第25話

黎慈がグラウンドまで戻ると、端の方で談笑している部長が見えた。

黎慈は近づいて行った。

 数十秒歩くと、部長がこちらに気付き手を振っていた。

「おーい、きてきて〜」

 他の部活から注目が集まるほどの声量で黎慈を呼んでいた。

少し気恥ずかしくなった黎慈は、足早に部長の元へ走っていた。

「声でかいですよ」

「ははっ」

 黎慈は一度周りを見渡した。

「休憩中ですか?」

「そう。でも、今日はもう終わりだけどね」

「あれ?意外と早いんですね」

 空はまだまだ明るかった。

周りでも野球部やサッカー部が練習を続けている。

「まあ、そんなマジでやる雰囲気じゃないしね」

「、、、そう言うもんですか」

 部長は空を見上げた。

「みんな予定あるらしいしね。かくいう俺もそうだけど、、、」

「お?彼女さんですか?」

 部長は声を高らかにあげて笑った。

「んな訳。バイトだよ」

 部長はスマホに目をやった。

「じゃあ、最後のメニューいくぞ〜。黎慈もせっかくだしやってくか!」

「ぜひ、お願いします」

 部長の掛け声と共に、近くにいた部員たちが気だるそうに立ち上がった。

最後に200メートルを三本走り込み、黎慈は寮への帰路についた。


寮に着くと、すでに衣百合が座っているのが玄関のガラスから見えた。

 玄関を開けて中に入ると、衣百合は早速黎慈に気がついた様子だった。

「おかえり。今まで部活だった?」

「ただいま。そうだよ」

 黎慈は衣百合が座っているソファーの対面に座り、バックを勢い良くおろした。

二人の間には数秒間の沈黙が流れていた。

「、、、ところでさ」

「うん?」

 衣百合が目の色を変えて黎慈に話してきた。

「どう思う?あの子の存在」

「?どう思うって、普通の生徒じゃ?」

「やっぱそうだよね〜〜」

 衣百合は体を後ろに倒した。

「どういうこと?普通の女の子にしか見えなかったけど?」

「いや〜なんか引っ掛かってるっていうか」

 黎慈は衣百合にため息を吐いた。

「流石に考えすぎ。休息とった方がいいよ?」

「それは黎慈くんもでしょ?」

「目の下の隈、すごいよ?」

「え?」

 黎慈は慌ててスマホでカメラを起動し、自分の顔を見た。

確かに、目の下に隈が出来ていた。

「なんで誰も言ってくれないんだよ、、、」

「流石にみんな気遣うでしょ」

 黎慈は席から立ち上がり、着替えるために部屋に荷物を持って立ち上がった。

「とりあえず、着替えてくるわ。また後で」

「うん」

 そう言って、黎慈は部屋に戻って行った。

部屋の扉を閉めて一人になると、ベッドに着替えずに飛び込んだ。

 ベッドには砂が舞った。

「きたねっ」

 黎慈はすぐにベッドから体を起こした。

そして、すぐに部屋着に着替えた。

 一階まで降りると、衣百合がキッチンで夕飯の仕込みをしていた。

黎慈も手伝うために、キッチンへと向かった。

「手伝うよ」

「うん。ありがと」

 黎慈は玉ねぎの皮を剥くことにした。

「そういえば、景佑くんに連絡した?」

「連絡しておいたよ。今日も夢で落ち合うことになった」

「ふーん、、、」

 なんだか含みがあるような言い方だった。

二人で夕飯の準備をしていると、衣百合がまた話し始めた。

「私も行ってみたいんだけど、、、」

「は!」

 黎慈が手を止めて衣百合の方を見た。

「ダメダメ!」

「でも、、、」

 黎慈は衣百合の肩を手で掴んだ。

「あそこは未知の領域すぎる。あんな所に行かせるわけには行かない」

「わ、分かった。分かったから!」

 少し衣百合が怒っているような気がした。 

顔を見ると、湯気が出そうなくらい赤らめていた。

「ああ、すまん」

 黎慈は咄嗟に衣百合の肩から手を離した。

「もうっ、、、」

 そうしていると、玄関から亮が帰ってきているのが見えた。

「相変わらず仲良いねえ」

そう言って、亮はすぐに上の階へ上がって行ってしまった。

 その様子を見て、さらに衣百合が赤らめていた。

そんな空気感の中、数分すると衣百合が作った料理が出来上がった。

 黎慈はキッチンから料理をダイニングへと運んでいった。

 今日の夕飯は肉じゃがらしい。

運んでいる皿からは食欲をそそられる匂いが漂ってくる。

 ダイニングに料理を運び終わると、亮が降りてきた。

そのまま席に座った。

 三人はいつも通りの食卓を囲んだ。

 そうして、黎慈は一度自室へ戻った。

スマホを確認すると、景佑から連絡がきていた。

“今日はあの中に入ってみないか?“

 あの中とは、夢の核。

外の建物とは一線を画す雰囲気に場所。

“少しだけな“

 黎慈はそう返信し、寝る準備を済ました。

そうして、睡眠に入っていった。

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