7 「俺のおかげ」


「お前、昔はデブだったから。いじめられて、よく泣いてたもんな。可哀想に」



今はスラリとしているが、幼稚園の頃は太っていた聖奈。


顔も体もまんまるで、髪の毛はおかっぱ、その姿はまるで...。



「サモ・ハン・キンポー」


「やめてください!」



聖奈は俺を睨むが、タレ目だから怖くない。



「俺がつけてやったあだ名思い出しちゃった。サモ・ハン・キンポー」


「思い出さないでください!」



聖也がジャッキー・チェン好きで、子供の頃よく一緒に映画を見ていた。


サモ・ハン・キンポーは、昔のジャッキー映画によく出演していて、俺は好きだった。


動けるデブ。


名前の響きもいい。


本当によく似ていたのに、小学校に上がる頃にはもう痩せていた聖奈。



「まだ子供だったのに...お菓子も我慢して、運動も始めて...それでちゃんと痩せるなんて偉いよ」



聖奈はまだ俺を睨んでいる。



「先輩が1番私をデブいじりしたんです。すごく嫌だった! 私...先輩を黙らせたかった!」


「へぇ...じゃあ俺に感謝して」


「はあ?!」


「俺のおかげで可愛くなったってことでしょ」



聖奈は無視して、仕事を再開した。


下唇を噛んでいる。


何故そんなに怒る?


俺は事実しか言ってないだろ。


なんとなく帰りづらい。


俺は自分の席に座り直して、聖奈の仕事を横で見ていた。



「お先に失礼します」



他の部下が次々に帰っていく。


気付けば俺と聖奈だけになってしまった。



「...帰らないんですか?」



暫く無言だったが、先に沈黙を破ったのは聖奈だ。



「いや...なんていうか」



謝るか?


でも何に対して?



「...俺は可愛いと思う」



俺がそう言うと、聖奈は顔を赤く染めた。


林檎みたいに真っ赤だ。



「な、なんなんですか、急に...!」



聖奈はどう見たって照れている。


さっきまで怒っていたのに。


やっぱり聖奈は俺のことが好きなんだ。



「可愛いのはお前じゃなくて、ちゃーらいおんの方ね」



そうからかってやると、また怒ってしまった。



「早く帰って!」



左手で俺のカバンを持って、右手で俺の腕を掴んで部屋を出る。


そのままエレベーターに押し込まれた。



「お疲れ様です!」



聖奈はそう言ってフロアに残り、エレベーターの閉じるボタンを押した。

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