第6話 収穫祭②


 2人は三角頭巾とエプロンを着て、しっかりと紐を結んだ。


「中々に似合ってるじゃない。そしたら、今日は一緒にカボチャのケーキを作ります」


 彼女は材料が並ぶカウンターを指で指した。大量のカボチャ、砂糖、卵、パン生地などがずらーっとある。


「まず、カボチャを全て、砕いてペーストにするの」


(この大量のカボチャを……手作業で?)


「あの。魔法で砕いてもいいですか」


「魔法? あなた、魔法が使えるの?」


物質を炸裂させる魔法デストラクリオン


 レインが放った一撃によって、カボチャは外側の皮から中身までバンッ!と粉々に砕け散り、厨房全体にカボチャが飛び散った。


 サーシャは大はしゃぎしているが、レインは気まずそうに一言呟いた。


「……こっ。こういうこともある」

「さーーーーて。レインちゃん。ふつーーーにペーストにしましょーーーねー?」

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「次に砂糖を加えましょう。均一になるまでしっかり混ぜてね」


 おばさんの言葉に従い、レインとサーシャは慎重に砂糖を加え、ミキサーを動かし、ボウルの中のカボチャと砂糖が、ふわっとしたクリーム状に変わっていく様子に、驚いていた。


 その後も順調にケーキ作りを進めていき、オーブンの工程に差し掛かった。


「最後に、オーブンで焼き上げます。焦げないように気をつけてね」


 おばさんがオーブンの温度と時間を教え、レインは慎重にケーキをオーブンに入れた。


 焼き上がりを待つ間も2人は他の菓子を作るのを楽しんだ。


「さっ、焼けたわよっ!」

「すごおーー!」

「デカい……」


 さっきまで、平だったケーキ生地はふんわりと仕上がって、厨房全体にカボチャの甘い香りが漂っている。


(……意外と形になる)


「ケーキ作りで一番大切なのは、愛情を込めることよ」


おばさんが言いながら、そっとレインの肩に手を置いた。


「ただの材料を使っているのではなく、一つ一つの工程に心を込めることが大事なの。食べる人がその愛情を感じてくれるからね」


(愛情か……。私は今日誰のためにケーキを焼いたんだっけ)


「ケーキを作るとき、家族や友人、そして自分自身への思いやりを込めて作ると、自然と美味しいケーキができるのよ。今日はその第一歩を踏み出したのだから」


 隣のサーシャを見た。サーシャは満遍の笑を浮かべながら、レインに抱きついてきた。


「そっか、私。この子のために」


「レインー。そろそろ時間だから、お外いこー!」

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菓子作りが終わって、外に出ると辺りはすっかり夕暮れになっていた。街のムードは完全にお祭りとなっており、カリーナとアーシュの2人も戻ってきた。


 「だーーー、疲れた……。魔物と戦うよりも疲れる」


 と、アーシュはぼやいている。彼の体力は限界に達していた。


 一方で、カリーナは木こりと仲良くなって、楽しそうに話をしている。


 街の広場には、色とりどりの装飾が輝き、屋台がずらりと並んでいる。人々の笑い声と歓声が響き渡っていた。


「レイン、こっち!」


 サーシャに手を握られて、レインは屋台へと駆け込んでいった。


「まずは、あの屋台に行こーーー」


サーシャが指差す先には、射的の屋台があり、射的の景品には、かわいらしいぬいぐるみや色とりどりのお菓子が並んでいる。


(ナイフを投げて、中心に刺さればいいのか)


「おじさん! サーシャこれやるー!」

「サーシャちゃんは、まだ子供だからねー。そっちの嬢ちゃんならいいよ」


(困ったな。ナイフなんて魔力以外で飛ばした経験ないよ)


 どうやら、サーシャは一番左のぬいぐるみが欲しいらしい。レインは店主にバレないように、魔力操作でナイフを飛ばして、見事に的に命中させた。


次々と的に当たり、サーシャは嬉しそうにぬいぐるみを手に取った。


 その後、二人はご飯屋さんなどの屋台を巡り、お腹がいっぱいになるまで楽しみ、最後に2人で作った特大のカボチャケーキを頬張った。


 時間が経つと、街の伝統的な踊りも披露され始まる。音楽に合わせて踊る人々の姿は美しく、レインもサーシャに手を引かれて、その輪に加わることになった。


 踊りを終えて、2人は街の噴水近くに腰をおろした。


「はーーーーっ、今日は楽しかったー! ありがとーお」


「私も楽しかった。今日は久しぶりに楽しかった」


 少し照れくさそうに、レインは言い放った。


「最後にお願いがあるんだけど、レインの冒険のお話が聞きたいなぁーー!」


「いいよ。どこから話そうか。南の国の王様が捕まった話とか、ゾンビ退治とか、妖精の泉が実は悪霊の泉だったとか」


「ぜーーーんぶ!」


 サーシャでも分かるように、冒険の話をおとぎ話風にしながら会話した。


「そうだ。最後に私からサーシャへプレゼント。これ」


「これはー?」


「流星の砂をガラス細工で閉じ込めたネックレス。お互いがこの砂を持っていると、生きている限りは世界のどこに居ても、再びまた巡り会えるっていう代物」


「そしたら、私がボウケンシャになったら、レインとまた会えるのー?」


「会えるよ。約束」


 サーシャは満足そうな顔をして、レインの服に顔を埋めるようにして抱きついてきた。


「約束!! 私ねー今日は巫女みこさんの役をやらなきゃらなんだって、お父さんのところに戻らなきゃ。レインも私のお巫女さん姿みてて」


「わかった。行っておいで」


「うんーーー!」


 サーシャはネックレスを身につけて、レストランの方へと消えていった。


「こんな物渡すなんて……私は何を期待しているのだろう?」


 噴水に映る自分の顔を見ながら、自問していた。自分でも、サーシャに取った行動の意味がよく分かっていない。


 夜が更けるにつれ、お祭りのクライマックスである巫女の踊りがやってきた。その踊りの美しさにレイン、カリーナ、アーシュは息を呑みこむ。


「この街にきてよかったね。2人とも」

 

 カリーナが言い放った。


 3人にとって、今日の光景は永遠に忘れられない思い出となった。自分の心の中の何かを突き動かすような、そんな予感がしていた。

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〜次の日〜


「昨日はぐっすりだったなぁ。さぁて、皆んなに挨拶して、街を出ようか」


 3人はレストランの2階から、1階に降りて行き、オーナーに挨拶をした。


「昨日はありがとうございましたー! 収穫祭とても楽しかったです」


「そうですか、それはそれは……」


 どことなく違和感を感じ取った。店全体が陰湿な空気に包まれている。


「サーシャにお別れを言わないと。サーシャはどこですか?」


 レインが父親にサーシャの事を聞いた。すると、父親は表情を変えずに笑顔で答えた。




「サーシャ? サーシャって……誰です?」

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