第3話 腕とスーツ その一
俺が生まれた頃には、人類はすでにドロイドとの全面戦争に突入していた。ドロイドの上陸先で戦闘が始まったが敗北を重ねていた。戦争に入って二ヶ月で軍人、民間人問わず数百万人が死亡した。
戦争が始まってからの被害は人類が起こしたいかなる紛争や大戦を上回った。
兵士の戦闘能力を底上げするために世界各国が技術と資源を出し合い、外骨格スーツを開発した。このスーツを導入したことにより人類の戦闘力は格段に上がった。
そして戦争が始まって二年、人類はニュージーランド防衛戦で初めて勝利を収めた。
それでもスーツを使用しているのはヨーロッパやその他一部の先進国だけだ。南米やアフリカ、中東では未だに旧式の銃器とガスマスクだけで戦っている。中国やインドはその人口の多さを活かした人海戦術で大量の死傷者を出しながらもなんとか戦線を維持している。
日本は今まで大陸から離れていたことで、ドロイドの侵略を免れていた。しかし今回は沖縄が攻撃を受けたことでそのような呑気なことも言っていられなくなった。
◇◇◆
意識が戻って真っ先に目に入ったのは白い天井とLEDの電灯だった。ここはどこかの基地の医務室か。
俺は薄汚いパイプのベッドの上で寝ていた。体にはいくつものチューブが点滴と繋がれている。
周囲を見る。俺と同じくパイプのベッドの上で負傷した兵士達が横たわっていた。
栄えある初陣で切断された右腕には包帯が何重にも巻いてあった。あれから何時間経ったんだろうか。
俺の点滴を交換しにきた女性の看護師に話しかける。
「ここは一体どこなんだ?それでも今日は何日だ?」
「まあまあ、落ち着いてください。ここは鹿児島県のW.D.A日本軍の指宿駐屯地です。それから今日は六月の十四日です。」
確か俺が作戦に参加した日は六月十二日だったはず。
あれから約二日経ったらしい。
「じゃあ沖縄では...」
「そうですね。負けてこちらに撤退してきました。参加した三万五千人のうち無事撤退出来たのは約六千人ほどだそうです。生きて帰って来られただけマシですよ。」
看護師は手慣れた様子で点滴を交換する。
「でも幸運でしたね。日本に駐留してたUSの部隊が撤退をサポートしてくれたんですよ。」
「俺はそれに助けられたのか。」
「ええ。」
そう言って看護師は他の兵士のところへ行った。
どうやら俺の参加した沖縄での作戦は大失敗だったらしい。今ごろ軍のクソ上層部はメディアに言い訳を並べた会見を行っている頃だろう。
医務室で流れているラジオに耳を傾ける。
『続いてのニュースです。先日行われた沖縄の奪還作戦で、参加した兵士の三分の二以上が死傷したことによる野党からの政府への批判が…』
そんなニュースを聞いていると、医務室の扉が勢いよく開き、顔に傷を負ったスキンヘッドの強面の男が入って来た。手には何か袋を持っている。
「トキワはいるか?」
ひどく聞き慣れた声だった。
「軍曹ですか?生きてたんですね。」
「おう、おかげさまでな。それよりお前、右腕を失くしたんだって?」
「そうです。まあ生きてるだけ幸運ですよ。」
「そんな不幸なお前にプレゼントだ。つっても、俺からじゃねえけどよ。」
幸運だって言ったのに。
そう思っていると、軍曹は持っていた袋の中身をガサガサと取り出した。
「これは...義手ですか?」
「そうだ。右腕をなくしちまったお前のためのな。戦場から五体満足で帰って来られる俺みたいなやつは極めて稀だ。大抵のやつは、四肢欠損で義肢をつけるやつとか、色んなクスリを打ちまくるやつとか、挙げ句の果てには神経チップを埋め込むやつだっている。戦場に倫理も人道もねえのさ。」
「俺はまだマシな方なんですね。」
「そうだな。これでお前もサイボーグに片足突っ込んだんだぞ。喜べ。」
「なんも嬉しくないです。」
「まあ頑張れよ。」
そう言って軍曹は医務室から出ていった。
最後も勢いよく扉を閉めて行った。
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