第18話

 夕食を食べ終わり、景佑は家に帰って行った。

 その後、入れ替わりで亮が帰ってきた。

黎慈は、駅で一緒にいた女子について亮に聞いてみた。

「そういえば、駅で一緒にいたあの女の子は誰?」

「ああ、ただの友達だよ。てか、見てたなら声かけろよな〜」

「流石に気まずいわw」

 そう言うと、亮は自分の部屋に戻って行った。

 黎慈の隣に座っている衣百合は亮がロビーからいなくなったのを確認し、黎慈に話しかけた。

「ねえ、私って本当に2人の役に立ててるのかな?なんかわかんなくなってきちゃった」

 少し涙ぐみながらそう言うと、黎慈の方に寄りかかってきた。

「安心したいの。もう少しだけ、こうさせて」

「亮が来ちゃうよ?」

「大丈夫、後一時間は降りてこないから」

 2人はしばらく他愛もない話をしながら、同じ時を過ごした。

 数十分後、衣百合はシャワーを浴びに行った。

 黎慈は自室に戻り、少し考えをまとめるためにベッドに横になった。

(夢の主人が本当に和寿だった場合、もしかしたら寮のこともどうにかできるかもしれない)

 黎慈はこの可能性に一縷の希望を見出した。


「またあなた様を呼び出してしまい、申し訳ありません」

黎慈はその声で目を覚ました。

 目の前には夢の少女が立っていた。

「今回あなた様を呼び出したのは、夢の世界についての新しい情報が入ったので、お伝えしようと思います」

「つい先日、あなたのお連れの方が一人で夢の中を探索していました」

「私はその方の後を追うようについて行きました」

「すると、、、」

「赤く光っている謎の扉を見つけた、だろ?もう話は聞いている」

「左様でございましたか。では、あの世界についての新情報を一つ」

少女は一呼吸置いてから、話し始めた。

「あの世界は、夢の主人とやらを夢で何かしら手を加えると、現実世界のその人間に影響が出て、性格や言動が変わってしまう」

 黎慈はその言葉に興奮し、席を立った。

「それは本当なのか?」

「100%とは言い切れません。ただ、限りなく100%に近いと思われます」

「ただ、夢の主人を完全に殺してしまうと、現実にも影響が出ます」

「それって、、、」

「はい、ご想像の通り、現実でのその人間は死んでしまいます」

黎慈は再度席に座り、少女の方を見て話し始めた。

「じゃあ、どうすれば?」

「簡単なことです。夢の主人を抵抗できない状態にすればいいのです」

「あなた方が持つ力、ブラムは夢の世界の人間に対して絶大な効果を誇ります」

「その力を使えば、夢の主人を倒せるかもしれません」

「かもって?」

少女は目を落とした。

「夢の主人が持っている力は計り知れません。夢の核の部分がどうなっているのかすらも、、、」

 少女は再び黎慈の方に目線を向けた。

「とりあえず、今日の話は終わりです」

 少女がそう言うと、黎慈の瞼がだんだんと重くなって行った。

「今、この世界を救えるのはあなた方だけです」

黎慈の視界が暗転していった。


 黎慈はベッドで横になった後、少し寝ていたようで、起きた時間は午後23時だった。

 シャワーを浴びていなかったので、ベッドから起きてバスルームに向かった。

シャワーから上がると、ロビーの方から冷たい風が吹いてきた。

 ロビーの方を見ると、庭で衣百合が座っているのが見えた。

黎慈は庭に行き、何食わぬ顔で衣百合の隣に座った。

 衣百合は読んでいた本を閉じて、黎慈に話し始めた。

「ちょっと前にさ、黎慈くん昔のこと話してくれたじゃん」

「なんか、私だけ君のこと知ってるのも不公平だし、私も昔の事、話そうかな」

 衣百合は夜空を見上げ、話し始めた。

「実は私も黎慈くんと同じで、両親いないんだよね」

「孤児院のドアノブにカゴに入った状態でぶら下げられていたらしいんだよね」

「全く、無責任な大人だよね。命を授かったのに、それを放り投げちゃうなんて」

衣百合は憤りに近い感情を露わにした。

「だから、黎慈くんの過去を聞いた時、おんなじ境遇の人がいて嬉しく思ちゃったんだよね。仲間なんだって」

「でも、生まれたことは後悔してないよ。こうしてみんなと会えたし」

 衣百合は口を窄んで、小声で何かを言った。

「、、、キミにも会えたし」

 黎慈はその言葉が聞こえておらず、衣百合に聞き返した。

「え?今なんか言った?」

「内緒!」

 そう言うと、衣百合は口に指を当てながらベンチを立ち上がった。

 そして、また夜空を見上げた。

「小学生までは順調だったんだけど、中学に上がってからかな」

「みんな私に気を使い始めたんだよね。私は普通の学生生活を送りたかっただけなのに」

「しばらくすると、周りに友達がいなくなってた」

「なんか面倒臭くなってたら、偶然この高校に来てたんだよね」

「今思えば、この高校に来たのも何かの運命だったのかもね」

 衣百合は少し笑いを混じったような話し方だった。

衣百合は黎慈の方に振り向き、再度話し始めた。

「なんか、ありがとね」

「俺はなんもしてないよ、衣百合が選んだ道だ」

「そうだよね!決められた正解を選ぶんじゃなくて、選んだものを正解にする。それが人生だよね」

 黎慈は衣百合の発言に頷いた。

「なんか自信がついてきたかも!ありがとね、話聞いてくれて」

 衣百合はそのままロビーに向かう扉に向かった。

 ロビーに戻る前に、衣百合は黎慈に一言言った。

「まだ少し寒いから、ある程度したら戻りなよ?」

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい、衣百合さん」

 そう言うと、衣百合はロビーに戻って行った。

黎慈は火照った体を少し冷ましてから、自室に戻った。

 自室に戻ると、スマホに一件のメッセージが来ていた。

『今日、夢の中に行かないか?』

 メッセージの送り主は景佑だった。

送信されていた時間は21時半。

まだメッセージが続いていた。

『俺は夢の中にいるから、黎慈も気が向いたら来てくれ』

 黎慈は景佑に一応、夢の中に行く旨のメッセージを返信し、アイマスクをつけて寝た。

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