第2話

「やーい おこりんぼ」

「やーい えばりんぼ」

「やーい」

「やーい」

「うるせえ!!てめえら羽虫か!顔の周りぶんぶん飛び回りやがって、鬱陶しい!!」

「きゃはは!おこったー!ルシェのおこりんぼ!」

「あはは!こわーい!ルシェのえばりんぼー!」

「しっ、しっ!あっちいけ!!」


ルシェは小さな妖精2人組をぞんざいに手で追い払った。


「ふん……行ったか。…ったく、」


ここはルースター。

メモリアルワールドにおいて妖精と呼ばれる種族が暮らす街だ。

どんな形であれ羽根を持つ者を妖精と定義するらしく、人間からはもっぱら“天使”と呼ばれるルシェも、ルースターに家をあてがわれていた。


1人で暮らすにはガランとして寂しい、古い洋館がルシェの棲家だ。

その屋根の上に不機嫌な顔でどっかりと座っていると、さながら怪物像<ガーゴイル>のようだった。


燃えるような赤髪。

輝く橙色の瞳。

煤けた灰色の布を纏った、

男でも女でもない褐色の身体。


これだけで既に人間離れしているが、オマケに大きな白い翼を背に持っている。


性格は、“天使”に優しさを期待するならば裏切られること間違いなし。口調も振る舞いも粗雑で、基本的にいつも意地悪く口角を上げている。


ルシェは人間が嫌いだが、人間を含む他種族との交流には意欲的だ。

退屈を何より嫌い、常に楽しめることを探してメモリアルワールドを飛び回っている。


それが、この世界におけるルシェの姿だった。


「……お前もさっさとどっか行っちまえ。しっ!」


いつのまにかルシェの隣にとまり、じっと観察するような眼差しを送ってくる梟のことも、手で追い払うとする。梟は表情を変えず、小首を傾げた。


「けっ、まともな鳥ぶってるんじゃねえぜ。なーんか違和感があるんだ。オレ様のカンがそう言ってる。アンタ、誰の回しもんだ?え?答えてみろよ」


むんずと翼ごと胴を掴もうとするルシェの手から逃れ、梟は飛び去った。


「やれやれ、…やーっと静かな夜だ。」


夜は怪物の闊歩する時間。

怪物に捕らわれれば身の破滅、しかし目が合わないようにすれば問題無い。


昼夜を問わず、ルシェは我が物顔で空を謳歌する。


今夜も星が綺麗だ。

最近できた小さな友人達──当然先程の悪戯者達のことではない。ひとりは人間、ひとりは人形だった──と、今朝方少し話した新顔。新顔の種族は聞かなかったが、今夜また会えたなら聞いてみよう。彼ら彼女らは、夜をどう過ごしているだろう?退屈しのぎに丁度良い、今から訪ねてみようじゃないか。


蠢く真っ黒な異形の怪物達を眼下に収めながら、まずは人間の暮らす街、ナータスへと飛んだ。


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メモリアルワールド 黒斐みかん @yoka_showroom

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