第2話 第二次沖縄戦 その二
どういうことだ?
ヤツら穴を掘って地中から俺達の陣地に奇襲を仕掛けたのか?じゃあさっき戦ったのは囮か?
そんなの聞いたことがないぞ。
また呼吸が早くなる。心拍数が上がる。無線が繋がらない。いつどこでヤツらと出くわすかもわからない。こんなところで野垂れ死ぬのはゴメンだ。そんなことを考え、ヤツらが通った無数の穴を見ながら呆然と立ち尽くしていた。
その時後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
「おい、トキワ!こんなところにいたのか。陣地が奇襲を受けてる!」
今はその声にひどく安心する。
「サバルか。こいつを見てくれ。」
「この穴は?」
「ヤツらが通ったんだ。最初に俺らが戦ったヤツらを囮に、地中から陣地に奇襲を仕掛けたんだ。くそ。」
「そんなの、聞いたことがないぞ。あいつらそんな行動がとれたのか。」
「俺も初めて知った。それよりどうするんだ。仲間とはぐれたぞ。軍曹達とも繋がらない。」
「一度陣地に戻ろう。」
サバルは悩む素振りも見せなかった。
「正気か?奇襲されたんだろ?敵の大群がいるぞ。」
「仕方ないだろ。こんなとこでうじうじしてたって無駄だ。それに軍曹達も陣地に戻って戦ってるかもしれない。行く価値はある。」
そんなことはわかってる。無線は繋がらないし、味方の姿も見えない。作戦は総崩れだ。引き返せば味方と合流出来るかもしれない。そのかわりに地獄が待っている。
「それで、引き返すのか?」
「くそったれ。」
「よし、決まったな。行くぞ。」
もと来た方向へ引き返す。あたり一面が油断したら飲み込まれそうな白い霧と静寂に包まれている。ひどく不気味で数メートル先も見えない。今ドロイドに飛びかかって来られたら間違いなく死ぬだろう。
泥とぬかるみの地面の歩いていると、足に何かがあたった。足元を見る。そこには人の頭があった。
つい「うおっ」と声を上げてしまう。
「どうした、トキワ。何かあったか?」
「いや、死体だ。クソ、ここでもやられたか。」
「そこだけじゃないみたいだ。周りを見てみろ。」
そう言われて周囲の地面を見渡す。霧ではっきりとは見えないが、人の形をしたものがそこら中に転がっていた。
胴体と足を切断された者、胸を刺されたのか口から内蔵を吐き出して死んでいる者もいた。
喉からこみ上げる胃液を飲み下す。吐きそうだ。
足元にあった死体のスーツの記章を見る。桜の記章だ。この記章は第三十九後備中隊のものだ。この部隊は確か、俺達の中隊の後方で援護に回っていたはずだ。やはりドロイドは地中を通って背後から奇襲をかけてきていた。
「やっぱりヤツら地中を通って奇襲してるな。急ごう。」
「総崩れだ。ちくしょう。」
五分ほど移動したところで銃声が聞こえた。陣地は近い。俺とサバルは銃声の方向へ走り出した。
霧が少し晴れてきた。前に小銃を撃ってる人影が見えた。ミサワ軍曹だ。サバルが声をかける。
「軍曹!生きてたんすね!」
「んん?サバルか?それにトキワも。お前らこそ無事だったのか。」
「ドロイドのヤツら、地中から陣地に奇襲を仕掛けてますよ。」
「守備隊から救援の無線が入ってきて駆けつけりゃあこんな状態だった。奇襲なんか受けたことねえからおかしいと思ったらそんなことまでしてたのか。」
やっぱり軍曹も状況が飲み込めていなかった。
クソ、色々とおかしいぞ。
「そんなことより、おしゃべりしてねえで手伝え。今状況はヤバいんだ。あっちにオキタとニカイドウもいるぞ。」
「「了解」」
軍曹とオキタ、ニカイドウが無事なことに安心しながら、軍曹と分かれて爆発で出来た穴に隠れる。小銃を構える。銃声が聞こえるが姿が見えない。
その時、俺の隠れていた穴の土が盛り上がった。
何だと考える暇もなくドロイドの鋭い手足が出てくる。また地中からの奇襲だ。
「クソっ!」
ドロイドが土から無機質な頭部を出した。慌てて俺は持っていた小銃をぶっ放す。慌てたせいでまともに当たらない。ドロイドが素早く全身を出す。その時に飛び散った泥が俺の顔にかかった。
弾切れだ。リロードがいる。しかし現実はそう甘くない。敵は俺に弾倉を交換する時間を与えてくれない。ドロイドが鋭い前足を振り下ろす。とっさに右腕で防御。俺の右腕は切断され、宙に飛んだ。血が顔に飛ぶ。
まだ左腕の榴弾砲が残っている。即座に手を前に出してトリガーを引く。榴弾砲の爆音で耳が痛い。
まだ俺は生きてる。ここで切断された右腕の痛みが襲ってきた。あまりの痛みに絶叫する。
この絶叫を聞いてか、地中から更に二体、ドロイドが出てきた。小銃も使えなければ、榴弾砲の弾丸もない。ここで死ぬのか、俺。
もうだめかと思われたその瞬間、上空から突如現れたウォーバードの小型ミサイルがドロイドを吹き飛ばし、穴の隣に着陸した。着陸したウォーバードから見慣れないカラーのスーツを着用した兵士達が出てきた。兵士のスーツの肩には白い文字で「U.S.」と書いてあった。
そこで俺の意識は途切れた。
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