15 「放置されたくない」



「買い物、ですか?」


「俺私服ワンパターンしかないんだよ」



行ったこともない沖縄のTシャツ。


毛玉だらけの高校のジャージ。


大学もそれで通っていたし、休みの日はその姿で雀荘に行く。


さすがにあれでデートはまずいと思う。


合コンに呼ばれる時だって、聖也に「絶対スーツで来い」と言われるくらいだ。



「今日仕事終わったら服買いに行こうかなって。ファッションとかよくわからないし、俺に似合う服選んでよ」


「何で私が...」



聖奈があまり乗り気じゃない。


どうしよう。


女の人に選んでもらった方が良いと思ったのに。


母さんは夜仕事だし。


聖奈ならマリアと仲が良いらしいから、マリアの好みもわかりそうなのに。



「お前がデブだった頃の写真、皆に見せようかな」



確か実家にあるはず。


幼稚園の頃の写真が。



「行きます」



少し脅しただけで聖奈は行くと言ってくれた。


変な奴。


太ってたのなんて、子供の頃の話なのに。


人に見られてもいいだろ、別に。


今は可愛いんだから。



「じゃあ、にーやと私で相談して選びますね」


「聖也はいいよ、あいつ忙しいし。飲みの予定多いし」



なんで聖也がついてくるんだ。


聖也のことは好きだが、毎回一緒もだるい。



「でも、今日にーや予定ないかもしれないし」


「嫌なの? 俺と2人きりは」


「嫌です」



即答する聖奈。


...これって好き避け?


それとも、聖奈が俺のこと好きだなんて、勘違いだったのか?



「もういい」



試してみよう。


俺は不機嫌を態度に出して、秘書室に入る。


聖奈が俺のこと好きなら、放っておかないはずだ。


俺だったら、好きな人が不機嫌そうにしているのを放置しない。



「課長おはようございます」



皆が俺に挨拶する。


軽く朝礼をして、いつも通り全員に仕事を振った。


聖奈はまだ何も言ってこない。


意地悪してやろう。


俺は昨日の倍の仕事を、聖奈にメールで指示する。


反応が気になって横を見ると、連絡を読んだ聖奈と目が合った。


それでも何も言ってこない。


ただ眉をハの字にしてるだけ。


俺は無視して仕事を始めた。

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