がり始めた。すぐに榴弾砲で倒そうとするが盛り上がったのは一箇所だけではなかった。そこら中からドロイドの足が土から出ている。
「...ちくしょう、まだあんのかよ...」
ハアハアと言いながら口を開く。体中が痛いし、疲労を訴えていた。でも死ぬわけには行かない。これが最後の戦いになりそうだ。
まず土の中から真っ先に姿を表した正面の一体にフルオートで小銃を撃ち込み、倒す。今度は背後でガサガサと音がしたので、振り返ってすぐ拳を叩き込む。義手でも衝撃を感じるような威力で殴ったドロイドは粉砕され、死骸が斜面を転がり落ちていった。
榴弾砲を撃ち込み、後ろに下がる。小銃をリロード。
また体を出し、銃を撃つ。時にはブーストで体当たりして殴る。ジャンプキットで木々の間を縦横無尽に動き回り、最後の力を振り絞って戦う。疲労のせいか、俺にはその時間が果てしなく長いように感じられた。
何体倒したかはもう分からない。
目に入った最後の敵を榴弾砲で仕留めると、俺はその場に仰向けで倒れ込んだ。もう立つ気力もない。体中が痛かった。
しかし俺の正面にドロイドが一体見えた。さっき取りこぼしたか。もう俺は戦えない。
ドロイドはこちらへよってきて、見慣れた動作で鋭い前足を振り下ろそうとした。
俺はもう死ぬのか。
そう死を覚悟した瞬間、右から撃たれた榴弾砲でドロイドが吹き飛ばされた。
榴弾砲を撃った方を見ると、そこには下で会ったA分隊のタナカの姿があった。
こっちに駆け寄って来る。
「おい、大丈夫か!」
「ありがとう...ちょっと体が動かないんだ...」
「もう大丈夫だ。目立った怪我は無いし。」
そう言ってタナカは俺の周りの無数のドロイドの死骸を見る。そして少し興奮気味に口を開いた。
「お前、やっぱすげーよ!」
「はは、ありがとう...」
その後中隊長と歩兵数名も頂上に到着した。歩兵の数はずいぶん減っていたが仲間が無事だったことにすごく安心した。
歩兵が摺鉢山の頂上に日章旗を立てる。日本がこの戦争に参戦してから、まだドロイドとの戦いに勝利を収めたことがなかった。この歴史的瞬間に俺達は大いに歓喜した。
ニカイドウは無事だろうか。
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