第16話

 黎慈は不思議な感覚に襲われた。

目を開けると、電車の中で出会った女性が目の前に立っていた。

 黎慈が女性に気がついたのを確認すると、女性が話しかけてきた。

「色々と思い出そうとしているようですね」

黎慈は女性の言っている意味がわからず、意図を聞いてみた。

「夢って一体なんなんだ?思い出そうとしているって?教えてくれよ!こっちだけ

何も知らないなんて、そんなの理不尽すぎるじゃないか!」

 少女は安らかな顔で、黎慈に再度話し始めた。

「今は何も知らなくて大丈夫なのです。いずれ時がくれば、全てを知ることになり

ます。あなたとあなたのお仲間についても」

「どうゆうことだよ!」

 黎慈がそう言うと、視界が暗転していった。

目を閉じて意識を失う前に、女性が何かを言っていた。

「今は何も知らなくていいのです。、、、今は何も、、」


 黎慈が起きた時間は午後18時だった。

黎慈はロビーに向かい、夕食を食べる準備をした。

 ロビーにはすでに亮と衣百合が夕食を食べる準備をしており、黎慈も準備に加わった。

 準備が終わると三人は夕食を食べ始めた。

夕食を食べ終わった後、黎慈はこれまでに見た女性の夢について衣百合に話そうと

して、庭のベンチに呼んだ。

 数分後、皿を洗い終わった衣百合が庭に来て、ベンチに座っている黎慈の横に座った。

「話って、何?」

黎慈は今までの女性との夢を話し始めた。

「ふーん、確かに不思議だね。“今は“知らなくて大丈夫、か」

「黎慈くんは、本当に何か大事な使命を持っているのかもね」

 衣百合は話終わると、庭から出ていった。

 黎慈は色々と考えながら、眠りについた。


起きたのは午前11時。

 今日はこっちに来てから初めての休日だ。

私服に着替え、ロビーに向かった。

 ロビーには誰もおらず、机に一枚の手紙が置いてあった。

その手紙の横に、ラップが掛けられているフレンチトーストがあった。

手紙にはこう書いてあった。

『黎慈くんへ。フレンチトースト焼いたから、食べてね。私は部活に行ってくるから』

 黎慈は衣百合の言葉に甘え、フレンチトーストを温め、食べた。

 黎慈はフレンチトーストを食べ終わり、皿を片付けて、部屋に戻った。

特に予定がなかった黎慈は、バスで少し遠出することにした。

 荷物を用意し、黎慈は学校の近くのバス停に向かった。

バス停には同じ学校の生徒だと思われる、おとなしそうな女子生徒が本を読みなが

ら、腰掛けていた。

 休日にも関わらず、制服を着ていたので、黎慈は女子生徒に理由を聞いてみた。

「なんで制服を着ているの?部活?」

「あなたには関係ないでしょ。話しかけないでくれる?今忙しいの」

 黎慈は適当にあしらわれてしまった。

仕方なく、バスが来るまで待つことにした。

 数分すると、バスがやってきた。

2人はバスに乗りこんだ。

「次は、候成山公園前。車内が揺れますので、到着するまで立たないよう、ご協力お願いします」

 黎慈は県内でも1番大きな公園にいくことにした。

数十分乗っていると、車内アナウンスが流れた。

「そろそろ、候成山公園前に着きます。ご降車のさいは、お忘れ物のないよう、お

願いします」

 数分すると、候成山公園についた。

黎慈は荷物を持って、バスを降りた。

女子生徒もここで降りるらしく、黎慈の後に続いてバスを降りてきた。

女子生徒はそのまま公園の方に向かっていった。

 黎慈も女子生徒とは別の入り口から公園に入って行った。

 この公園には大きなプールや陸上競技場、野球球場などがあるが、今日は特に何

もイベントごとがなく、閑散としていた。

 黎慈は公園の中央部の大きな池に向かった。

数分歩くと、大きな池が見えてきた。

 大きな池の中央には、橋で繋がっている休憩所のような建物があり、黎慈はそこ

に向かうことにした。

 池の中央に向かうと、さっきの女子生徒が本を読みながら座っていた。

黎慈はもう一度女子生徒に話しかけようと、近づいていった。

 黎慈が近くまで行くと、女子生徒は読んでいた本を閉じて黎慈の方を見た。

「はあ、、、。まだいたのね。」

「、、、君はいつもここで本を読んでるの?」

「そうよ」

「友達とかは?」

「いらない。いないんじゃない」

「寂しくない?」

「もう慣れっこだわ。あなたも、私みたいな物好きに話しかけるんじゃなくて、勉強でもしたらどう?」

 威圧的な態度を取る女子生徒に、黎慈は少し物腰を柔らかくしながら話し始めた。

「そういえば名前を聞いてなかったよね」

「あなたに名前を教える義理はないわ」

「私、帰るから」

 女子生徒はそう言うと、席を立って公園から出ていった。

 黎慈は先程座っていた女子生徒のベンチに、ハンカチが置いてあるのに気づいた。

  黎慈は女子生徒に届けようとしたが、すでに見える範囲にはいなかった。

 学校で届けるために、仕方なく持ち帰ることにした。

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