第16話

 放課後になると、教室に衣百合が迎えにきた。

衣百合は堂々と教室の中に入ってきて、黎慈の席の前までやってきた。

「ほら、行くよ!」

 黎慈は席を立ち上がり、衣百合とともに教室を出て行った。

下駄箱で靴を履き替えた後、黎慈は衣百合にどこに行くのかを聞いてみた。

「で、どこに行く予定なの?」

「まあまあ、とりあえず気にしないでついて来てよ。きっと楽しめると思うからさ」

 黎慈は衣百合に言われるがまま、話しながら目的地へ向かって行った。



数分歩くと、衣百合がおしゃれなカフェの目の前で止まった。

「もしかして、ここ?」

「そうだよ!おしゃれなカフェでしょ?」

 衣百合が店内に入っていくのを見て、黎慈は後を追うように店内に入って行った。

「いらしゃいませ〜。お二人様ですか?」

「って衣百合じゃん!久しぶりだね!」

「うん、久しぶり。ごめんね、あんまり来れなくて」

「いいよいいよ。気にしてないから」

 衣百合と楽しそうに談笑している女性は、黎慈の方を見た。

「あれ?衣百合、もしかして?」

「、、、!違うから!ただの友達!」

黎慈は女性の方を見て軽く会釈をした。

「初めまして。衣百合さんのお友達をさせてもらってます、黎慈と申します。お二人はどうゆうご関係で?」

「ただの友人だよ」

「奥の席にご案内しますね」

 そう言って、店の奥に案内された。

暖簾が掛けてあり、抜けて中に入ると、落ち着いた雰囲気の場所だった。

席は四人分の広さがあり、黎慈と衣百合は対面して座った。

「では、ごゆっくり〜」

 そう言うと女性は、仕事をしに戻って行った。

壁に荷物を掛けてからしばらくすると、衣百合が話しかけてきた。

「久しぶりの休みだったからさ、ちょっとここに顔を出そうかなって。ごめんね?付き合ってもらって」

「気にしてないよ。それより、この店いい雰囲気だね」

「でしょ?分かってるじゃん」

 衣百合は机の上にあるメニュー表を見た。

 そして、いちごケーキを指差した。

「ここのケーキ美味しいんだよ?黎慈くんは、何にする?」

 黎慈も机の上にあるメニューを見た。

1番最初に黎慈の目入ったメニューは、チーズケーキだった。

 黎慈はチーズケーキを指差した。

「これにしようかな」

「おっけ〜」

そう言うと、衣百合はベルを鳴らした。

 数十秒後、さっきの女性が部屋にやってきた。

「はーい。ご注文はなんですか?」

「えっと、いちごケーキとチーズケーキお願いします」

 女性は紙に注文の内容を書いていた。

女性は書いていたペンを胸ポケットに入れ、「少々お待ちください」と言い笑顔で部屋を去っていった。



 衣百合は何か思うところがあるらしく、机に突っ伏した。

「、、、あの子も変わっちゃったなあ。変われてないのは私だけか」

「?」

「ああ、ごめん。こっちの話だから。気にしないで」

 黎慈に気を遣っている様子の衣百合だが、明らかに何かを重く感じているようだった。

 黎慈はそんな衣百合を放って置けず、話を聞く事にした。

「気使う必要ないって。今ままでも色々と悩みを打ち明けてきたでしょ?お互いに」

「、、、確かに、それもそうだね」

 衣百合が少し微笑んだ。

「あの子はね。中学の頃は一言も発さない静かな子だったんだ」

「実際、私も話した事なかったし」

「でも、こうやってバイトとかして自分を変えようとしてる。と言うか、実際に変わった」

「なんか、自分が置いてかれてる気がしてさ。怖くなっちゃった」

 衣百合の目の奥には、悲しみの表情が浮かんでいた。

「大丈夫だよ。まだ変わらなくていいんだよ。時間をかけて少しずつ成長すればいいと思うけどな」

 黎慈は衣百合に失礼な態度を

とったと感じ、姿勢を正した。

「ごめんごめん。偉そうな口聞いて。でもさ、衣百合は十分変われていると思うけどな」

 衣百合の顔に少し笑顔が戻った。

「、、、少しずつ、か。それもそうだね」

 そうして2人で話していると、暖簾が開いてさっきの女性と共にケーキがやってきた。

いちごケーキとチーズケーキを衣百合と黎慈の前に置き、「それでは、ごゆっくり〜」と言い女性は去って行った。

「ここのケーキ美味しいんだよ!」

 衣百合は早速、いちごケーキの上にある苺を食べた。

幸せそうな顔をしている衣百合を見て、黎慈もチーズケーキを口に運んだ。

 そこまでくどい甘さでもなく、それでいてチーズの質感もちゃんとあり、絶品のチーズケーキに黎慈は驚いた表情をした。

 衣百合の方を見やると、依然としていちごケーキを食べていた。




 2人ともケーキを食べ終わり、時計を見ると17時だった。

2人はお代を払い、店を出た。

 他愛のない話をしながら歩いていると、いつの間にか寮に着いていた。

「あはは、、、。いつの間にか着いたね」

 衣百合が寮の扉を開けると、扉の前でいきなり立ち止まった。

「、、、今日はありがとね。一緒に来てくれて」

「俺が一緒に行きたかったから、気にしないでよ」

「嬉しいこと言ってくれんじゃん。でも、本当にありがとね。悩みも聞いてくれて」

 そう言うと、衣百合が中に入っていた。

衣百合はそのままキッチンに向かい、黎慈は自分の部屋に戻って行った。

 そうして、衣百合が作ったご飯を食べ、就寝した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る