第23話

 黎慈は少し早めに起きた。

寝巻き姿でロビーに向かうと、衣百合が朝ごはんの準備をしていた。

 衣百合は階段から降りてくる黎慈に気がついたらしく、こちらに向けて手を振ってきた。

 キッチンまで向かうと、衣百合が「おはよう」と言ってきた。

「今日は起きてくるの早くない?大丈夫?」

 黎慈は睡魔で落ちてくる瞼を擦りながら、頷いた。

「何か手伝えること、ある?」

「大丈夫だよ。ロビーに座ってて」

 黎慈は言われるがまま、ロビーの机に向かった。

ロビーで座っていると、亮が自分の部屋から降りてきた。

 亮は黎慈の向かいの席に座った。

「おはよう」

「、、、おはよう」

 亮はまだ寝足りないとゆう顔をしており、座りながら眠っており、寝ぼけているようだった。

 しばらくすると、衣百合が朝食を運んできた。

衣百合は朝食をおくと、寝ている亮の頭を思いっきり叩いた。

「、、、った!」

「ほら、子供じゃないんだから。あ、身長は子供かも?」

「え、キレそう」

 三人は朝から笑い合った。


学校に着くと、早速朝のホームルームが始まった。

「え〜、今日は放課後に部活動編成があるから、部活に所属してるやつはちゃんと行けよ」

 担任はそう言うと、部活動ごとの集まる教室が書いてある紙を黒板に貼った。

 黎慈は陸上部の件を衣百合に聞くために、昼休みに衣百合がいる教室へ向かった。

 教室へ向かうと、友達らしき女子生徒と昼ご飯を食べていた。

楽しい時間を邪魔することになることを懸念して、教室の前で少し考えていた黎慈だったが、衣百合が黎慈に気がついたらしく、こちらにわざわざ向かってきた。

「黎慈くん、どうしたの?」

「いや〜、今日の部活動編成、どうしようかなって」

「あー、なるほどそうゆうことか」

「ちょっと待ってて」

 衣百合はそう言うと、教室の友達に断りを入れて、昼食を持ってきた。

「ここじゃ話しづらいでしょ?あの空き教室で食べよ?」

「じゃあ、先に行ってて。教室から持ってくる」

「うん、わかった」

 そう言うと、黎慈は自分の教室から衣百合が作った昼食を持って空き教室に向かった。

空き教室には既に衣百合が机と椅子を用意しており、衣百合の対面している席に座った。

「いただきます」

 黎慈はそう言って、昼食が入っている弁当箱を開けた。

「で、部活の件を私に相談したいと」

 黎慈は口に物を入れながら大きく頷いた。

「なるほどね。まあ、結構緩めの部活だし。入ってもいいと思うけどね」

「そんな感じの部活なの?一回しか見学行ってないからあんまり分かってないんだけど」

「めっちゃフランクな感じだよ?とりあえずで入ってみるのはいいと思うよ?」

「そうなんだ。とりあえず入ってみようかな」

「うん。部長と話したと思うんだけど、良い人だから」

 衣百合はそう言うと、弁当箱を仕舞った。

「ところで、そのお弁当美味しい?」

無心で昼食を食べていた黎慈は、あまり味を気にせずに食べていた。

 改めて味わいながら食べると、冷凍食品のような感じがせずに、手作り特有美味しさを感じた。

「美味しいよ。いつも衣百合が作ってくれてるんでしょ?ありがとね」

「黎慈くんと亮に比べて、私には何もないからさ。これくらいしないと」

 衣百合はそう言うと、弁当箱を持ち上げて席を立ち、空き教室の扉の近くまで行った。

「じゃあ、私は少し予定があるから。部活の件、考えておいてね」

衣百合は空き教室を出て行った。

 黎慈も衣百合が作ってくれた弁当を食べた。


 放課後になり、黎慈は陸上部の部活動編成の会場である、C棟三階の実習準備室へ向かった。

 教室に着くと、既に衣百合が黒板の前に立っていた。

 何やら黒板に人数を書いているようだった。

来ている人数を数えているように見えた。

黎慈は前の扉から入ると、席に座っていた数人が見てきた。

「あ!黎慈くん来てくれたんだ!良かった〜。じゃあ、真ん中の席に座って?」

 黎慈は真ん中の列に席に座った。

辺りを見渡すと、どうやら顧問の先生らしき人が見当たらなかった。

 衣百合の言うとおり、本当に先生は適当らしい。

 真ん中の列には、生徒が黎慈の他に二人座っていた。

 しばらく席に座っていると、部長らしき人が話し始めた。

「じゃあ、これから部活動編成を始めます」

 部長らしき人は、列ごとにプリントを配り始めた。

そのプリントには、部活の活動内容と部活の重要役員の名前が書いてあった。

「そのプリントに書いてある通り、俺が部長の桜野 泰雅です」

「それで、私が副部長の羽川 衣百合です」

「顧問の先生はほぼいないようなものだけど。みんなで楽しく活動していきましょう!」

「活動内容はそのプリントに書いてある通りです。じゃあ、解散!」

 そう言うと、部活動編成に来ていた生徒が帰って行った。

最終的には部長と副部長、黎慈だけが残った。

「今年も少ないね、入部人数」

「仕方ないよ。なんせ、学校側が部活を推奨してないし」

 黎慈がいることに気づかずに、黒板を消しながら二人は談笑していた。

黒板を綺麗に消し終わると、二人が席側を向いた。

「あれ?黎慈くんまだいたんだ。いるなら声かけてよ〜」

「君、部活体験に来てくれた子だよね。みんな帰ったもんだと思ってたから、気づかなかったよ」

「俺はこの部活の部長の、、、って名前は前に言ったよね」

「見ての通り、この部活はあんまりやる気がないからさ。黎慈くんも気楽に、ね?」

「俺と衣百合はまだやることがあるから、黎慈くんは先に帰ってていいよ」

「分かりました。では、失礼します」

 黎慈はそう言うと、荷物を持って教室を出て行った。


 次の日、黎慈は初めて部活に顔を出そうと、ジャージで荷物を持ってグラウンドへ向かった。

 グラウンドまで行くと、端の方で練習をしている部長達が見えた。

 部長は早速こちらに気づいたようで、『おーい!』と大きな声で手招きをしていた。

 黎慈が小走りで近づくと、部長が他の部員達に呼びかけていた。

 すると、一同は各自の荷物が置いてある場所に休憩しに行った。

「いやー、初日から来てくれるとは思わなかったよ〜」

「そりゃあ、予定もないですし、、、」

「そっか!こっちに越してきてまだ日が浅いもんな!」

「そうですね〜。色んなところに遊びにいきたいですね〜」

 なんだか会話がぎこちないような気がした。

黎慈に対して気を遣っているのだろうか。

まあ無理もないだろう。

 ここでは、よそ者は煙たがられる存在。

 黎慈はこの環境に慣れてしまっていた。

 そうしていると、衣百合の声が遠くから聞こえてきた。

「おーい、二人とも〜」

その場にいた二人は声がした方向を見合わせた。

 衣百合は小走りでやってきた。

衣百合はこちらの様子を少し伺っていた。

「あれ?少しお邪魔だった?」

 咄嗟に部長が首を横に振った。

「いやいや、んなことないよ」

 黎慈も部長に合わるために、言葉の後に続いて首を縦に振った。

「そう?じゃあ、少しだけ黎慈くん借りていい?」

「?まあ、いいけど」

「良かった!じゃあ、黎慈くんいつもの教室にきてくれる?」

「分かった。また後で」

 そう言うと、衣百合は校舎内に戻って行った。

後ろ姿が完全に見えなくなると、部長が話しかけてきた。

「え?二人ともどういう?」

「まあ、仲間ですかね、、、」

「カップルとかじゃないの?あんまり衣百合から話聞いてないからわからないんだけど、、」

「そんなんじゃないですよ。では、失礼します」

 黎慈は軽くお辞儀し、いつも集まっている教室へと向かった。

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