侵略者との戦争で新兵が成長するまで

@sar4

第1話 第二次沖縄戦 その一

初陣で生き残れる新兵はきっとすごく運のいいやつだ。

俺が運のいいやつであることを精一杯祈ろう。

いよいよ突撃だ。俺の中隊は塹壕の中から作戦開始の合図を待っている。今日は雨。最悪の天気だ。光学迷彩機能のある外骨格スーツを身につけているのに塹壕に隠れるのは無駄だとクソ司令部と参謀は思わなかったのだろうか。

手に持っている自動小銃を握りしめる。

心拍数が上がるのがわかる。呼吸も無意識に早くなる。

敵はどこにいるんだっけ。

ああ、もうどうでもよくなってきた。


俺が生まれるもっと前、海から突如としてそいつらは現れた。上陸した先の土地を全て枯らし、生物を根絶やしにしていった。

目的はわからない。人類はそいつらをドロイドと呼び、人類の存続を脅かす未知の侵略者とみなして総合防衛軍(W.D.A)を設立し、立ち向かうことを決めた。

俺はW.D.Aに入隊して半年の新兵だ。


初陣で死にたくはない。


「トキワ、お前緊張してんのか?」


俺の分隊を率いるミサワ軍曹が声をかけてくる。


「どっちかというと、恐怖に近いです。」


「安心しな、俺の初陣もそんな感じだった。」


「軍曹も怖くなるときがあったんすねえ。」


隣にいる同期のサバルが口を開く。


「あたりめえよ。お前俺を何だと思ってやがる。」


そんな会話を聞きながら恐怖で固まった頭で作戦の内容を必死に思い出す。俺たち総合防衛軍JP第七師団第四機械化装甲大隊第十六中隊は日本のここ、沖縄の奪還作戦へ参加していた。


3ヶ月前に突如沖縄にドロイドの大群が上陸。

沖縄は一瞬でヤツらの手に落ちた。

今回はその沖縄を奪還するらしい。

この作戦には俺の所属する第七師団を含めた3個師団の総勢3万5千人、最新鋭の機械化砲兵大隊、それと機械化航空大隊が参加する大規模な作戦だ。


塹壕で合図を待つ俺達の頭上を機械化航空大隊のウォーバードが美しい編隊を組んで飛んでいく。


ウォーバードというのは、ドロイドとの戦争を進めるにあたって機械化航空隊のためにアメリカで開発されたものだ。

高い兵員輸送能力と攻撃力を併せ持った、前時代的な言い方をすれば軍用ヘリのようなものだ。

日本でもそのような航空機を国産化しようとする計画があったが頓挫したとか。


ドロイドとの戦いの基本戦術は、まずウォーバードの航空隊がドロイドの潜伏地点に爆撃を行い、地上部隊で一気に突撃、包囲する。

ヤツらの反撃を受ける前に地上部隊がスーツに装備された榴弾砲や爆発物で仕留める。

決して一対一で戦って勝てるようなヤツらではないため、いかに迅速に包囲殲滅できるかがカギになってくる。


「いよいよだ。気ぃ引き締めていけよ。」


軍曹が声を掛ける。


「ああ、クソ。タバコ吸いてえ。」


「うるせえぞヤニ野郎。突撃前くらい黙ってられねえのか。こういうのは初動が大事なんだ。」


「てめえに戦術の何がわかんだよ。」


「おい、うるせえぞグズども!黙ってろ!」


今にも罵り合いを始めそうなニカイドウとオキタを軍曹が止める。


「ったく、てめえら死ぬかもしれねえ突撃前にくだらん喧嘩をされるこっちの身にも...クソ!始まったぞ!」


ピーッと突撃合図のホイッスルが鳴った。

塹壕から身を乗り出し突撃を始める分隊に俺も続いた。待機していた兵士たちが一斉にスーツの光学迷彩を解除、砲兵隊の砲撃によって瓦礫とぬかるみだらけになった沖縄を進撃していく。

塹壕と泥だらけになった沖縄は第一次世界大戦の西部戦線に逆戻りしたような、とても22世紀とは思えない状態になっていた。ここにかつて人々の営みがあったであろう家屋の瓦礫に隠れつつ徐々に進軍する。

穴だらけで足場が不安定だ。ぬかるみもあり進軍速度は早いとは言えない。それにいっこうに敵の姿が見えないことに異常を感じるのは俺が戦場を知らない新兵だからだろうか。


敵はどこだ?

航空隊はどこに爆撃を行っていた?


分隊の一人、ナガイが俺の隠れている隣の家屋から身を出す。


「どこにもいねーぞ。ドロイドどもは尻尾を巻いて逃げちまったんじゃねーのか。」


「おい、ナガイ!遮蔽物から身を出すな!死にてえのか!」


軍曹が叫んだ瞬間、ナガイの頭部を時速90キロで発射されたパイルが吹き飛ばした。

ナガイはその場に仰向けで倒れる。

頭の3分の1を吹き飛ばされたナガイはどう見たって即死だった。いつも下ネタが多いやつだったが死んだ方がいいというやつでもなかった。


「くそったれ!一人KIAだ!敵が出てきたぞ!戦術通りに広がれ!」


中隊長が怒鳴る。指示通り中隊は左右に広がる。

敵を包囲殲滅する用意をする。

俺達の第十六中隊は左翼に展開している。

俺の中隊は左側から突出し、敵を包囲するのに重要な役割を持っている。俺の分隊はそのさらに左だ。失敗はできない。近くの遮蔽物に援護兵のサバルが瓦礫に弾薬と四十ミリ固定機銃を設置する。俺はその隣だ。反対側では早くも銃声が聞こえる。戦闘はもう始まっているのだ。


「ヤツらが出てきやがったぞ!」


誰かが叫ぶ。HUDのディスプレイに複数の白い点が表示される前方からドロイドの群れが接近していることは目視でもわかった。

人体を骨だけにして蜘蛛のような関節の四つ脚をつけて四足歩行させればちょうどヤツらの見た目になる。未知の侵略者は俺達の姿をよくわかってるらしい。パイルを撃つだけでなく状況に応じ近接攻撃やガス攻撃をしてくるらしい。


小銃に機械化徹甲弾マガジンを差し込みコッキングレバーを引く。正面の一体にフルオートで徹甲弾を撃ち込む。銃身がキックバック。サバルも四十ミリ機銃を撃つ。

5秒と持たずマガジンが空になる。

敵の右前足が粉砕。弾倉を取り替えようとする。ヤツは足を失ってもこちらへ向かってくる。止まる気配はない。


ヤツとの距離は約30m。あっという間に近づかれるだろう。弾倉を取り替える時間はない。

持っていた小銃を捨ててスーツの左腕の榴弾砲を構える。この榴弾砲はマガジン給弾式ではない。この時代に一発ずつ手で込めろというのだ。こいつを外せば命はない。至近距離で確実に当てる。そう考えているうちにもどんどんヤツは迫ってくる。

こい。ぶっ殺してやる。

もう5mもない。今だ。


とっさに目を瞑り、トリガーを引く。

至近距離で撃ち出された榴弾が破裂。つい地面に倒れてしまう。激しい耳鳴り。破片が顔に飛び、いくつもの切り傷ができたのが分かる。痛みがある。俺は生きているようだ。誰かに手を掴まれて起き上がる。


「大丈夫か!」


サバルだ。


「やったな!初めて仕留めたぞ!」


「ああ...ありがとう。でも嬉しくもなんともない。」


「そういうもんさ。持ち場を守るぞ。」


そう言われて俺はさっき捨てた小銃を拾った。

周囲を見る。煙といつからか出てきた霧でニカイドウとオキタ、それに軍曹の姿が見えない。

マガジンを差し込む。仲間の無線を聞くに、他の分隊も続々と戦闘に入っているようだ。ドロイドへの罵詈雑言が飛び交っている。


ほんの数十メートル前に砲兵隊の撃った砲弾が着弾した。泥と瓦礫が勢いよく飛び散る。

まだ敵がいたのか。

すかさず手榴弾を投げる。そして休む暇なく背中に背負っていたロケットランチャーを手に持ち、炸薬をセット。姿も見えない敵に撃ち込む。


しかし、撃ち込んでから数秒経って異変に気づく。おかしい。ドロイドがいないのだ。普通ヤツらは数十体規模の群れになって襲ってくると教官が言っていた。ドロイドがまばらに攻撃をしてくることはない。

航空隊が爆撃を行っていた場所に急いで向かう。

爆撃地点にはぬかるみと瓦礫の他に無数の穴が掘られていた。ドロイドは穴を掘って俺達の陣地へ向かっていたのだ。どうりで数が少ないわけだ。

それと同時に後方の守備隊から救援要請の無線が入り、途切れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る