10 「動揺」


父さんは聖奈のママと昔色々あって、かなり嫌っている。



「あの女の娘が明堂家に入ると思うとゾッとする。絶対に許さないからな」



何度聞いたかわからない言葉にうんざりする。


父さんが聖奈ママを嫌うのは勝手だが、聖奈も同じように嫌うのはやめて欲しい。


俺が知る限り、聖奈は素直で良い子だ。




「そういえば...お前、彼女はいるのか?」




父さんの突然の質問に動揺した。


俺の恋愛事情なんて、今まで聞かれたことがない。



「いないけど...なんで?」



話すネタもないのだから、俺から恋バナをすることも無かった。



「いや、お前くらいの歳に俺は結婚したから...」



父さん、ごめんなさい。


恋愛の始め方がわからないです。


約1週間前、マリアと連絡先を交換したが、その日に当たり障りのないメッセージを送り合っただけで、以来何もやりとりをしていない。


連絡先を聞いた後は皆どうしてるんだ?


『おはようございます。今日も良い天気ですね』って送るか?


それが気持ち悪いことは俺でもわかる。


過去に、どうでもいい女に興味の無いない日常を送られて、げんなりした経験がある。


自分がされて嫌だったことは、相手にしたくない。



その時、俺のスマホの通知音が鳴った。


食事中のスマホは基本的に禁止だが、仕事の大事な連絡かもしれないので、内容を確認することだけは許されている。


画面を見ると、ちょうどマリアからのラインだった。



『帝翔さん、今度一緒にごはんでもどうですか? 二人きりで(*^^*)』



手が震える。


マリアからお誘いが来るなんて...う、嬉しい!



「女か?」



父さんにそう言われて、思わずスマホを落としそうになる。



「にやけてたぞ」



俺は手で口を隠す。


否定しようと思ったが、やめた。


父さんに嘘をついても、いつもバレてしまう。



「どんな女だ?」



何も悪いことはしてないのに、父さんの目が怖い。


俺はとりあえずスマホを置いた。


どんな女?


なんて言えばいいんだ。


マリアは高卒。


服屋の販売員。


顔は美人だが、スペックで見れば平凡だ。



「えっと...キャメロン・ディアスみたいな人」



悩んでやっと出た言葉がそれだった。

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