14 「機転」



「「おはようございます」」



俺と聖奈も、慌てて頭を下げる。


父さんは鞄と、猫用のキャリーを持っていた。


遂にメンマを会社に連れてくるようになってしまったか...。



「三人揃って何をしている?」



父さんは眉を顰める。



「愚妹が秘書課で働くことになりましたので、私の方からも明堂課長に挨拶をしておりました」



聖也が真っ先に答えた。


さすがだ。


父さんに物怖じせず、機転を効かせるとは。



「昨日から入ったのだろう? 昨日のうちに挨拶しなかったのか?」


「はい。私は昨日、出張から東京に戻られました専務を車でお迎えし、その後は役員会議に同席しておりましたので時間が作れず。

次の日になってしまいましたが、直接挨拶するべきだと思い、明堂課長と話をしていたところです」



俺達はただコンドームの付け方を話していただけなのに、上手く返せたものだ。


父さんがそれ以上の何かを言う前に、聖也は妹に挨拶をさせた。



「聖奈、専務にも挨拶を」


「昨日から秘書課に配属されました雷門聖奈です。明堂専務には愚兄がお世話になっております。未熟ながらも精一杯頑張りますので、宜しくお願い致します」



父さんは黙ったまま、聖奈に軽く頭を下げた。


そのまま役員室に入って行く。



「じゃ、そろそろ始業時間だから。後でお店ピックアップして送るわ」



聖也はそう言って父さんの後を追った。


カッコイイ。


聖也が男女問わず人気なのは、ああいう器用なところなのだろう。



「お店? どこか行くんですか?」



聖奈が俺の方を見る。



「今度マリアとデートする」


「えっ!」



あからさまに嫌な顔をする聖奈。




「...にーやのバカ。なんでアシストするのよ」



下を向いて独り言を呟いている。


聖奈...俺のことそんなに好きなのか?


昔はあんなに俺のこと避けていたのに。


なんだか調子狂うな。



「お前今夜ヒマ?」



俺がそう聞いてやってるのに、聖奈は俯いたままだ。


その頭に向かって俺は手でチョップする。



「いたっ! なんなんですか!」


「俺の買い物付き合ってよ」

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