第21話

 鳥の鳴く声が聞こえた黎慈は、眠たい目を擦りながら起床した。

スマホを見ると、時刻は午前7時半だった。

 黎慈は制服に着替え、ロビーに向かうと、亮が朝食を食べていた。

「おはよう」

「おー、おはよう黎慈。今日から学校だぜ?月曜日が1番きついわ」

黎慈が辺りを見渡すと、衣百合がいないことに気づいたので、亮に聞いてみた。

「あれ?亮、衣百合は?」

「俺が起きた時にはいなかったな。てか、最近お前ら2人仲良いよな。どう、いい感じ?」

「ただの友達としての付き合いだよ。朝食はどこに置いてある?」

「キッチンに置いてあるよ。しっかし、衣百合も大変だな。こんな鈍感な奴だとは、、、」

 黎慈はキッチンに向かい、朝食が置いてある皿をロビーまで持って行こうとしたら、皿の下に衣百合からの手紙が置いてあった。

『先に学校に行ってます。黎慈くんも早めにきてね。夢について、結果を聞きたいから』

 黎慈は早めに朝食を食べ、亮より先に寮を出た。

学校に着くと、空き教室に景佑と衣百合がいた。

「待たせたな、2人とも」

「遅いぞ」

 黎慈は教室の隅から椅子を持ってきて、衣百合の前に座った。

そして、黎慈は夢の世界で起きたことを話し始めた。

「あの扉の中には、誰かの記憶が入っていたんだ」

「どんな内容の記憶だったんだ?」

「、、、いじめられていたんだ」

 景佑と衣百合が驚きの表情を隠せないまま、黎慈は話し続けた。

「あの記憶が、夢の主人の記憶だとしたら、和寿は、、、」

「、、、」

 皆が下を向いて息を呑む中、衣百合が口を開いた。

「なんか、可哀想だね」

「でも、迷惑をかけているのは事実だ。同情をかけている場合じゃない」

「そうだけど、、、」

 三人の中に沈黙が流れる中、少し間を開けて、衣百合が話し始めた。

「、、、その夢の核の中には夢の主人はいるの?」

暗い顔をした黎慈が話し始めた。

「おそらく、、、」

「確証はないけど、解決に一歩ずつ確実に近づいている。着実に進めて行こう」

「和寿の発言から察するに、タイムリミットは5月下旬だ。それまでには夢の核の最深部に行こうと思ってる」

「時間はまだまだある。まだ4月だ。ゆっくりと、着実に進めていこう」

 黎慈が話し終わり、三人は顔を合わせ、頷きあった。

少しした後、衣百合が話し始めた。

「じゃあさ、少し息抜きにどこかに遊びに行かない?」

「2人とも、夢のことで少し疲れ気味だと思うし」

「無理なら全然大丈夫なんだけど」

 景佑は手を顎に当て、考えている様子だった。

数秒考えた後、衣百合に話した。

「ん〜、俺はやめておこうかな。少し考えたいことあるし」

「黎慈くんは?」

 黎慈は衣百合の方を見て、行くことに決めた。

「特に何もないし、俺は行こうかな」

「わかった。放課後になったら教室に迎えに行くね」

 衣百合はそう言うと、席から立ち上がり、空き教室を後にした。

 黎慈と景佑も、衣百合の跡を追うようにして空き教室を出て行った。

自分たちの教室に向かう途中、黎慈は見覚えのある後ろ姿の女子生徒を見かけた。

 その後ろ姿はおそらく、公園で出会った女子生徒であった。

 景佑とはそこで別れ、黎慈はその女子生徒を追って行った。

教室棟よりも奥に向かっていく女子生徒の追いつき、黎慈は女子生徒の肩を軽く叩いた。

 女子生徒が振り向くと、黎慈の顔を覚えていたらしく、少し嫌な顔をしながら会話を始めた。

「何?」

 黎慈はカバンから公園に置いて行ったハンカチを取り出し、女子生徒に手渡ししようとした。

「これ、公園に忘れてたよ」

「、、、っ!」

 女子生徒はハッとした顔をし、黎慈の手にあったハンカチを受け取った。

「、、、ありがと」

 女子生徒は少し下を向きながら、黎慈に話し始めた。

「ねえ、君はなんで私に構うの?」

「、、、昔の俺に似てたからかな」

「?」

 黎慈はここに来る前の話を始めた。

女子生徒は静かに黎慈の話を聞きながら、廊下の壁に背中をつけた。

 黎慈も、反対側の壁に背中をつけながら話していた。

黎慈の話が終わると、女子生徒は暗い顔をしており、話し始めた。

「そうなんだ、大変だったんだね」

「まあ、それなりにかな」

「それなりって。ふふ」

 笑みが溢れた女子生徒は、黎慈に背を向けた。

「今日はありがとね」

 そう言うと、廊下を歩いて行った。

女子生徒が見えなくなると、黎慈は自分の教室に戻って行った。

 教室に着くと、景佑が寄ってきた。

「さっき上から見てたんだけど、あそこで何してたの?誰かと話してるみたいだったけど」

どうやら上の窓から下の廊下が少し見えるらしい。

「まあ、ちょっと野暮用がね」

 黎慈の話を聞いた景佑は、面白くなさそうな顔で自分の席に戻って行った。

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