第19話

「ようこそお越しくださいました」

黎慈はゆっくりと瞼を開けると、目の前に少女が立っていた。

「お連れ様の場所にお連れしましょうか?」

「ああ、頼む」

そう言うと、少女は何かを唱え始め、数秒後視界が明るくなった。

 目を開けると、景佑が化け物に襲われている途中だった。

 黎慈はすかさず助太刀に入り、難なく戦闘を終えた。

「やっと来たな、黎慈」

「悪い、遅くなった」

「じゃあ、早速向かうとするか。謎の扉の場所に」

そう言うと、景佑が先頭を走り、目的地に向かった。

 何度か化け物との戦闘があったが、特に苦戦することもなく目的地の公園に着いた。

 公園の大きめの広場には、赤く光る扉が見えた。

景佑はその扉がある方角を指差した。

「あれが、例の扉だ」

「確かに、言われた通り化け物が多いな」  

「判断は黎慈に任せる」

「俺も扉の存在を認知できたんだ。一度現実に戻って衣百合を交えて作戦を立てるべきだ」

 景佑は頷き、その場をあとにした。


黎慈が起きた時間は午前9時だった。

 ロビーに向かうと、衣百合が朝食を食べていた。

机には三人分の朝食が用意されており、黎慈は衣百合の向かいの席に座り、朝食を食べ始めた。

「いただきます」

 黎慈が朝食を食べ始めると、衣百合が話しかけてきた。

「なんか夢の中での進捗はあった?行ったんでしょ?」

「景佑を交えて話すことになってるから、その時に話そう」

「わかった。じゃあ、予定開けておくね」

 そう言うと、衣百合は食べ終わった食器をキッチンへ持って行った。

黎慈は朝食を黙々と食べた。

 食べ終わって食器をキッチンへ持って行くと、衣百合が話しかけてきた。

「そういえば、集まる場所って決めてあるの?」

 黎慈は集まる場所の連絡をするのをすっかり忘れていた。

「やべ、忘れてた」

「決まってないなら、ここにしない?ちょうど空き部屋もあるし」

「いいよ。後で景佑に連絡しておく」

 黎慈はロビーを後にした。

自室に戻り、景佑に連絡した。

『衣百合が言ってたんだけど、集まる場所、寮で大丈夫?』

 すぐに景佑から返信が返ってきた。

『問題ないよ。ってか元からそっちに行くつもりだったし』

『了解。後で衣百合に話しておくよ』

 景佑が親指のスタンプを送ってきて、会話は終わった。

 その後、またロビーに戻ると、衣百合が座っていた。

 黎慈は向かいの席に座り、景佑がこちらに来るとゆう話をした。

「そうなんだ。じゃあ、黎慈くんには空き部屋まで案内しようかな」

 そう言うと、衣百合は席から立ち上がり、階段に向かって行った。

黎慈も衣百合についていき、2階の突き当たりまで来た。

 衣百合は鍵でその部屋を開け、中に入って行った。

 中は意外と綺麗にされており、真ん中の机に山積みの本が置いてあった。

衣百合が椅子を持ってきている間、1番上にある本を手に取ってみた。

 タイトルは『数学II 応用編』と書いてあった。

衣百合が椅子を三台持ってきて、黎慈が持っている本を見ながら話し始めた。

「あー、それ。机にあると邪魔だからどけておいて」

 少し不機嫌なのが見てとれた。

黎慈は机の本を床に置き、衣百合が持っている椅子を机を囲むように、適当な場所に置いた。

 2人は座り、黎慈は先の本について衣百合に聞いた。

「さっきの本は?」

「黎慈くんには関係ないよ」

 黎慈は少し間をおいて、衣百合の核心をつく言葉を放った。

「、、、本当は進学したいんじゃないか?」

「だから、関係ないって。その話はしないで」

「どうして諦めたんだ?」

 衣百合は涙目で立ち上がり、声を震わせた。

「うるさいなあ!関係ないって言ってるでしょ!」

 衣百合はまた椅子に座った。

黎慈は椅子を移動させ、衣百合の隣に行った。

 黎慈は今にも崩れそうな衣百合の背中を撫で、話を聞き始めた。

「なんかごめんね。そっか、黎慈くんはわかるんだね」

「私、高校一年生の時は大学に行きたかった。でも、私を育ててくれた大事な人が、もう長くないって知ったの」

「だから、高校卒業したら働くことにしたの。それは別にいいの、問題はその後」

「今年の二月、大切な人が 夢 が原因で死んだの。原因が特定できないって、どの病院に行っても言われた」

「だから、私は黎慈くんたちの仲間に入ったの。ごめんね、私情で」

 黎慈は声を大きくして、話し始めた。

「素敵じゃないか。形はどうであれ、大切な人が消えた理由を知りたい。景佑も同じだ。何にも謝る必要はない」

「衣百合、昨日言ってたじゃないか。正解の道を選ぶんじゃなくて、選んだ道を正解にするって」

「そのためにも、寮の事も、夢の事も、全力で取り組もう」

衣百合は黎慈の言葉で堪えていた涙が溢れてきた。

 数分して衣百合の涙が引いていくと、黎慈に話し始めた。

「いつもありがとね。こんな私を支えてくれて」

「とんでもない。こちらこそ、いつも助かってるよ」

 2人は顔を見合わせて笑い合い、空き部屋を後にした。

2人は景佑が来るまで、ロビーで話していた。

 しばらく話していると、景佑がやってきた。

 2人は景佑を空き部屋まで案内して、早速話し合いを始めた。

「とりあえず、扉までのルートだが、どのルートで行っても化け物と戦うことになる」

「だけど、その扉の先に何があるかわからないから、極力体力を消耗しないようにしたい。その作品を私に立てて欲しいと」

 景佑と黎慈は大きく頷いた。

「戦略かあ。1人を囮にして、そのうちに1人が扉に入る、くらいしか方法ないと思うけどなあ」

「正直、あんなに多い化け物をいちいち処理してたら黎慈と俺は共倒れだ」

「リスクはあるが、それにしか可能性がない、か。できるだけ安全な方法でやりたかったが、仕方ないな。囮作戦で行こう」

「どっちが囮役するの?」

「俺のブラムは遠距離型だ、逃げて攻撃を当てていれば、いずれ処理できるだろう」

「てことは、扉に入る役目は俺か」

「作戦は決まり、って事でいい?」

「ああ、やってやろうぜ。決行日は今日。二年主任、和寿 那喜の記憶を見る」

 景佑が机の上に手を置き、2人にアイコンタクトした。

黎慈、衣百合の番に手を重ねていった。

 景佑の『せーの』の掛け声と共に、手を頭上に上げた。

その後、景佑は帰り、黎慈は夜になるまで部屋で待機した。

 夕食を食べ、シャワーを浴び、部屋に戻ってアイマスクをしてベッドに入った。

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